日本の高血圧患者は約4,300万人にも上ると言われており、心疾患・脳卒中リスクとなる高血圧対策の推進が重要となっています。塩分摂り過ぎの傾向にある自分としてはとても他人事とは思えない疾患です。ガイドラインを参考に基礎的なことをまとめます。
〈血圧の測定について〉
①診察室血圧
測定方法:脚を組まずに椅子に座って数分安静後に、会話をかわさずに測定する。測定前の飲酒、喫煙、カフェインの摂取はさける
測定回数:1~2分おいて、2回測定。安定した2回の平均値を血圧値とする。
カフについて:カフが肘関節にかからないように巻く。カフの位置は心臓の高さに。厚手の服の上からカフを巻いてはいけない。シャツをたくしあげて上腕を圧迫するのも不可。
②家庭血圧
装置:上腕カフ血圧計が推奨(聴診法との差が5mmHg以内)
測定方法:測定前の飲酒、喫煙、カフェインの摂取はさけ、座位1~2分安静後。
朝⇒起床後1時間以内、排尿後、服薬前、朝食前
夜⇒就床前
その他、夕食前や入浴前など
測定回数:原則一度に2回、その平均値をとる
注意:患者が血圧測定に不安になってしまったり、一喜一憂して負担となってしまわないよう、また測定値によって薬の自己調節をしないよう注意が必要
③24時間血圧測定法ABPM
15~30分間隔で24時間測定。
睡眠、食事、トイレ、服薬などの時間を記録して血圧の推移を評価する。
夜間血圧がわかる。降圧薬の効果を評価できる。
〈高血圧の分類〉
高血圧:診察室血圧140/90mmHg以上 家庭血圧の基準は135/85mmHg以上
至適血圧は120/80mmHg未満
白衣高血圧:診察室血圧が高血圧でも、家庭血圧が正常域。持続高血圧と比較して予後は良いとされるが、まったく良性とはいえない。ストレス時の血圧上昇や、持続高血圧への移行が懸念される
仮面高血圧:診察室血圧が正常でも、家庭血圧が高血圧となる。心血管イベントのリスクは持続高血圧と同程度
※起立性高血圧とは
通常、起き上がると重力によって血圧が足のほうへ流れ、脳に行く血流が不足してしまうのを防ぐため、自律神経が働いて血流を良くして、脳へ戻そうとする。これが不十分だと起立性低血圧となり、脳貧血をおこすことがあるが、自律神経が過剰に働くと起立性高血圧となる。
高齢者に多く、自律神経障害や無症候性脳梗塞もリスクとなる
※起立試験:起立性調節障害の検査。安静臥位(座位)時の血圧・脈拍、起立後の血圧・脈拍を比較。圧反射が低下していると、血圧低下に比べ、心拍増加が軽微。
〈血圧の日内変動〉
通常、夜間の血圧は日中より10~20%低下⇒dipper型
夜間に血圧が低下しない⇒non dipper型
夜間に血圧が上昇⇒riser型
non dipperやriserでは心血管リスク増大する。SASなどの睡眠障害や、糖尿病の自律神経障害(起立性低血圧)、心不全、腎不全などが原因となる
〈高血圧の病歴〉
生活習慣:運動、食事、飲酒、睡眠時間、喫煙、精神状態
二次性高血圧を示唆する情報
- 肥満
- SAS:いびき、睡眠時無呼吸、夜間呼吸困難、頭痛、日中眠気、抑うつ、集中力低下
- 腎臓病:血尿、タンパク尿、夜間頻尿
- 薬剤:NSAIDs、漢方、経口避妊薬など
- 原発性アルドステロン:脱力、四肢麻痺など
〈高血圧の合併症〉
脳血管障害:無症候性脳血管障害は認知症のリスクにもなる
眼底出血:高血圧による眼底の血管が動脈硬化を起こすことあり
心肥大:左室肥大のスクリーニング。胸部X線写真で心胸郭比を計測、50%以上で異常。(※胸郭=胸全体の大きさ。胸郭の内部に胸腔が、その内部に心臓や肺、食道が収められている)
腎障害:eGFRや尿タンパク、微量アルブミンを測定
動脈硬化:頚動脈エコーや足関節上腕血圧比ABIで評価
※頚動脈エコー:頸動脈の内側に血栓がないか、狭窄がないか(血管壁の厚さ)を超音波で視覚的に調べる非侵襲的で簡便な検査。心筋梗塞や脳卒中のリスク評価ができる。
※足関節上腕血圧比ABI:臥位で上腕と足首の血圧を測定。末梢動脈硬化の診断に使用。ABI=足首の収縮期血圧/上腕動脈の収縮期血圧。通常は、足首の血圧がやや高い。動脈硬化により狭窄や閉塞があるとその部分の血圧は低下する。動脈硬化は下肢動脈に起こることが多いため、足首の血圧が低下。ABIの正常値は1~1.2。ABI≦0.9で下肢の動脈硬化が疑われる。ABI≧1.4の場合は、血管の石灰化が疑われ、動脈硬化の可能性あり。
高血圧は血管が障害される疾患なので、あらゆる臓器障害をおこしますが、長期にわたって自覚症状がないうちに進行していく、サイレントキラーとも呼ばれる恐い疾患です。
後日、治療についてまとめてみたいと思います。