漢方薬はがん治療の有害事象の緩和を目的としてしばしば用いられています。牛車腎気丸はオキサリプラチンによる末梢神経障害に有用であるとされてきました。
オキサリプラチン
がん細胞のDNAと結合し、合成を阻害するプラチナ製剤。
<mFOLFOX6療法>
適応:切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法(直腸がん、結腸がん)
1サイクル2週間。術後12サイクル。CVポート必要。
①オキサリプラチン(L-OHP)静注(約2時間)
②レボホリナート(l-LV)静注(約2時間):ビタミンの1種で5-FUの働きを高める。
③フルオロウラシル(5-FU)急速静注(約5分)と持続静注(約46時間):がん細胞のDNA合成を阻害する代謝拮抗剤
初日にまず吐気止め(グラニセトロン+デキサメタゾン)を約15分で静注し、①②を同時に静注、その後、③の急速静注、持続静注。
点滴後の内服薬としては、
<FOLFOX療法の副作用>
- 末梢神経障害:軽症を含めると約9割で起こる。約4割(Grade≧2)、14%(Grade≧3)。
- 吐気/嘔吐:約半数で起こる。急性のものと、2~7日後に起こる遅延性のものがある
- 下痢:約半数で起こる。9.7%(Grade≧3)
- 口内炎:約4割で起こる
- 疲労:7.2%(Grade≧3)
- 好中球減少:33%(Grade≧3)(発熱を伴うのは1.7%)。
- 血小板減少:3.4%(Grade≧3)
J Clin Oncol. 2009 Jul 10
グレード3以上の発現率は上記文献、FOLFOXに分子標的薬のベバシズマブを併用した場合の安全性試験のデータを参考としました。
※ベバシズマブ(アバスチン):特定の分子、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)というタンパク質 を標的とする分子標的薬。がん細胞の血管新生を阻害し、がんに栄養が行き渡らなくして増殖を抑える。腫瘍周辺の膠質浸透圧を低下させ併用された抗悪性腫瘍薬の腫瘍への到達を改善する作用もあるとされており、大腸がんに対してはFOLFOXやFOLFOLIとの併用が有効。ベバシズマブ特有の副作用は、出血、血栓症、消化管穿孔、高血圧など。
次に、牛車腎気丸(TJ-107)がオキサリプラチンによる末梢神経障害を防げるか?という問題ですが、2つのRCTをピックアップしてみたいと思います。
まずはGONE試験
DB-RCT 観察期間26週
P:オキサリプラチンをベースとした化学療法施行の進行·再発の結腸·直腸癌患者89名
E:TJ-107牛車腎気丸7.5g(44名)
C:プラセボ(45名)
O:グレード2以上の末梢神経障害
結果は、
- TJ-107:39%
- プラセボ:51%
- RR0.76(95 %CI 0.47–1.21).
グレード3以上の末梢神経障害は、
- TJ-107:7%
- プラセボ:13%
- RR0.51(95 %CI 0.14–1.92).
末梢神経障害を減少させる傾向にありますが、症例数が少ないこともあってか統計的に有意ではないようです。
次に結果を期待されながらも中間解析の結果、試験中止となったGENIUS試験
Int J Clin Oncol. 2015 Jan 28 DB-RCT
P:mFOLFOX6療法施行の結腸直腸癌患者
E:TJ-107牛車腎気丸7.5g分3(Pubmedに7.5mgと記載されていますが、7.5gの間違いかな?と思うのですが…)89名
C:プラセボ93名
O:CTCAE Grade2以上の末梢神経障害発症までの時間
末梢神経障害発症率は、
衝撃の結果です。今までTJ-107は良く用いられていたのでしょうか?この論文以降、オキサリプラチン使用患者に対するTJ-107の処方が減少するかもしれません。