pharmacist's record

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副作用として”HDL低下”と記載されている薬ってゾコーバ以外にどれくらいある?

いろんな意味で話題のゾコーバ(エンシトレルビル)
有効性については…、他の先生方が言及するでしょうからスルー
「?」ってなった添付文書の副作用項目の「HDLコレステロール低下(16.6%)」

HDLは善玉コレステロールのことで、脂質異常症の診断基準は40mg/dL未満で低HDL血症(動脈硬化性疾患ガイドライン2017年)、基準範囲は約40~100mg/dL(臨床検査のガイドラインJSLM2021)
”善玉”ですから、低いのはあまりよろしくない的な位置づけ

HDLの推移はインタビューフォームに載っています。


インタビューフォームP70より

国産国産っていうわりに、検査の単位がmmol/Lって…
mg/dLで表記してほしいですね。
1mmol/L=38.7mg/dL

承認用量は「12歳以上の小児及び成人にはエンシトレルビルとして 1 日目は 375mgを、2日目から 5日目は 125mgを 1日 1回経口投与」ということなので、図の黒丸を参照しましょうか。6日目でプラセボよりも0.5mmol/Lつまり20mg/dLくらい減ってるようです。2週目にはほぼ元通りになっているようですが、プラセボ群とは明白に異なる推移を辿っています。
ベースラインと比較するとほぼ半減しているので、添付文書上の(16.6%)というのは変化率ではなく、HDL低下した人の割合でしょうか。HDLがどれくらい低下した人を、低下した人の割合に含んでいるんでしょうね。
平均値がベースラインと比べて半減するってかなり多くの人がHDL低下をきたしているようにも思えるのですが(プラセボ群もやや低下しているのでコロナ感染の影響もあるのかも??)。

一過性の変化のようなので、これがどのような臨床的意義を持つのか私にはわかりません。
ただ、あまり耳にしない副作用だな…という気もします。
発生機序も気になるところ…。
他にHDL低下をきたす薬はあるのでしょうか


添付文書の副作用項目で文字列検索(「HDL」)をすると、ヒット数はたった91件。増加か低下かわかりませんが、HDLという文字列が「副作用項目」に含まれる添付文書が91件です。たくさんあるように見えますが、ジェネリックがたくさん出ている薬はその分だけ上乗せされます(ジェネリックが10品目あれば10でカウント)

アリピプラゾール(エビリファイ)HDL上昇:1~5%、HDL低下:1%未満
エストラジオールゲル(ディビゲル)HDL上昇:0.1~1%
酢酸亜鉛水和物(ノベルジン)HDL減少:0.1~5%
サリドマイド(サレド):HDL増加:5%未満
ソマトロピン(グロウジェクト)HDL低下:2%未満
チラブルチニブ(ベレキシブル)HDL減少:頻度不明
トシリズマブ(アクテムラ皮下注)HDL増加:1%以上
ニコランジル注(シグマート注)HDL減少:1%未満
ビソプロロールテープ(ビソノテープ)HDL増加:1%未満(参考:内服薬「メインテート」には記載なし」 ノイズかも…)
ベタキソロール(ケルロング)HDL低下:0.1~5%
ボグリボース(ベイスン)HDL低下:0.1~5%

(腹膜透析液とかもヒットしましたが割愛。他にも見落としがあるかもしれませんがご了承ください)

文字列検索なので、検索漏れもあるかもしれませんが、やっぱりあまりコモンな現象ではなさそうな感じがします。頻度が低いものも多く、上記に挙がっている薬についても、もしかしたら真の副作用ではなくノイズも含まれるのかもしれません(因果関係がはっきりしている真の副作用なのかどうかは検証してません、すみません)。
どれくらい数値が低下したのかというデータは添付文書にはありませんが、どの薬も頻度は低く、5%を超えるものはありません(0.1~5%未満というのは4.9%というわけではなく、1%未満かもしれない)

ゾコーバは頻度16.6%、かつプラセボと著名な差があり、ベースラインから半減…
検索機能の検索漏れで他にも似たような現象をきたす薬はあるのでしょうか?私が無知なだけ?

脂質を変化させる薬剤リストを調べてみましょう。ググってみたらこんなものが見つかりました
Medication Induced Changes in Lipid and Lipoproteins - Endotext - NCBI Bookshelf
HDL低下するのは
β-Blockers
Select progestins
Danazol
Anabolic steroids
First Generation antipsychotics

ダナゾールはHDLが50%低下と書いてありますが、ダナゾール(ボンゾール)の添付文書にはHDLの記載はない…。なぜ…?



付け焼刃で調べた程度では、HDL低下という現象が”よくあること”なのか自分にはよくわかりませんでしたが、緊急承認で登場した新薬の副作用項目のなかでちょっと目立っていたので、気になりました。
この一過性の検査値の変動が臨床的に悪影響をきたすのかどうかは私にはわかりませんがPMDAがどのように評価したのか気になるところです(重大な懸念はないと評価されたから承認されたのでしょうけど…)。短期間の服用なのでとくに心配ないってことなのでしょうか。
審査報告書は医薬品情報検索のページにあがっていないようですが、報告書がアップされたら読んでみようかと思います。