pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

COPDと歯周病の関係とICSの影響

Risk of Periodontal Diseases in Patients With Chronic Obstructive Pulmonary Disease: A Nationwide Population-based Cohort Study. - PubMed - NCBI
Medicine (Baltimore). 2015 Nov;94(46):e2047 PMID:26579813

研究デザイン:population-based cohort study
コホート:National Health Insurance claims data of Taiwan

COPDの有無は歯周病periodontal diseasesに影響するか?

E:COPDあり 22332名
C:COPDなし 43762名 同コホートよりランダムに抽出。年齢、性別、診断年をマッチ。
O:歯周病periodontal diseases
(この場合、Pってなんでしょうね。コホートのPECOってぶっちゃけよくわからない…。"成人"か…?)

Multivariable models were adjusted for age, sex, and the comorbidities of hypertension, diabetes, hyperlipidemia, asthma, CAD, CKD, and stroke
歯周病に影響しそうな他の因子は…?
これだけで足りるのか、正直よくわかりませんがいったん保留

結果にいきましょう。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4652822/table/T2/
年齢別・性別のデータがありますが、Totalの調整HRは1.2(95%CI 1.15-1.25)

これだけでは絶対リスク差がわかりにくいので、Fig1。
COPD無しの場合、10年間でCummulative incidenceが0.2くらいですね。目測ですが、COPD有りだと0.23~0.24ってところです。


気になるのはやはり交絡の層を剥がしきれているのかどうか、という点です。
歯周病のリスク因子についてちょっと調べてみましょう。
Int J Dent. 2014;2014:182513.PMID:24963294
J Periodontol. 1996 Oct;67(10 Suppl):1041-9.PMID:8910821
これらと本研究で調整された因子を見比べてみると、やはり致命的なのは喫煙でしょうか。

喫煙は歯周病のリスク因子として重要とされており、これを調整しないでCOPD歯周病のリスクとなるとは言えません。
そもそもCOPDの方々は喫煙率が高いと容易に想像できます。

これは、もしや喫煙の影響を示しただけでは?という気もしますね。

まあ、もちろん、この点は論文の著者も言及しており、喫煙のデータは得られなかったとのことです。


その分野の専門外、かつ統計もよくわからんって人(←つまり、わたくし)が論文を読んで、ここがおかしくない!?ていう指摘はたいてい著者もわかっており、ディスカッションで言及されてますよね。

まあ、それはさておき、なぜこの論文に着目したかというと、歯周病に吸入ステロイドが影響するのかが気になったためです。
そちらはTable4。

COPDコホートをさらに3つに分けています
risk of periodontal diseases
吸入ステロイド(HR 1.22, 95% CI 1.11–1.34)
全身性ステロイド(HR 1.15, 95% CI 1.07–1.23).

当然、これも喫煙の有無は調整されていないので、ステロイド使用患者に喫煙者が多い可能性もあり(その逆もありえるが)、なんともいえないところですが、ちょっと気になるデータですね。


観察研究は解釈が難しいですが、やはりデータベースの情報量の重要性を再認識させられます。
ここに、喫煙のデータがあれば、もっと正確なデータが得られたと思います。

これは台湾のデータですが、日本はどうでしょうね。
日本のレセプトデータは個人的には使えないだろうと思っています。
それは病名が…(以下略)

そうそう、交絡因子についてですが、併用薬剤(CCBや、唾液分泌を減少させる薬剤など)なども重要ですよね。
肥満も調整したほうがいいかも。肥満そのものが影響ってより食生活の反映かもしれませんが(間食しまくり!でもその都度ハミガキしてないんじゃ!?みたいな)
あとは骨粗しょう症についてもリスク因子として指摘されているようです。

観察研究はわけがわかりませんが、自然とそのアウトカムとされた疾患の背景知識の勉強になるなぁという印象。
交絡を検討するうえでは、その疾患のリスクファクターを調べないといけないですからね。調べざるを得ないっていう…。

さて、まとめですが、、
もしICSが影響するのであれば、吸入後のうがいは歯周病予防にも繋がる可能性があるかもしれないという感じでしょうか。
ガラガラうがいだけでなくプクプクうがいもきちんと行ったほうが良さそうですね。やって損はないですから。

喘息の吸入薬は虫歯の原因になる?

Effect of anti-asthmatic drugs on dental health: A comparative study. - PubMed - NCBI
J Pharm Bioallied Sci. 2016 Oct;8(Suppl 1):S77-S80.PMID:27829752

研究デザイン:case-control study

Case:Fifty-five children aged 6–14 years using a daily combination of inhaled β2 agonist and corticosteroid medication only, for at least 2 years
Control:The same number of age-matched healthy controls
(抗菌薬投与や歯科矯正治療の患者は除外)
アウトカム:correlation between the Streptococcus mutans, Lactobacillus and dental caries in both the groups
(dental caries=虫歯)

虫歯の評価は、DMFT指数で。

唾液サンプルで培養。

<結果>
DMFT
case:4.53
control:1.51

培養結果から、細菌数もcaseのほうが多かった模様。


さて、この研究は、小規模なケースコントロールスタディなので、交絡因子の調整は一切されていない点に注意が必要ではありますが、かなりはっきりとした差がでています。
喘息がリスクとなるのか、ICSやβ2アゴニストの吸入薬が影響しているのか…。

よくわからないので、ディスカッションを流し見

β2 agonists and corticosteroids cause a substantial fall in oral pH and a decrease in salivary flow rate.[
ほう。口が渇くのはLAMAだけかと思っていたら…、そうでしたか。。
pHと虫歯との関係はちょっとわかりませんので、ちょっと調べてみると、pHが低い、つまり酸は虫歯のリスク因子となるようですね。カットオフはpH5.5だそうです。
食事によりpHが低下するようですが、唾液の働きで中性に戻ると(唾液分泌が少ないとpHが戻りにくい!?)。間食が多いと虫歯になりやすいのは、酸に晒される時間が長くなるのも一因なのかも。

論文にもどります。
One of the main reasons for an increased prevalence of caries in asthmatic children could be the reduced salivary flow coupled with increased levels of Mutans streptococci and Lactobacillus in saliva
唾液、大事なんですね。

The results of our study support the hypothesis that asthmatic children undergoing treatment with short-acting ß2-agonists may have an increased risk of caries.
唾液減少を招くのはICSっていうよりSABA,LABAって感じみたいですね。

ICSについてはあまり詳しく論じられていないようですが、影響はあるのでしょうか?
細菌の増加に影響しそうな気もしますが…。

この研究だけではなんとも言えませんが、ひとつの知見として覚えておきたいと思います。
それにしてもLABA入りの吸入剤で口が渇くというお子様には出会ったことがないなぁ…。あまりこちらから問うことはなかったのですが、意外と乾きを感じているんでしょうか。

ちょっと調べてみましょう
サルメテロール/フルチカゾンプロピオン酸エステル(アド○ア)の添付文書をと…
口内乾燥:頻度不明
つ、つかえねー。あいかわらず役立たずの資料ですね。

Serious Asthma Events with Fluticasone plus Salmeterol versus Fluticasone Alone. - PubMed - NCBI
N Engl J Med. 2016 May 12;374(19):1822-30.PMID:26949137
フルチカゾン・サルメテロールvsフルチカゾンの安全性を評価したRCTです。
12歳未満は含まれていません。
研究デザインなどはすっとばして有害事象を…

ま、まさか…。
なんと軽微な有害事象の詳細は一切載っていませんでした。。。
本文に有害事象のTableはなく、NEJMお得意のサプリメンタリ…
しょうがないなとそちらを開いたら脱落にいたるような有害事象しか載っておらず、局所への軽度な副作用などの詳細は一切載っていません。
Adverse events leading to withdrawal from a study treatment were reported in 165 of 5834 patients (3%) in the fluticasone–salmeterol group and in 180 of 5845 (3%) in the fluticasone-only group
ということなので、サルメテロールかぶせても全体的に有害事象の増加は無さそうですが、詳細が知りたかったですね。実際にはそういう軽度の有害事象も重要だと思うんですが、プラクティカルじゃない論文ですね。流し見ですが、合剤も安全だからどんどん使ってね!という意思が強く伝わってくる論文でした。


PubMed - NCBI
J Allergy Clin Immunol. 2007 Feb;119(2):344-50.PMID:17291852
RCTのシステマティックレビュー
P:成人喘息患者
E:LABA+ICS
C:ICS((1) a similar dose (n = 4312 subjects), (2) a higher dose (n = 4951), and (3) a similar dose in steroid-naive subjects (n = 968).)
O:asthma exacerbations, asthma control, and adverse effects
小児は対象外ですが、こちらも全文フリーなので見てみましょう
table4
Tremorはあきらかに増えてます(RR3~5くらい)。まあそりゃそうだ。
headacheはなんともいえず。
……それだけで他の症状の記載は無し。
口内乾燥はどうだったの!!!?吸入なんだから局所に起こりうる症状くらいデータ残してくれえ!と思ったのですが、報告自体がないんですかねぇ…。やはり口内乾燥はコモンな有害事象とは言えないのでしょうか…。

さて、長くなってきたので、いったんお開きとし、また機会があったらLABAと口内乾燥のデータを調べてみたいと思います。

モンテルカストで上気道感染症を予防できる? 感染後咳嗽には有効?

ロイコトリエン受容体拮抗薬LTRA(leukotriene receptor antagonist)で上気道感染症を予防できるかどうか検討したRCTがありました。

RCT of montelukast as prophylaxis for upper respiratory tract infections in children. - PubMed - NCBI
Pediatrics. 2012 Feb;129(2):e285-90. PMID:22218843

背景として、
上気道におけるロイコトリエンレベルの上昇が、上気道感染症upper respiratory tract infection (URI) を引き起こすウイルスの感染と関連がある。
ということで、気管支喘息アレルギー性鼻炎に効果があるとされるモンテルカストの予防的投与が有効かどうか検討しています。
(ちなみに国内は、モンテルカストの小児適応は気管支喘息のみ。類薬のプランルカストはアレルギー性鼻炎にも適応あり)

研究デザイン:DB-RCT
施設:3つのイスラエルの小児外来
P:1~5歳の健康な小児(reactive airway disease反応性気道疾患は除外)
E:モンテルカスト4mg
C:プラセボ
O:number of URI episodes
介入期間:12週

患者はURI症状を記録。
治験コーディネーターは週に1回両親に電話連絡。急性呼吸器症状がないか確認。

モンテルカスト153名中131名
プラセボ147名中129名
が試験終了(他は脱落?治療中断なのかLostなのかアブストには記載なし。ITTかどうかも不明)

<結果>
URIが報告数
モンテルカスト治療群:30.4%
プラセボ群:30.7%


というわけで予防効果なし。
これは検出力不足というより、効果がないという印象です。
脱落率に差はなさそうですし、結果がくつがえることもないかなと。

気道過敏のない、至って健康な幼児を対象としているので、そりゃそうだろうなって感じです。


では、風邪ひいて咳がしつこいわ~って場合にモンテルカストは有効か?


Montelukast for postinfectious cough in adults: a double-blind randomised placebo-controlled trial. - PubMed - NCBI
Lancet Respir Med. 2014 Jan;2(1):35-43.PMID:24461900
背景
感染後咳嗽はプライマリケアにおいてはコモンだが、有効な治療法はあきらかではない。
システイニルロイコトリエンCysteinyl leukotrienesは感染後咳嗽や百日咳の病因として関与している。
ということで、モンテルカストの有効性を調べてみたと。
こちらは成人対象

研究デザイン:DB-RCT
実施施設:イギリスの25施設(一般診療)
P:2~8週間続いている感染後咳嗽のある16~49歳の非喫煙者
E:モンテルカスト10mg
C:プラセボ
O:changes in total score between baseline and two follow-up stages (2 weeks and 4 weeks).
治療期間:2週間(さらに2週間続けるかどうか、患者が選択)
資金提供:オックスオード大学
(事前レジストリにはこう書いてありますが、本文には、funded by the National Institute for Health Research (NIHR) School for Primary Care Research (SPCR). と。どっちみち製薬メーカー主体ではなさそうです)

アウトカムのスコアとは?
Effectiveness was assessed with the Leicester Cough Questionnaire to measure changes in cough-specific quality of life

LCQについては本文に説明あり
The range of possible LCQ total scores is from 3 to 21, with a higher score indicating a better cough-specific quality of life
3~21点で高いほうが咳特異的QOLが良好。

プライマリはLCQですが、他の評価項目は、以下のとおり
運動後の咳の増悪をLikert scale(1点:頻度高、7点:無し)で。
Diary Cardには咳の重症度(100mmVAS)、咳の発作回数を記録


ところで、LCQって19項目1~7点満点(http://thorax.bmj.com/content/thoraxjnl/58/4/339/F2.large.jpg?width=800&height=600&carousel=1)じゃないんですかね。なぜ3~21点なんだろう…。3項目だけやったということ?

引用元を見ると、
Development of a symptom specific health status measure for patients with chronic cough: Leicester Cough Questionnaire (LCQ). - PubMed - NCBI
Thorax. 2003 Apr;58(4):339-43.PMID:12668799
physical
psychological
social
という3つのドメインが…。19項目の質問が上記のどれかに該当しており…。
ああ、書いてありました。書いてありました。
お恥ずかしい。
なるほど、19項目ぜんぶ聞いて、それを上記3つのドメインに振り分け、合算して項目数で除して平均をとるということですね。
ええい、ややこしい!

では、ひきつづき論文に戻ります。

サンプルサイズ
臨床的意義のある最低限の差であるLCQ1.3の差を検出するために必要なサンプルサイズは検出力80%、α0.05で216名。25%の脱落を見越して288名必要。

追跡率は
Fig1
Lost to follow-upがモンテルカスト137名中22名、プラセボ139名中21名
試験中断は両群それぞれ4~5名というところ。

ITT解析との記載がありますが、ResultのTableにn数が書いてないので、どこまで解析しているのかわからないです(ベースラインのTablehttp://www.thelancet.com/action/showFullTableImage?tableId=tbl1&pii=S2213260013702455は137名・139名となってますが、Table2には記載なし)。

で、結果のTable2ですが、このスコアは高いほうがいいわけですから、ややプラセボのほうが良いということとなり(もちろん偶然の差でしょうけど)、とても有効性が期待できるとは言えない結果となっています。

2週間の100mmVASでの変化(Fig2)をみていくと、プラセボとほぼ同じ推移ですね。視覚的な評価からも、モンテルカストが効いているとは思えません。

有害事象はとくに目立つものはありませんね。
プラセボより多かったり、少なかったりとさまざまですが、偶然の差ではないかという印象。
有害事象を評価するには十分とはいえないサンプルサイズなのでなんともいえません。

個人的にはモンテルカストは比較的忍容性の高い薬という印象を持っています(現職場では大勢の方に使用していますが、副作用の訴えは記憶にないです)
というか、モンテルカストのコモンな副作用ってなんでしょうね。パッと浮かびますか?
自分はわからないので、Pubると、、
Adverse events are rare after single-dose montelukast exposures in children. - PubMed - NCBI
Clin Toxicol (Phila). 2017 Jun 22:1-5.PMID:28639856
5~17歳(中央値7歳)17,069例のデータより、もっともコモンな有害事象は腹痛とのこと。
といっても頻度は0.23%。618名の超高用量50mg以上の使用では1.46%。用量依存的に上昇するなら、因果関係があるのかも。
それにしても50mgってどういうこと??成人量の5倍??
アブストしか見れませんが、ちょっと多く飲みすぎてもそんなに心配なさそうですね。


で、もとの論文に戻って、「考察」から気になる部分をピックアップ

A quarter of participants had laboratory-confirmed pertussis.
百日咳…。おお、そうでしたか。そりゃそうですよね。長引くからにはなんらかの原因がありますよ。

咳喘息にはモンテルカストが有効とするエビデンスがある
Effectiveness of montelukast in the treatment of cough variant asthma. - PubMed - NCBI
Ann Allergy Asthma Immunol. 2004 Sep;93(3):232-6.PMID:15478381
いや…、といってもこれ8名vs6名のDB-RCT…。

ザフィルルカストはカプサイシンに対する咳の感受性を抑制して咳を改善という報告もある模様

咳喘息に対するモンテルカストの鎮咳効果はロイコトリエン阻害の直接作用というよりもむしろ、好酸球の産生や咳反射の感受性の減少によるものと示唆されている。
咳反射感受性と気道過敏性の増加は、感染後の咳で示されているが、これらの患者は、喘息患者および正常な喀痰好酸球数と比較して、血液および鼻内好酸球数が低い。

百日咳は、肺好酸球数の増加と関連しており、ブラジキニンに対する産生が増加し、咳の刺激に対する応答性が増加


ふーむ。
なんか難しいことがいろいろ書いてありますが、結局、プラセボと同等の結果なので、感染後咳嗽にモンテルカストを投与してもあまり恩恵は得られないということが示唆されました。

今一度ベースラインを見てみると、アトピー素因ありが15%程度。
アトピー素因の有無で効果はどうだったか知りたいところですが、全体のn数少ないですし、細かい解析はできないんですかね。

まあなにはともあれ、風邪でやみくもにモンテルカスト投与っていうのは医療費の無駄かもしれませんね。
そもそも保険適応は気管支喘息アレルギー性鼻炎だけですから…(小児は喘息のみ)。