pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

薬の説明書(薬剤情報提供書)とノセボ効果

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Nocebo effects of a simplified package leaflet compared to unstandardised oral information and a standard package leaflet: a pilot randomised controlled trial
Trials. 2019 Jul 26;20(1):458. PMID: 31349865

パイロット研究ですが、興味深いテーマでしたので、ビジアブ先出し。
地域医療ジャーナルで取り上げるかも~?ってことで、ここでは詳細は触れません。
全文フリーなので、研究の中身が気になる方は原著をご覧くださいm(._.)m

【コロナ禍の音楽イベント】感染対策で感染者増加を予防できるかを検証したランダム化比較試験

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Same-day SARS-CoV-2 antigen test screening in an indoor mass-gathering live music event: a randomised controlled trial
Lancet Infect Dis. 2021 May 27:S1473-3099(21)00268-1. PMID: 34051886.

音楽好き必見!
超重要文献!

さっそくビジアブにしてみました。
結果だけをみると、音楽イベントやってもヨシ!という気分になるのですが、しっかりと論文の中身をチェックしましょう。

まず参加者の募集ですが、音楽イベントに関するニュースの購読者から募集したそうです。
音楽を聴きたくてウズウズしている人から応募したんですね。

とはいえ、だれでも参加できるわけではありません。
年齢の上限は59歳。集まった参加者の平均年齢は34歳なので、若い人が集まったのでしょう。
また、高齢者と同居している人は除外です。
当日の熱が37℃以上、10日以内の感染疑い症状、基礎疾患がある人や、14日以内に感染者と接触歴がある人も除外されています。

イベント当日の朝に抗原検査を実施し、陰性だった人だけが試験に参加できます。

参加資格のある音楽大好き人間たちをランダムに2群に分けます。
年齢、性別、コロナ感染歴の有無で層別化したようです。コンピュータを使用してますね。

盲検化は不可能なので、当然のことながらオープンラベルの試験です。


音楽イベント開催時は2020年12月12日(ワクチン導入前ですね)
研究実施時の当地の状況は、「6人以上の会合は禁止」「屋内外でマスク着用」などの制限あり。

イベント開催場所はスペインのバルセロナ、Sala Apoloという箱です(Clubs | Sala Apolo)。
収容人数は900人ということなので、ぎゅうぎゅうにしたわけではないですね。参加したのは500人以下ですから(医療行政による規制のためとのこと)。
参加者は全員、N95マスクを着用
注目すべきは、「メインフロアではソーシャルディスタンスをとらなくてもいい」とされています。さらに「歌っても、踊ってもよい」と。実際どんな感じだったかわかりませんが、知らん人とハグしたり、ハイタッチしたり…みたいなこともあったんですかね?動画アップしてくれればいいのに~。

屋外には20人収容の喫煙所があり、ここではマスクをはずしていいのですが、セキュリティがいて、ソーシャルディスタンスをとるようにしており、密にならないようにしたとのこと。

そして、なんと「アルコールあり」です。飲酒はバー(1600人収容)でのみ可ということなので、フロアでの飲酒は不可だったみたいですね(ageHa@新木場を思い出した人、ぼくと握手!!)。飲酒時はマスクをはずしてOKです。バーエリアは広いみたいなので、密にはならなかったんですかね。

フロアには窓がないため、出入り口のドアはすべて開放
ビジアブにはわかりやすく換気扇のイラストを載せましたが、実際は出入り口の開放という手段をとったみたいですね。
ホール内のCO2を測定して、チェックしてたみたいです。

イベントは、DJプレイとライブアクトで計5時間。踊り疲れるのには十分な時間ですね。しかし、デイイベで5時間か…(オールのイベントではない)。
→ただ、参加者みんながみんな5時間ずーっといたわけではなく、滞在時間の中央値は2時間40分です。

プライマリエンドポイントはビジアブのとおり、イベント8日後の感染です(PCR検査で確認)
イベントから8日後に再検査した理由は、イベント中に発生した感染を拾うのに最適なのだそうです(PMID32296168,PMID33503337など)


結果は、パーティ群で0人、GoHome群で2人
イベント参加者で感染者は出なかったようです。
スタッフ58名についても検査しており、全員感染者なし。

ちなみにCO2濃度は閾値を越えることはなく、出入り口の開放でうまく喚気できていたみたいです。

脱落者についてビジアブにつけたしました。
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なるほど。ツレがGoHome群になっちゃって、「じゃあ、オレも行くのや~めた!」て人がいたんですね。
たしかにランダム化されるので、友達と一緒に行こうぜってなっても片方しか選ばれない可能性があるというわけか…。となると、友達同士で参加した人は少なかったのかな…。会話の量は通常時と比べて減るんでしょうか…?気になるところ。


自分が一番気になる点を挙げます。
パーティ群が0人なので、ホール内の予防対策がこれで完璧とは言えないのでは?という気もします。もし、そこに無症候感染者がいたらどうなっていたかが重要ですよね。拡大していたかも。たまたま無症候感染者がいなかったのであれば、予防策が完璧じゃなくても感染は発生しませんからね。
そして、もし無症候感染者がいたとして、抗原検査できちんと引っ掛けられたのかどうかも不明です。
イベント当日の抗原検査(Ag-RDT positive)はパーティ群もGoHome群も0人だったそうです。

・抗原検査できちんと"漏れなく"感染者を引っ掛けられるのか
・もしすり抜けて感染者がフロアに入った場合、感染が拡大しないのか

この2点の検証についてはもう少し慎重に行った方がよいと私は思いましたがみなさんはいかがでしょうか。


さて…、
自分は誰よりも激しく音楽イベントの再開を望んでいますが、しっかりと評価させていただきました。
良い結果は良い結果なんでしょうけど、たまたま問題が起きなかっただけという可能性を拭えないような気がします。
もし、参加者の中に無症候感染者が数十人いたとして、抗原検査で全員拾いきれるのか。
もし万が一、すり抜けてしまった場合、感染は拡大しないのか…。
うーん…。やっぱりコロナを制圧する前に大型屋内イベントを開催するのは時期早々かなぁ…(涙を拭きながら…)


まあね、われわれにはワクチンがありますから!
コロナのやつらを制圧するのはこれからっすよ!


~最後にひとりごと~

居酒屋でマスク外して、飲んで食べて大騒ぎするのに比べたら、音楽イベントのほうがよっぽど健全で安全だと思うのですが、いかがでしょうか…(震え声)
この研究では「歌ってもよい」としたようですが、個人的には「歌うのはやめれ」と思います。
マスクして、踊りまくるだけなら、飲食よりも安全じゃないのかな??
問題は密閉した空間に大勢集まるってことですかね。出入り口をあけたら、音が漏れちゃうので近所迷惑っていう…。

このあたりについて、感染症専門家や公衆衛生の専門家はリスクをどう評価なさっているのでしょうね。

まあ、自分は医療従事者なので「遊び」が解禁されるのはまだまだずーーーーーっと先になるんでしょうけど…(嗚咽)
(そもそも遊んでいるヒマはないという説もある)


あっ、もうひとつ付け加えて起きます。
研究を実施した先生方と研究に参加したバルセロナの音楽大好きなブラザーの皆様には深々と感謝!
貴重なエビデンスをありがとう!

                                • -

2021年7月12日 追記

https://www.irishtimes.com/news/world/europe/at-least-180-infected-after-dutch-disco-despite-showing-covid-19-certificates-1.4611870
オランダのクラブで180人感染…

やっぱり感染者がいたとしたら、こうなる恐れがあると…

【意識調査】腎機能に応じた用量調整(2014年発表の日本の報告)

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Awareness and current implementation of drug dosage adjustment by pharmacists in patients with chronic kidney disease in Japan: a web-based survey
BMC Health Serv Res. 2014 Dec 3;14:615. PMID: 25464858

ADDR(adjustment of drug dosage according to renal function):腎機能に応じた薬剤投与量の調整


日本のWEB調査の報告です!

「ADDRを実施している」と答えた割合は薬局薬剤師より病院薬剤師の方が多いという結果。
調査実施期間は2013年の5月ということで8年前のデータですね。
2021年現在だとどうでしょうね。この差は縮まっているのでしょうか?

WEB調査なので、回答してくれた薬剤師はADDRに関心がある傾向にあるかもしれませんので、実際はもっと低いという可能性もあるでしょう。2013年のころの自分はどうだったかな…?と思い返してみたのですが、まったく記憶にございませんでした。昨日、何を食べたのかも覚えていない私が2013年の業務状況を覚えているはずがないのですッ。


ADDR実施にあたっての障壁となる原因として、病院と薬局で大きな違いが見られたのは、「クレアチニン値などの患者の腎機能に関する情報が入手できない」です。たしかに! 
ただ、最近では処方箋に検査値を載せている病院もあり、この問題はゆくゆくは解決するかもしれませんね(先の話になるかもしれないけど)。


腎機能低下例に対する不適切な用量によって副作用を起こした症例を経験している割合は、病院薬剤師の方が圧倒的に多いです。
入院患者さんの方が、副作用を起こしやすい重篤な症例が多いでしょうし、使用する薬剤も外来とは異なるでしょう。注射の抗菌薬など、薬局では扱わないような腎機能に注意が必要な薬の使用が多いことも一因かと思います。
しかし、私はそれだけが理由ではないと思っています。「薬局では副作用を起こしてしまったことを知らないままである」という懸念がありますね。例えば過量投与で別の病院に搬送されたりしたら、フィードバックがない限り、副作用を起こしたことを知らないまま…という可能性があります。

過量投与で副作用に繋がってしまった経験があれば、ADDRを実施する意義がその身に深く刻まれると思います。クレアチニンなどの情報の入手が困難な場合があるのは確かですが、その意義を知っているかどうかで、「患者情報入手困難」といった障壁を乗り越えようと努力するかどうかが変わってきますよね。「この薬を過量投与するとマジでヤバい」ということを認識できているかどうかは重要だと思います。

というわけで失敗例から学ぶ的な意味で、副作用症例をしっかりと情報共有することが大事なのかなと思いました。私も最近ちょくちょく腎関連の研修や勉強会に参加していますが、バラシクロビルの処方箋を見ると、反射的にビビってしまうカラダになってしまいました。自分自身が副作用症例を経験していなくても、教育を受けたことで、過量投与するとヤバイ薬だということが、この身に刻み込まれたのです。この太り始めたカラダに「バラシクロビルは腎機能に要注意!」という紋章が…!

というわけで、やっぱり意義を理解することが一番大事なのかなぁ~というのが個人的な印象です。

本研究は全文フリーの論文であり、ほかにもさまざまなデータが載っていますので、ぜひとも原著論文をご覧くださいm(._.)m