pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

NEJMに掲載されたHPVワクチンについて ~情報発信とは?~

おっ、あの論文について書くのか!?と思ってこの記事を読み始めた方、、、
すみません。まだ読んでませんので、ブラウザの「←」ボタンを押して離脱してください汗

今回はこの論文についての解釈/情報発信について、いろいろと考えさせられることがあったのでブログに書いておこうと思いました。

まずはこちら
www.buzzfeed.com
この問題について以前より真摯に取り組んでいた数少ないメディアといえばBuzzfeed
岩永さんが、この論文について記事にするのは当然の流れ。そりゃとりあげるでしょう!

で、この記事の中の、
「HPVワクチンが、本来の目的である浸潤子宮がんを防ぐ効果を、十分な規模で本格的に実証した世界初の論文となる。」

これに対して、がんを防ぐ効果を実証したと言っていいのだろうかというご指摘がありました(もちろんHPVVそのものを否定してるわけではなく、有用性は評価した上でのご指摘)。
観察研究で因果関係の証明はできないのに実証したといっていいのかってことだと思うのですが、「そう思う!」という人と、「気にならない」という人で賛否分かれている模様。

(↑ちなみに、"観察研究で因果関係の証明はできない" についても賛否あると思います。因果推論を専門にしている統計の先生は「因果関係はわからないと言い切ってしまうのは言いすぎ!」みたいなことをおっしゃってたのをお見かけしたような…)



さてここで医療記事についてざっくりと図にしてみました。
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(図が雑だというツッコミはご容赦ください)

自分もこういうことをしているのでわかるのですが、やっぱりある程度はライターの解釈が混じると思うんですよ。第三者(ライター)の視点は混じらずにはいられない。要はそれを自覚しているかどうかってことなんでしょうけど…(自分がそれができているか胸に手をあててみる→→ようわからんかった)


たとえば、これはNGですよね
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まるで胃がんだけでなく大腸がんも半減させたエビデンスがあるかのような書き方をするのは、事実を捻じ曲げているのでNG


じゃあ、こういう書き方はどうでしょう?
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エビデンスエビデンスとして記載し、それを踏まえて自分はこう思う(オレンジのとこ)
意見と事実をはっきりと分けて書いてあります。
↑の例題については、「それは拡大解釈でしょ」とツッコミが入るでしょうけど、ライターは期待しているという感情を持っているわけです。意見を書いちゃダメってなると言論の自由がどうのこうのってなりそう汗
論文情報を踏まえて、ライターがどう思ったのか、どんな展望が考えられるかっていうことを述べることはいけないことではないと思います。

ただ、むやみやたらな拡大解釈で効果を期待させて患者さんを惑わすようなやり方には自分は反対ですけどね。あまりにもぶっとんだ意見はさすがにちょっと困るかな…。その情報が大勢に広まったあとにどんなアウトカムが発生しうるかについてはしっかりと考えた上で情報発信してほしいです。これは自分も十分意識しなくてはなりません(こんな僻地のブログに影響力はないと思うけども)。


一方でこういうのもあります
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論文に書いてあることを忠実に直訳した記事
各種医療メディアで、論文の概要を紹介する記事があると思います。ライターの意見は入っていなくて、論文に書いてあることだけが日本語でまとめてあります。英語苦手な人は多いと思うので(←自分も!)、日本語でまとまってるから楽だわ~って。

ただ、翻訳サイトがレベルアップしている昨今では、こういう記事の需要は減っていくのかもな〜って気もします。Google先生アブスト原文をぶち込めばいいわけですからね。

自分はやっぱりライターさんがどう思ったのかが知りたいです。
エビデンス(青い部分)を忠実に転記するだけでなく、意見(オレンジの部分)を書くことにこそ二次媒体の価値があるんじゃないかと。


というわけで、「オレンジ(意見)を青(エビデンス=事実)っぽく書くのはNGだけど、オレンジにこそ二次媒体の価値が生まれる」というのが自分なりの結論ですね。論文情報を踏まえて、きちんと論理立てて組み立てられた意見はとても勉強になります。

一方で、なるべく青とオレンジは区別して、誰が見てもわかるように書かなきゃなぁ~と思いました。

自分が書いた本(ビジアブで読み解く! 薬剤師の仕事に役立つ臨床論文50)は論文情報を解説する本だったので、そこがごっちゃにならないように注意したつもりですが、明確に項目を分けて書くことはしませんでした(汗)。【事実】【意見】て項目を分けて書くのもねぇ~…、そこまでしなくてもいいかなって。

ただ、著書のなかで、『論文に記されたデータなどは客観的事実だけど、それを踏まえて「こうじゃないか、こうしたらいいんじゃないか」って書いてあるところは事実ではなく自分の意見だ』と一言添えました。『著者の意見は著者の意見として、読者の方々には各自論文を読んでもらって自分の意見を持って欲しいなぁ』みたいなことも書いたような…(うろ覚え)。

これって大事なことですからね。

意見と事実の違いについては青島先生から学びました。


こちらですね。


さて…
では、冒頭の「HPVワクチンが、本来の目的である浸潤子宮がん(※)を防ぐ効果を、十分な規模で本格的に実証した世界初の論文となる。」はどうでしょう?

やっぱり賛否は分かれるのでしょうか?

この論文で実証されたとライターが思ったら、実証したと書いていいのかっていう議論がうまれるということなのかなぁ…。自分はそこまでコトバにこだわってなかったのであまり気にならなかったのですが、その微妙なニュアンスが大事だという"意見"もまたひとつの示唆であり、なるほどと思わされます。

ただ、これを問題視するなら、ほかに叩くべき情報は山ほどある気もします。
HPVVをみんなに知ってもらうという活動は重要だと思うので、目指すべきアウトカムをしっかりと念頭において、みんなで協力していきたいものです。


な~んてこと言いながら、冒頭で述べたとおり、自分はまだこの論文を読んでないんですよね。この結果をくつがえすほどの未知の交絡は自分には思いつかないのですが、なにかありますかね?来週、とある場でこの論文を読む予定なのでその日まで楽しみにとっておこうと思います。