2014年9月にアリセプトがレビー小体型認知症(DLB)に適応追加となりました。
認知症についてまとめてみます。
〈認知症の中核症状(認知機能障害)〉
- 見当識障害:年月、時刻、自分がどこにいるかわからなくなる。具体的には「予定の外出時刻に準備できない」「季節感のない服を着る」「自分の年齢がわからない」「ゴミ出しの曜日がわからない」など。進行すると、「近所で迷子になる」「自宅のトイレの場所がわからない」「歩いていけそうにない遠くの場所に歩いていこうとする」など
- 判断力低下:考えるスピードが遅くなる、いつもと違う出来事で混乱しやすい、観念的な事柄と具体的なことが結びつかない(節約が大事と言いながらセールスマンの口車に乗せられて高いものを買ってしまったり、糖尿病だから食べ過ぎてはいけないとわかっているのに食べ過ぎてしまうなど)
- 失認:家族の顔を見ても誰かわからない、馴染みのある音がわからない(クラクションを聞いても車だとわからない)、麻痺している手を他人の物だと言う
- 失語:物や人の名前が出てこない
- 失行:服の着方がわからない、電気製品の使い方がわからない、手順よく動作できない(お茶葉と急須とお湯があっても、手順よくお茶を入れることができない)
- 記憶障害:新しいことを覚えられない
〈認知症の行動心理症状BPSD〉
- 幻覚:いない人の声が聞こえる、実際にないものが見える
- 食行動異常:なんでも食べようとする
- 徘徊:目的もなく歩き回る、外に出ようとする
- 妄想:ものを盗られたと言う
- 抑うつ:気持ちが落ち込んでやる気が出ない、ふさぎこむ
- 不穏:落ち着かない、イライラしやすい
- 介護の拒否:入浴や着替えを嫌がる
- 暴言暴力:大きな声をあげる、手をあげようとする
認知症 各論
診断の基本は除外診断。発症は緩徐で、近時記憶障害で発症することが多い。
特徴:質問をごまかそうとする(最近、気になるニュースは?⇒目が悪くて新聞を読んでない)。わからない質問を家族に振ろうとする。自分が周囲からどのように思われているか気にするケースが多い。
病気の進行は一般的に、
手段的ADL(料理・財産管理・服薬管理・買い物・洗濯・掃除)から低下。料理の段取りが悪い、味付けがかわる、同じものばかり買って冷蔵庫にたまる、飲み忘れが多くて薬がたまるなど。
進行すると基本的ADL(食事・排泄・着替え・入浴)も低下。
〈レビー小体型認知症DLB〉
主要3徴候は「変動する認知症症状」「幻視」「パーキンソン症状」
日によって調子が良いときと悪いときがあったり、日内変動もみられる。
幻視は非常に鮮明。子供や小動物、虫などが見える。知らない人が家にいる。錯視もみられ、こたつのコードが蛇に見えたり、ご飯にかけられたゴマが虫に見える。※視空間認知障害もあるので、床の色を統一したほうが転びにくい。
パーキンソン症状は筋強剛や動作緩慢が主体で、振戦は目立たない
その他、特徴として、
- レム睡眠行動障害RBD:夢に興奮して激しい寝言(奇声・大声)、手を振り上げる・脚で蹴る(壁などを叩いて手を怪我してしまったり、無意識の中で隣で寝ている配偶者を殴ってしまう)、周囲の状況が分からないまま立ち上がったり歩き出す、など
- 抗精神病薬に過敏に反応する。
- うつ症状(認知症の中で最もうつ状態になりやすい)
- 自立神経症状:起立性低血圧、失神、尿失禁、便秘など
〈前頭側頭型認知症FTD〉
前頭葉、側頭葉が萎縮する。比較的、若年者に多く、記憶力は比較的保たれるが、性格の変化や反社会的行動が初期から起こる。ゆっくり進行する(少なくとも6ヶ月)
- 脱抑制:マナーや礼儀正しさが欠如する。人前でもかまわずおならをする、葬式の最中に笑い出す、「あなた、太っているわね」などと初対面の人に失礼なことを言ってあっけらかんとしているといった礼節の喪失や、万引きをする、交通ルールを無視するといった反社会的行動、異性の体に触るといった性的逸脱行動も。
- 常同行動:特定の行動を繰り返す。決まったコースで散歩(その過程で同じ店で同じものを買ったり、同じものを食べたり)、食事・散歩・テレビなど決まったスケジュール(時刻や曜日)で行動、繰り返し同じ単語・同じフレーズを話す、同じ食べ物ばかり食べるなど。⇒⇒常同行動を無理にやめさせると暴力や興奮に繋がりやすいので本人の自由にさせておいたほうが良いが万引きなど社会的に問題となる行動であれば、デイサービスに通うといった行動パターンに上書きするとよい。
〈血管性認知症VaD〉
診断基準は、①認知症がある ②脳血管障害がある ③両者に因果関係がある
多彩な症状を示すが、記憶は比較的保たれ、遂行機能障害(物事を計画し、予定通り行動できない)が目立つ。認知機能が急激に低下したり、段階的に低下する傾向がある
脳血管障害の病巣に応じた神経症状あり
脳室内の過剰な脳脊髄液の貯留により、周りの脳を圧迫することにより起こる
三大徴候は「認知障害」「歩行障害(歩幅が狭く、開脚気味で不安定)」「失禁」
記憶や見当識は比較的保たれるが、注意障害が目立つ。具体的には「ぼんやりしている」「動作やしゃべるのがゆっくり」など
治療:髄液の流れをよくする髄液シャント術で治療
〈慢性硬膜下血腫SDH〉
軽い頭部外傷の数週間~数ヵ月後に発症。亜急性~慢性に経過。
血腫の部位や大きさによってさまざまな臨床症状を呈する。
治療:外科的に血腫を除去することで、早期に発見されれば予後は良い
さて、本題のDLBに適応追加となったアリセプトについてです。
用法用量:初回1日1回3mg⇒1~2週後、5mg⇒5mgで4週投与後、10mg
増量方法はADでの適応と同じですが、適宜減量の縛りがDLBでは5mgまでとなっています。DLBは少量で著効しやすいという報告が多かったように思うのですが、5mgより少量の投与は認められていないようです。
第Ⅱ相試験では、プラセボ群、3mg群、5mg群、10mg群で比較試験を行っており、3mgでも有意差は出ていたのに、なぜ第Ⅲ相試験では、5mg、10mg、プラセボの3群だったのでしょうか。第Ⅲ相の長期試験で3mgだったらどうなっていたか、とても気になるところです。DLBは薬の反応性が患者さんによってさまざまなため、適切な用量設定が望まれます。リアルワールドでの使用実績を踏まえ、改めていく余地があるかもしれません。
※後発品のドネペジルにはDLBの適応はないので注意が必要です。