pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

物忘れにオンジは有効? 

話題のオンジ(遠志)製剤について。

OTCで売られているんですねー。
効能は?
「中年期以降の物忘れの改善」

な、なんと…これは自分に必要なものなのではないか…。
そう思ったのは私だけではないはず。

漢方メーカーさんのサイトに飛んでみると、まあそれっぽいことがいろいろ書いてあります。
「心(しん)」だとか「血(けつ)」だとか、何度、読み返してもまったく頭に入ってこないので、私、物忘れ以前の問題かもしれません。

で、ハロウィンの日に出された厚生労働省通知がこちら
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T171106I0020.pdf

そう。
そりゃ、そうなりますよ
物忘れに効くだなんて表示されてる一般用医薬品があれば、認知症に効くんだ!と思いますよね。

物忘れと認知症は違うということでリンク先へ飛んでみると、
正常な物忘れと認知症による物忘れの違いなんてものが書いてあったりするんですけどね…

「"正常"な物忘れ」ってなに?
それは病気なんですか?症状なんですか?

"正常"な○○に医薬品が有効ってどういうことなんでしょうね。自分にはよくわかりません。
なんらかの異常があって、それを薬で治療するんじゃないの?
屁理屈をこねるんじゃない!と言われそうですが(汗)

まあ、年相応に物忘れが増えていくという現象を防げるなら、それはそれで凄いので、"本当に"オンジが物忘れに効くのかPubってみましょう

オンジの英語名は…
日本薬局方を確認してみると、
オンジは、イトヒメハギPolygala tenuifolia Willdenow(Polygalaceae)の根又は根皮だそうです。

Pubってみると、いろいろ出てきたので、Clinical Trialで絞り込むと2つの試験が出てきました。

Effects of BT-11 on memory in healthy humans. - PubMed - NCBI
Neurosci Lett. 2009 Apr 24;454(2):111-4.PMID;19429065
DB-RCT
P:healthy humans
E:BT-11(オンジに含まれる成分らしい)
C:プラセボ
O:The Korean version of the California Verbal Learning Test (K-CVLT) and the Self-Ordered Pointing Test (SOPT)
試験期間:4週

被験者数がアブストに載ってないですね。
アウトカムがよくわかりませんが、assess verbal memory and working memoryってことなので、記憶力を評価するためのテストのようです。

プラセボよりも結果がよかったそうなのですが、どの程度よかったのか一切書いてないのでフルテキスト読んでみないとなんともいえませんね。


BT-11 is effective for enhancing cognitive functions in the elderly humans. - PubMed - NCBI
Neurosci Lett. 2009 Nov 13;465(2):157-9. PMID;19699261
Roots of Polygala tenuifolia Willdenowの抽出物のBT-11はVitroで inhibited acetylcholinesterase activitiesがあると。
DB-RCT
P: the elderly humans(認知機能がどうかはアブストに記載なし)
E:BT-11-treated group (n=28)
C:the placebo-treated group (n=25).
O:the Consortium to Establish a Registry for Alzheimer's Disease Assessment Packet (CERAD) and the Mini-Mental State Examination (MMSE).

ようやく馴染みのあるアウトカムがでてきました
MMSEはどうだったんでしょうね。
が、しかし…。アブストにMMSEの結果は記載なし。
記載がないってことは駄目だったんでしょうか。

CERAD scoresはよくなったと書いてあります。
結論には高齢者の認知機能(記憶力を含む)を増強でき、疾病の治療や予防にも有益じゃないかとまで書かれています。

フルテキスト読んでみないとなんとも評価しがたいところですね
ちなみに、これらはどちらも2009年の報告。
それ以降、続報は無し…。


これだけではちょっとなんとも言えないような気が。
Pubmedでこれしか見つからなかったので、オンジを認知症患者に投与したRCTはどうやら存在しないみたいですね。
(やってみたけどネガティブだったから報告されていないという可能性はある)


ところで、OTCの効能効果の承認とかまったく知らないのですが、厚生労働省が認めたってことですよね?オンジには中年以降の物忘れに効果があると。
その根拠ってなんなんでしょ。

薬生審査発1225第6号「生薬のエキス製剤の製造販売承認申請に係るガイダンスについて」(平成27年12月25日付)
https://www.pmda.go.jp/files/000209984.pdf
オンジ、載ってますね。
根拠を見てみると、Pubって見つけた上記のRCT2つが筆頭に載っており、他は文献はClinical Trialではない模様。
いわゆるRCTはこの2つしかないということですね。

効能効果を認めたということはこれらのRCTの質は問題なかったということでしょうか。
俄然、全文読んでみたくなりますね。

ただ、オンジは中年期以降の物忘れに効能効果を認めつつ、認知症の予防や治療には効果を認めていないというのが厚生労働省の見解。
2つ目のRCTの背景に記載されていたように、コリンエステラーゼ阻害作用が作用機序だとしたら、認知症にもいけそうな気がしなくもないですが、もちろん臨床試験をきちんと行わないといけません。
そもそもコリンエステラーゼ阻害薬の効果はどの程度かっていうと、けっこう微妙なところですよね。莫大な医療費をつかってルーチンで延々と投与する価値のあるものなのかはきちんと吟味する余地がありそうな気もしますが。。。

ちなみにこのオンジという生薬は人参養栄湯に入っているそうです。
認知症にも効くという触れ込みでこの漢方を売り込んでいるメーカーさんがいるとかいないとか…。

Effect of ninjin'yoeito, a Kampo (traditional Japanese) medicine, on cognitive impairment and depression in patients with Alzheimer's disease: 2 ye... - PubMed - NCBI
Psychogeriatrics. 2016 Mar;16(2):85-92.PMID:25918972
みなさまのところにも、こんな文献の結果を都合よく利用して、メーカーさんがアピールしにきますよ~。
Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive component-Japanese versionとかいうスコアが改善したらしいですが、ランダム化も盲検化もされていないですし、MMSEは有意差無しですからね。慎重に評価しましょう。

プラセボ効果を上回るレベルの有効性があるといえるかどうか、個人的にはまだ保留ですね。
認知機能が落ちている患者さんで、人参養栄湯の適応となるような病状の場合、認知機能にもいいですよー!とプラセボ効果を狙うのはアリなのかなぁ…という気もしなくもないのですが、みなさまいかがでしょうか?

さて、今回の記事の内容も、1ヶ月もすれば私の頭の中から消え去りそうな予感。
忘れるって必ずしも悪いことではないような気がするんですけどね(勉強したことを忘れるのは不味いですが)
長いこと生きてきたら、そりゃあ嫌なことがたくさんあります。生きるための防衛本能として、忘れる=嫌なことを消去するという機能が備わっているんじゃないかと肯定的に考えてるのですが、強烈な嫌な出来事はさすがに忘れることができないかもしれませんね。ただ、鮮度は薄れていくとは思います。
自分の記憶力が天才的によかったら、ちょっとした失敗も永遠と覚えていてクヨクヨするかもしれません。天才なら失敗しないかもしれませんが…。

年相応に物忘れが増えていくことを病気として問題視するかどうか…、というのが今回の主題かもしれません。
私はやむをえないと思うので、小規模DB-RCTで効果アリとなっていても服用しませんね。劇的に効くとは思えないですし。
重要なのは、自分の物忘れが増えてきたということを自覚し、対策できているかどうか、でしょう。
業務上、物忘れは大きな問題となりますが、いろいろと根回しをすれば良いんです(十分できてないですが)。
たとえば、年に一度の提出物とか、たまにやる業務ありますよね。2年に1回とかもう絶望的です(行政関係の更新とか)。はい、もう絶対忘れる。
自分は次にこの手続きをやるときの自分のために、スケジュールに入れておきますし、やり方も残しておきます。絶対忘れるとわかっているので。未来の自分へのメッセージですね。「おおお!ありがとう昔の俺よ!」と歓喜することがしばしば。

このブログだって、自分のために残しているようなものです。そういえばこの件は調べてブログに書いたような…と思って検索すると、おお、調べてあるゥゥ!ってなりますし。検索機能もアツいですよね。ブログ以外にもアプリで管理していますが、PMIDを検索するのは必須。いざ読もうと思ったら、過去にチェック済だったりして…。

認知症のケアで大事なのは、とにかく薬を飲ませろ!ということだけが大事なのではなく、まわりのケア・サポートが大事であるのと同じで、物忘れのケアとして大事なのは、日常に支障をきたさないような未来の自分への対策ではないかと思う今日この頃です。
(あっ、今日○○を買うの忘れた。。。明日、買いに行かなくては。買いに…。明日の自分にメールを…)

高齢者の転倒防止について SR&MA(JAMA2017.11)

https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2661578

背景:人口の高齢化により、転倒の発生率は増加しつづけている。
目的:転倒防止の介入の有効性を評価。

データベース:MEDLINE, Embase, Cochrane Central Register of Controlled Trials, and Ageline databases from inception
(リファレンスもサーチしている)

期間:2017年4月までの研究
対象とする研究デザイン:転倒防止の介入のRCT
対象者:65歳以上の高齢
アウトカム:Injurious falls and fall-related hospitalizations

<結果>
スクリーニングにより283RCTを同定
54RCT(41596名)を解析

通常ケアと比較したinjurious fallsの減少は以下の通り

①運動exercise
オッズ比OR 0.51 [95% CI, 0.33 to 0.79]; absolute risk difference [ARD], −0.67 [95% CI, −1.10 to −0.24])

②運動+視力評価/治療combined exercise and vision assessment and treatment
OR, 0.17 [95% CI, 0.07 to 0.38]; ARD, −1.79 [95% CI, −2.63 to −0.96]);

③運動+視力評価/治療+環境評価/修正combined exercise, vision assessment and treatment, and environmental assessment and modification
OR, 0.30 [95% CI, 0.13 to 0.70]; ARD, −1.19 [95% CI, −2.04 to −0.35]);

④包括的な管理、Ca補給、VD補給
OR, 0.12 [95% CI, 0.03 to 0.55]; ARD, −2.08 [95% CI, −3.56 to −0.60]


入院を減らせるか検討したRCTは2つ
包括的な管理により、OR0.78 [95%CI、0.33 〜1.81]


結語
Choice of fall-prevention intervention may depend on patient and caregiver values and preferences.


いわゆるネットワークメタアナリシスです。
アブストラクトのみ閲覧可能。
②よりも③の方が効果が小さいからといって、環境評価をしなくていいとは言えないように思います(個人の感想ですが)。ネットワークメタアナリシスの評価は難しいですね。
さまざまな要素が「転ぶ」というアウトカムに繋がりうるので、やはり多面的なサポートが有用なのかなぁという印象を持ちました。

転倒防止のRCTはたくさん実施されているようなので、時間があれば各試験の論文も読んでみたいところですね。個人的には環境調整の効果が気になる…。

それにしても、この論文の結語がいいですね。
患者さんおよび介護者の価値観や好みによりどのような対策を行うか選択すると良いといったことが書かれていて、そういうの大事〜!と思いました。

脳卒中後の嚥下機能評価は早期に行った方が良い?

またまた嚥下のおはなし。

Early Dysphagia Screening by Trained Nurses Reduces Pneumonia Rate in Stroke Patients: A Clinical Intervention Study. - PubMed - NCBI
Stroke. 2017 Sep;48(9):2583-2585.

背景
嚥下障害は脳卒中のコモンな症状であり、誤嚥、肺炎のような重篤な合併症を引き起こす
早期の嚥下障害スクリーニングはこれらの合併症を減少しうる。
多くの施設では言語聴覚士(ST)が実施するが、週末や休日はSTがしばしば不在なため、嚥下障害の評価が遅れる

なるほど。STさんは土日お休みのことが多いと。
そこで、看護師さんが代わりに評価しようっていうのがこの研究の趣旨のようです。
早期のスクリーニングにより肺炎を減らせるなら凄いことです。


スクリーニング方法はこれ
Dysphagia bedside screening for acute-stroke patients: the Gugging Swallowing Screen. - PubMed - NCBI
Stroke. 2007 Nov;38(11):2948-52. Epub 2007 Sep 20.PMID:17885261
フルテキスト読めます(読んでないですが)
20点満点で高い方が嚥下機能良好


では、元の論文に戻って…

P:脳卒中急性期患者384名
平均年齢72歳
National Institutes of Health Stroke Scale score(NIHSS) 中央値3

E:pre-intervention n=198
C:post-intervention n=186
O:肺炎、入院期間

ランダム化の記載なし
comparable regarding age,sex,and stroke severity
ということで、年齢、性別、重症度については両群に差はない模様


ちょっと脱線してNIHSSについて
脳卒中の急性期に関わることのない薬局薬剤師としては、42点満点で3点と言われてもピンとこないですね。
NIHSSの項目は、
意識レベル
注視
視野
顔面麻痺
四肢麻痺
失語
構音障害
など。
42点満点で3点ですので、多少麻痺が残っていたりという程度の軽症の患者さんということですね。
(NIHSSによる転帰予測を検討した研究では、0〜6点を軽症として分類しています。理学療法―臨床・研究・教育 Vol. 17 (2010) No. 1 P 31-36)


<結果>
pre-intervention群はスクリーニングまでの時間が中央値7時間、post-intervention群は20時間
何日も評価が遅れたというわけではないようです。

肺炎発症率は、3.8% vs 11.6%(p=0.004)
入院期間(中央値)は8日vs9日(p=0.033)


入院期間は有意差ありといっても1日程度です。ほとんどかわらない気もしますが患者さんにとっては意義のある差なのかも…?
肺炎発症率の差がすごいですね。NNT13ってことですよね?ま、マジか…。半日程度はやくスクリーニングをしただけでこんなに差が出るものなのでしょうか…。

個人的にはランダム化の記載がない点が気になります。重症度や年齢が同じくらいといっても、いろいろ患者背景に差があるかもしれないので、NNT13という驚異的な結果には議論の余地があるかもしれません。
この試験は「やる・やらない」の比較ではなく「早いvs遅い」の比較です。肺炎減らせるかもしれないから、どうせやるならなるべくはやく評価しようぜってところでしょうか。そして、訓練をすれば看護師さんでもスクリーニング出来る、というのがこの報告から得られる知見かと思います。

個人的に気になるのは、土日勤務の看護師さんもお忙しいかと思いますので、そんな余裕がない!という悲鳴が上がるのかな…なんて。病院勤務経験がないので、ちょっと想像できかねますが、看護師さんのマンパワーが足りるのかどうかが気になるところですね。

実際のところ、脳卒中患者さんの嚥下機能の評価ってすぐに行う施設が多いんですかね。STさんの知り合いとかいないので、よくわからない…。病院勤務の方々とも交流を持って、もっといろんな職種の方々と情報交換していきたいですね。そのためには人見知りの壁をぶちこわさなくては…(遠い目)。