pharmacist's record

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喘息の吸入薬は虫歯の原因になる?

Effect of anti-asthmatic drugs on dental health: A comparative study. - PubMed - NCBI
J Pharm Bioallied Sci. 2016 Oct;8(Suppl 1):S77-S80.PMID:27829752

研究デザイン:case-control study

Case:Fifty-five children aged 6–14 years using a daily combination of inhaled β2 agonist and corticosteroid medication only, for at least 2 years
Control:The same number of age-matched healthy controls
(抗菌薬投与や歯科矯正治療の患者は除外)
アウトカム:correlation between the Streptococcus mutans, Lactobacillus and dental caries in both the groups
(dental caries=虫歯)

虫歯の評価は、DMFT指数で。

唾液サンプルで培養。

<結果>
DMFT
case:4.53
control:1.51

培養結果から、細菌数もcaseのほうが多かった模様。


さて、この研究は、小規模なケースコントロールスタディなので、交絡因子の調整は一切されていない点に注意が必要ではありますが、かなりはっきりとした差がでています。
喘息がリスクとなるのか、ICSやβ2アゴニストの吸入薬が影響しているのか…。

よくわからないので、ディスカッションを流し見

β2 agonists and corticosteroids cause a substantial fall in oral pH and a decrease in salivary flow rate.[
ほう。口が渇くのはLAMAだけかと思っていたら…、そうでしたか。。
pHと虫歯との関係はちょっとわかりませんので、ちょっと調べてみると、pHが低い、つまり酸は虫歯のリスク因子となるようですね。カットオフはpH5.5だそうです。
食事によりpHが低下するようですが、唾液の働きで中性に戻ると(唾液分泌が少ないとpHが戻りにくい!?)。間食が多いと虫歯になりやすいのは、酸に晒される時間が長くなるのも一因なのかも。

論文にもどります。
One of the main reasons for an increased prevalence of caries in asthmatic children could be the reduced salivary flow coupled with increased levels of Mutans streptococci and Lactobacillus in saliva
唾液、大事なんですね。

The results of our study support the hypothesis that asthmatic children undergoing treatment with short-acting ß2-agonists may have an increased risk of caries.
唾液減少を招くのはICSっていうよりSABA,LABAって感じみたいですね。

ICSについてはあまり詳しく論じられていないようですが、影響はあるのでしょうか?
細菌の増加に影響しそうな気もしますが…。

この研究だけではなんとも言えませんが、ひとつの知見として覚えておきたいと思います。
それにしてもLABA入りの吸入剤で口が渇くというお子様には出会ったことがないなぁ…。あまりこちらから問うことはなかったのですが、意外と乾きを感じているんでしょうか。

ちょっと調べてみましょう
サルメテロール/フルチカゾンプロピオン酸エステル(アド○ア)の添付文書をと…
口内乾燥:頻度不明
つ、つかえねー。あいかわらず役立たずの資料ですね。

Serious Asthma Events with Fluticasone plus Salmeterol versus Fluticasone Alone. - PubMed - NCBI
N Engl J Med. 2016 May 12;374(19):1822-30.PMID:26949137
フルチカゾン・サルメテロールvsフルチカゾンの安全性を評価したRCTです。
12歳未満は含まれていません。
研究デザインなどはすっとばして有害事象を…

ま、まさか…。
なんと軽微な有害事象の詳細は一切載っていませんでした。。。
本文に有害事象のTableはなく、NEJMお得意のサプリメンタリ…
しょうがないなとそちらを開いたら脱落にいたるような有害事象しか載っておらず、局所への軽度な副作用などの詳細は一切載っていません。
Adverse events leading to withdrawal from a study treatment were reported in 165 of 5834 patients (3%) in the fluticasone–salmeterol group and in 180 of 5845 (3%) in the fluticasone-only group
ということなので、サルメテロールかぶせても全体的に有害事象の増加は無さそうですが、詳細が知りたかったですね。実際にはそういう軽度の有害事象も重要だと思うんですが、プラクティカルじゃない論文ですね。流し見ですが、合剤も安全だからどんどん使ってね!という意思が強く伝わってくる論文でした。


PubMed - NCBI
J Allergy Clin Immunol. 2007 Feb;119(2):344-50.PMID:17291852
RCTのシステマティックレビュー
P:成人喘息患者
E:LABA+ICS
C:ICS((1) a similar dose (n = 4312 subjects), (2) a higher dose (n = 4951), and (3) a similar dose in steroid-naive subjects (n = 968).)
O:asthma exacerbations, asthma control, and adverse effects
小児は対象外ですが、こちらも全文フリーなので見てみましょう
table4
Tremorはあきらかに増えてます(RR3~5くらい)。まあそりゃそうだ。
headacheはなんともいえず。
……それだけで他の症状の記載は無し。
口内乾燥はどうだったの!!!?吸入なんだから局所に起こりうる症状くらいデータ残してくれえ!と思ったのですが、報告自体がないんですかねぇ…。やはり口内乾燥はコモンな有害事象とは言えないのでしょうか…。

さて、長くなってきたので、いったんお開きとし、また機会があったらLABAと口内乾燥のデータを調べてみたいと思います。