pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

鉄剤にビタミンCを併用すると貧血が改善しやすい?

貧血で鉄剤を投与するときに、吸収をよくするためにビタミンC(シナール®とか)をかぶせるという処方を見たことがあるかと思います(最近はあまり見ないですかね?)。

消化管から吸収されるのは「Fe2+」なんですが、「Fe3+」に酸化されてしまいます。
これを防ぐのがビタミンC(アスコルビン酸)、「Fe2+」に還元することで吸収率が上がるという"理屈"です。

では、実際のところ臨床的に治療効果に違いがあるのでしょうか?
いままでこれを検証したRCTは存在しなかったようなのですが、新しいエビデンスがでました。

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The Efficacy and Safety of Vitamin C for Iron Supplementation in Adult Patients With Iron Deficiency Anemia: A Randomized Clinical Trial
JAMA Netw Open. 2020 Nov 2;3(11):e2023644. PMID: 33136134

結果は、ビジアブのとおり2週後~8週後までヘモグロビン値に有意差はありませんでした。
ほんのちょっとだけ、併用群の方が数値が改善傾向ではありますが、臨床的な影響はほとんどなさそうです。

胃腸障害を起こすのは「Fe3+」ではなく、「Fe2+」と言われており、ビタミンCを併用することで胃腸障害のリスクが増加するかも!?という話を聞いたことがあるのですが、

胃もたれ・胸焼け・吐き気」の頻度は、併用群13.64%(30人)、単独群13.18%(29人)でした。

とくに増加してないようですね。

有効性だけでなく安全性についても、ビタミンC併用による大きな変化はなさそうです。


外的妥当性について考えてみましょう。

本研究の被験者の中で最も多かったのが、子宮筋腫子宮内膜症による出血に伴う貧血でした。
被験者のほとんどがふつうに食事がとれている人たちでしょうから、食事がとれなくて栄養状態がよくないような経口摂取不良の患者さんだとどうなるかは私にはちょっとわからないですね。食事内容によっては何らかの違いが生じるんですかねぇ?

あとは鉄剤の種類です。
本研究で投与された鉄剤の種類は「コハク酸第一鉄(ferrous succinate)」という日本では発売されていない製剤です。
日本の製剤は下記のとおり

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日本の鉄剤だとどういう結果になるのかはちょっとわかりかねますが、クエン酸第一鉄(フェロミア®)については報告があります。

クエン酸第一鉄ナトリウムによる鉄欠乏性貧血患者の治療効果に対するアスコルビン酸の併用効果
医療薬学2004 年 30 巻 5 号 p. 326-329

症例数の少ないレトロスペクティブ(後ろ向き)の調査ではありますが、アスコルビン酸を併用してもとくに違いはないように見受けられます。
フェロミア®はキレート化しているクエン酸が還元作用を有するため,アスコルビン酸の併用によっても吸収効率は変わらない」
クエン酸第一鉄は、酸性から塩基性に至る広いpH域に溶解し、従来のイオン型鉄剤と異なり,鉄イオンを放出しないで低分子ポリマーとして吸収されるので,相互作用を受けにくい可能性がある」
また、「『妊婦の鉄欠乏性貧血における乾燥硫酸鉄(鉄として100mg含有)の投与試験において,乾燥硫酸鉄単独投与群とアスコルビン酸200mg併用群における赤血球数,ヘモグロビン濃度,ヘマトクリット値の改善効果を比較検討した結果,投与開始2週後, 4週後,および投与終了2週後における両群間での有意差が認められなかった』という研究結果もある」との記述あり。硫酸鉄でもそんなに影響ないみたいです(そちらの原著は目を通してないですが)。

クエン酸第一鉄については、エーザイさんのサイトでも「フェロミアは、鉄と鉄吸収促進物質であるクエン酸との化合物であるため、特にビタミンCと併用する必要はない」と言及されています。
https://faq-medical.eisai.jp/faq/show/1552?category_id=56&site_domain=faq


というわけで…、
ビタミンCを併用する意義はほとんどなさそうな印象です(汗)
再考を要するテーマかなぁと思います(もうほとんどの施設で併用されていないかもしれませんが 汗)

【サージカルマスク】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防効果は?

Ann intern medから気になる論文が!

この論文の結果(Result)だけが一人歩きしそうだなぁ~と思ったので、取り上げておきます。
結論&感想を先出ししておきますが、このエビデンスによりマスクが無意味だと結論づけるものではないと個人的には思います。ただ、劇的な効果を示せなかったのもまた事実。それはなぜなのか考えてみたいと思います。

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Effectiveness of Adding a Mask Recommendation to Other Public Health Measures to Prevent SARS-CoV-2 Infection in Danish Mask Wearers : A Randomized Controlled Trial
Ann Intern Med. 2020 Nov 18. doi: 10.7326/M20-6817. Epub ahead of print. PMID: 33205991.

場所はデンマーク
ビジアブには載せていませんが、この試験を実施したときのデンマークがどんな感じだったのかというと、
2020年4~5月ごろ、デンマークではマスク着用は推奨されていなくて、病院外でのマスク着用率は5%未満だったとのこと。
推奨されていた公衆衛生対策は、感染者の隔離、ソーシャルディスタンス、頻繁な手指衛生と清掃、受診者数の制限など。

研究の流れと結果はビジアブのとおり
感染率が2%→1%に低下するであろうという見込みは達成されず、有意差なしとなりました。

重要なポイントであろうと思って、アドヒアランスを記載しています。
マスク着用といっても、推奨どおりの着用は半数くらい。


さて…
世の中にはいろんな人がいます
マスクなんてつけるべきではない!という過激派(?)みたいな人たちもいることでしょう。
おそらく、このエビデンスを振りかざして、マスクに効果はない!と声高に主張するんじゃないでしょうか。一般向けのメディアでも、そういう記事がアップされて注目を浴びるかもしれません。

そこで、一足先に医療従事者としてしっかりと見解を述べておきたいと思います。


【私の考察】
では、個人的な見解です(ここから書くのは事実ではなく、単なる私の意見です。事実と意見の違いは明確に)

まず、この当時のデンマークの状況を目で見たわけではないのでなんともいえないのですが、論文に記載されているとおり、当時のデンマークはマスク推奨されておらず、病院外の着用率は5%未満とありました。
介入群の人たちがマスクを着用して外出しても、ほとんどの人たちがマスクをしていないわけです。
周知のとおり、マスクは双方が着用することで効果を発揮するのだと私は認識しています。
この点はちょっと不利だったんじゃないかな~と思いますね。

日本の会食でのクラスター発生の報告(https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/covid19-26.pdf)では、「マスクを着用していても、十分な距離を保てない状況下でマスク着用がない客と会話等密接な関わりをした場合、完全に感染を防ぐことができない可能性がある」と指摘されています(実際に感染例あり)。

この論文の著者も「コミュニティ内でのマスク着用を全員に推奨しても、SARS-CoV-2感染の減少には効果がないと結論付けるべきではない」と考察で述べています。


また、一方では、デンマークの当時の状況はソーシャルディスタンスは実施されていたようです。当時のことをいまいち覚えていないのですが、かなりやばかった時期ですので、ディスタンスは守られていた時期なんじゃないかと。そうなると、マスクが効果を発揮しにくい距離感だった可能性もあります。
カフェやレストランは2020年の5月18日までは閉鎖されていたとのことで、外食をしない時期に実施されたRCTってことですよね。

みんなの気がゆるんで日常が戻ってきて、じわじわと感染が増えてきたころに、このRCTが実施されていたらどうなっていたのかが個人的には気になります。できることなら、クラスターRCTがいいでしょうね。コミュニティ内に介入群と対照群が混在するのではなく、コミュニティごとに分けた方が…。ただ、マスク必須ということが世界的な共通認識として確立しつつあるこの状況でそんなRCTを実施するのは困難な気がします。

マスクの効果が大規模なRCTで実証されなかったのは残念ですが、この結果を見て、マスクをしなくていいという気持ちにはなりませんでしたね。RCTは内的妥当性が高いとされる研究ですが、こういった研究に参加すると、マスク非着用の参加者も手洗いとかソーシャルディスタンスへの意識付けが向上したりというバイアスの可能性もあるかもしれません。
論文のなかで言及されてましたが、マスクをしているから安心って感じで、他がずさんになる可能性も指摘されていました。マスクは数々の感染対策のひとつにすぎないので、さまざまな対策を講じてガードを固めていくしかないのかなぁ~っていう感じですね。

最初はマスクするのが嫌だったんですが、慣れてしまえば別にどうってことないですし(暑い時期はちょっと嫌ですけど)、コロナはただのかぜと違って、ガチでやばいですから、アウトカムの重要度を考えると、やっぱりマスクをしたほうがいいんじゃないかなぁと個人的には思います。

うーん…、どうでしょうか。偏った意見ですかねえ~。
これについてはいろんな意見がでることでしょう。あらゆる意見に耳を傾けることは大事だと思います。

というわけで、長くなってきたのでこのへんで。

今週はなにをトチ狂ったか、月曜日から毎日ビジアブをつくってブログにアップしています。
急にどうしてしまったのだろうか…。謎です…。
別に楽しいことがあったわけでも、急に意欲が沸いてきたわけでもない…。
ただの気まぐれですね。
(講演の予定もなく、原稿がひと段落しているので、ブログを書く余裕があるというだけの話っていう説が濃厚)

DOACとP-gp阻害薬[ベラパミル/ジルチアゼム]の併用→出血リスクは?

ph-minimal.hatenablog.com
以前、DOACの相互作用に関するネタを取り上げました。
これについてはなにがなにやらサッパリわけがわからん結果となっていましたが、個人的にちょっと気になっていたベラパミルとの併用について調べた観察研究の論文を循環器科領域に詳しい先生から教えてもらったのでビジアブ化しました。

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Association of Oral Anticoagulants and Verapamil or Diltiazem With Adverse Bleeding Events in Patients With Nonvalvular Atrial Fibrillation and Normal Kidney Function
JAMA Netw Open. 2020 Apr 1;3(4):e203593. PMID: 32329770

バイアスを減らすため、腎機能正常でDOACの用量をフルドーズ(海外なので日本と用量が違うところもある)で服用した患者のみ選定しています。エドキサバンは調査対象外みたい。

静脈血栓塞栓症(VTE)は対象外で、非弁膜性心房細動(AF)が対象です。
腎機能低下のない患者ということで、非高齢者の割合が過半数

大出血から軽度の出血までさまざまなアウトカムが載っているのですが、overall bleeding rateのみ抜粋しました。
アピキサバンとリバーロキサバンは出血イベント増加はみられず
ダビガトランが有意に増加という結果


以下、ディスカッションより抜粋

ベラパミル、ジルチアゼムは中等度~強度のP糖タンパク(P-gp)阻害薬(CYP3A4の阻害薬でもある)

FDAによると、ベラパミルはダビガトランと同時併用で143%AUC増加、2時間間隔をあけて併用で18%増加
RE-LY試験では、P-gp 阻害により大出血イベント発生率がやや増加傾向(150 mg 投与では 4.12% vs 2.96%、110 mg 投与では 3.99% vs 2.38%)

ダビガトランのP-gp阻害薬併用時のFDAの推奨は
・腎機能正常→減量推奨なし
・Ccr30~50→75mg×2回
・Ccr30未満→併用は非推奨

欧州では、ベラパミル併用時は、腎機能に関係なく減量推奨


もうちょっと詳しくDOACの違いを調べたいところ。

【ダビガトラン】
・バイアベイラビリティが低い(10%未満)
・排泄:腎80%(代謝はグルクロン酸抱合で、CYPの関与はなし)
・P-gpの基質
・酸性下で吸収/溶解、制酸剤で吸収低下。臨床上は影響ない?(AHAのレビューでは投与量調整不要、consider spacing regiments by 2 h [5])
・各種薬剤との併用におけるAUC変化リスト[2]のFigを見ると、ベラパミルの影響はそれほど激増していないようにも見えるけど…1.7倍くらい?(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7403169/figure/Fig4/


【リバーロキサバン】
・バイオアベイラビリティよい(80%以上)
・(10mgを超える投与量の場合)空腹時投与だと吸収が落ちる
・腎からの排泄30~40%(腎からの排泄は糸球体ろ過は6%のみ、P-gpとBCRPによる活性分泌が主なメカニズム[2])
・P-gpの基質
・CYP3A4/5, CYP2J2の基質
・各種薬剤との併用におけるAUC変化リスト[2] Fig6 ベラパミル1.5倍くらい?
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7403169/figure/Fig6/


【アピキサバン】
・BAは50%くらい
・CYP3A4の基質(20%くらい)
・腎排泄20~30%
・排泄のバランスがよいとの指摘あり[2]
direct secretion into fecesってことで糞便中への排泄(動物実験データより)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/core/lw/2.0/html/tileshop_pmc/tileshop_pmc_inline.html?title=Click%20on%20image%20to%20zoom&p=PMC3&id=7403169_40262_2020_879_Fig1_HTML.jpg
・各種薬剤との併用におけるAUC変化リスト[2] Fig2 ベラパミルのデータはないけど、ジルチアゼム1.3倍くらい
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7403169/figure/Fig2/


エドキサバン】(本研究では検証されてないけど、ついでに)
・BA50~60%
・腎排泄50%[2][3](35%?[1]) (ろ過されるだけでなく、P-gpも関与[2])
・CYP3A4の基質(10%未満)
・各種薬剤との併用におけるAUC変化リスト[2] Fig5
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7403169/figure/Fig5/


AUC変化リスト[2]がアツい!!!
で、これをみると、ダビガトランがベラパミル(orジルチアゼム)の影響が大きいけど、ほかも影響を受けているので、ダビだけAUC激増しているわけではない…
しかし、出血イベント有意増加は3剤のうちダビのみ。まあ観察研究なのでいろんな要素がこんがらがってそうな気もしますが。


DOACの薬物動態に関しては引用[2]が勉強になりますが、複雑すぎて頭の中からプスンと空気が抜けるような音がしました。ほんっとに複雑。

引用[5]がAHAのPractical Guideなので、実用的かなぁ。
腎機能ベース、あるいは体重ベースでのフローチャート(Fig1、Fig3)があってアツい。
Table3,4もいいですね。肝機能低下時の対応。Child Pughベースで各薬剤の対応がまとめられてます。


DOAC沼…、ややこしすぎる。
みなさん、どうしてんの?

こりゃ、1日でまとめられるような内容ではないですね。もうお手上げだ。
パパッとピックアップしたのが下記の5文献ですが、もっともっとチェックすべきレビュー文献はたくさんあるのでしょう。DOACムズすぎぃ~!!

疲れたのでもう休みます。。。


[リファレンス](a.k.a あとで詳しく読むリスト)

[1]
直接経口抗凝固薬(DOAC)の特徴と使い分け 日医大医会誌 2018; 14(3)
https://www.nms.ac.jp/sh/jmanms/pdf/014030113.pdf

[2]
Drug-Drug Interactions with Direct Oral Anticoagulants
Clin Pharmacokinet. 2020 Aug;59(8):967-980.PMID: 32157630
Drug-Drug Interactions With Direct Oral Anticoagulants - American College of Cardiology

[3]
Select Drug-Drug Interactions With Direct Oral Anticoagulants: JACC Review Topic of the Week
J Am Coll Cardiol. 2020 Mar 24;75(11):1341-1350.PMID:32192661
https://www.jacc.org/doi/full/10.1016/j.jacc.2019.12.068?_ga=2.92626333.1052011269.1605688169-1018733787.1605688169&

[4]
Drug-drug interactions with direct oral anticoagulants associated with adverse events in the real world: A systematic review
Thromb Res. 2020 Oct; 194: 240–245.PMC7417902

[5]
Direct Oral Anticoagulant Use: A Practical Guide to Common Clinical Challenges
J Am Heart Assoc. 2020 Jul 7;9(13):e017559.PMID: 32538234.