pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

某討論会のレベル高すぎ! ~メトトレキサート(MTX )× 腎臓~

コロナのせいで「抜け殻ひきこもり野郎」と化しているのですが、オンライン勉強会が活発になってきたので、最近ちょこちょこと参加させていただいております。

昨日も腎臓病薬物療法関連の討論会にひっそりと参加させていただきました。
今回2回目なんですけどね。
パネリストの先生方のレベルが高すぎて、自分のひよっこ感を改めて自覚できるのでとても貴重な場となっております。
企画してくださっている先生方、ありがとうございます!

クローズドな勉強会なので、詳細はここでは書けませんッ(あしからず)
テーマはMTX(メトトレキサート)ということで、「ヤベ、ぜんぜんわかんねー」と思って、当日の昼休みにガイドラインとか論文とか漁ったりしたので、その備忘録を書いておきます。

本当は、いろんな論文を頭に叩き込んで、議論の内容に沿った論文をチャット欄に共有して盛り上げっぞ!オラ、積極的にディスカッションに参加すっぞ!と思ってたのですが、所詮付け焼刃の知識…。付け焼刃はソッコー折れてしまって、話についていくので精一杯でございました。

そんな付け焼刃をここで供養させていただきます。
気になって追加で調べたものもつれづれなるままに書き連ねておりますので、読みづらいことこの上ないです。すみませんが、あくまで備忘録ということで。



いろんなテーマが取り上げられたのですが、
まずはMTX(RAにおける)のDIをざっくりと

禁忌:肝硬変、腎障害(GFR30未満)、腹水や胸水あり、重症感染症 など
開始用量:原則6~8mg/週
最大投与量:16mg/週(8mg/週を超える場合は分割投与が望ましい)
低用量開始がすすめられる症例:高齢者、低体重、腎機能低下例、肺病変、アルコール常飲者、NSAIDs複数内服例

(関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン 日本リウマチ学会MTX 診療ガイドライン策定小委員会/編 2016年改訂版【簡易版】より)
https://www.ryumachi-jp.com/publication/pdf/MTX2016kanni.pdf

必読


MTXと葉酸

【MTXの副作用軽減の目的で葉酸併用効果は?】

これは有名ですよね。以前自分もコクランビューをブログに取り上げたことがあります。
ph-minimal.hatenablog.com

もう4年以上前の話なのですね…。
表がヘンに食み出ていてすみませんすみません汗

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7046011/table/CD000951-tbl-0001/?report=objectonly
PMID:23728635
直接、こっちを見てもらったほうがいいかな。
葉酸(folic acid)orフォリン酸のデータがまとまっています。

日本だとfolic acidだと思うので、
↓こっちのほうが日本の臨床に活かせるデータな気が…。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7046011/table/CD000951-tbl-0002/?report=objectonly
おや?
葉酸の試験だけをまとめると、胃腸症状はギリギリ有意差なしですね。

胃腸症状
 RR 0.76 (0.57 to 1.01)ですから、印象としてはリスク軽減効果ありそうだなって感じ。
口内炎Stomatitis / mouth sores
 RR 0.90 (0.53 to 1.54)  微妙…(223/1000 vs 201/1000)
肝障害Liver toxicity
 RR 0.19 (0.10 to 0.36) すごい!(208/1000 vs 40/1000)
血液障害Haematological disorders
 RR 1.70(0.42 to 6.96)

血液障害のリスクは減らしません。
これは討論会でも話題になっていました。
ただ、論文には骨髄抑制についてはパワー不足だったみたいなことが書いてあったので、詳細を調べてましょう。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7046011/figure/CD000951-fig-0007/
発生数が書いてあります。
試験は2つだけ
Morgan 1990   葉酸:1例/16例  プラセボ:1例/16例
Van Ede 2001  葉酸:4例/133例  プラセボ:2例/137例

たしかに減らしていないのですが、データが少なくてなんともいえないような気も…。
ただ、微妙に多い傾向にあるので、たしかにリスクを激減させるということはないのかな?


副作用って用量依存性のものと特異体質反応/アレルギー性があるはず。
なんとなくですが、葉酸併用してもアレルギー性の副作用は軽減しなそうな気がします。
ただ、骨髄抑制って一般論として用量依存性なのでは?て気も…。

わからないのでググりましょう。

日経メディカル
「十分量を使う、問題があればまず休薬する」がMTX使用の原則:日経メディカル
「 MTXの副作用には、用量依存性のものと非依存性のものがあります。用量依存性の副作用としては、白血球減少などの骨髄抑制、肝障害、口内炎などの粘膜障害、胃腸障害などがあります。
 これに対して間質性肺炎は用量非依存性とされ、4mg/週程度の低用量でも発症する場合があります。用量依存性の副作用は用量を減らすことで回避できますが、間質性肺炎などは投与量にかかわらず、常に注意が必要です。」
膠原病科の先生のインタビュー記事より

やはり、骨髄抑制は用量依存性のようです。
(一方、間質性肺炎は用量非依存性らしい。低用量でも起こるという意味??高用量の方がおきやすかったりするのかな??)

葉酸と骨髄抑制…。うーん、現時点では「予防するというエビデンスはない」けど、「予防する効果がないと言い切っていいのかはわからない」てな感じです。



【MTXと葉酸の投与のタイミングは?】

これは、日本だと、
葉酸5mg/週以下を、MTX最終投与24~48時間後に投与」
となっています。
(前述のMTXガイドラインより)


海外はどうなんでしょ

What is the Dose of Folic Acid to use with Methotrexate therapy for Rheumatoid Arthritis? – SPS - Specialist Pharmacy Service – The first stop for professional medicines advice
NHSってことで、英国の国民保健サービスから引用

葉酸の最適な投与量は答えがでていない」
「メトトレキサートの服用当日は葉酸補充を避けるべきであるというコンセンサスがある」
「英国の推奨は、メトトレキサート投与の翌日に葉酸5mgを服用するか、メトトレキサート投与日以外に毎日葉酸1mgを服用する」



【どんな場合に葉酸を併用する?】

日本は、
「必要に応じて考慮する」
「MTX8mg/週を超えて投与する際や、副作用リスクが高い高齢者、腎機能軽度低下症例では葉酸併用が強く勧められる」
前述のガイドラインより


一方、英国では、
「すべての患者に、5mgを週1回の最低用量で葉酸サプリメントを併用すべき」
BSR and BHPR guideline for the prescription and monitoring of non-biologic disease-modifying anti-rheumatic drugs
PMID:28339817 英国のリウマチ学会
ふーむ。全例推奨だそうです。


Multinational evidence-based recommendations for the use of methotrexate in rheumatic disorders with a focus on rheumatoid arthritis: integrating systematic literature research and expert opinion of a broad international panel of rheumatologists in the 3E Initiative
PMID:19033291
各国の専門家の意見のまとめ
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2689523/table/ard-68-07-1086-t02/?report=objectonly
レコメンデーションの中に葉酸の記述が。
「少なくとも週5mg以上の葉酸の投与を強く推奨」Agreement mean 7.5

なんとなくですが、日本よりも欧米のほうが積極的に併用していくスタンスなのかもしれません。



MTXの相互作用について

【MTXとNSAIDs】

リウマチだとNSAIDs併用例多いですよね。
はたして、MTXによる腎障害などのリスクは上昇するのか?

まずMTXの腎障害の機序ですが…、
・急性尿細管壊死 ATN(尿細管細胞毒性による用量依存型腎障害の浸透圧性ネフローゼを除く)
・尿細管閉塞性腎不全
などが挙げられます。
(薬剤性腎障害診療ガイドライン2016より)
https://cdn.jsn.or.jp/academicinfo/report/CKD-guideline2016.pdf

MTXは腎性もしくは腎後性ですね。
(NSAIDsは主に腎前性)


いろいろググってて見つけたカナダのリウマチ学会の資料
https://rheum.ca/wp-content/uploads/2017/11/CRA_Pharmacist_Highlights_June_2015_CT.pdf

Concurrent Use of NSAIDs and Low-Dose Methotrexate (MTX) in Rheumatoid Arthritis is Not a Clinically Significant Interaction
とのこと。

あら?そうなんですか…
この根拠として記載されている引用文献は下記のコクランレビュー
Safety of nonsteroidal antiinflammatory drugs and/or paracetamol in people receiving methotrexate for inflammatory arthritis: a Cochrane systematic review
PMID:22942332
適切にモニタリングしていれば、MTXとNSAIDsは安全に併用できそうだとのこと(appears to be safe)
アブストしか見てませんが、薬剤ごとのコメントも。
Looking at specific NSAID, there were no clinically significant AE with concomitant piroxicam or etodolac, and only mild AE with celecoxib or etoricoxib.
若干のエトドラクピロキシカム推しなのでしょうか??


一方で、2018年にはこんな論文も
Concomitant use of low-dose methotrexate and NSAIDs and the risk of serious adverse events among patients with rheumatoid arthritis
PMID:29797447
デンマークコホート研究 合計4万人強
プライマリアウトカム:the composite end point any serious adverse event, including liver toxicity, acute renal failure, and cytopenia(肝毒性、急性腎不全、血球減少を含む重篤な有害事象)

110 cases of the primary outcome occurred during concomitant use of methotrexate and NSAIDs (unadjusted incidence rate 12.1 per 1000 person-years) and 129 during control episodes (11.0 per 1000 person-years). Concomitant use of methotrexate and NSAIDs was associated with a significantly increased risk of any serious adverse event (weighted hazard ratio 1.40; 95% CI, 1.07-1.82).
重篤な副作用が若干増えるかもしれない。

慎重に併用しましょうって感じですかねぇ~…。


【MTXとPPI

これ、討論会でちょろっと話があがってました。
私はまったく知らなかったのですが、付け焼刃の中にPPIの話があったような…。

さっきのカナダのやつで触れられてました。
https://rheum.ca/wp-content/uploads/2017/11/CRA_Pharmacist_Highlights_June_2015_CT.pdf
Concurrent Use of Proton Pump Inhibitors and Low-Dose Methotrexate is Not a Clinically Significant Interaction
The new safety information from Health Canada on Interaction of Proton Pump Inhibitors (PPIs) with MTX dated Oct 2012 specified that only concomitant use high dose MTX>500mg) and PPI may an increase amount of methotrexate in the blood leading to adverse effects.
MTX高用量の場合はPPIにより血中濃度が上昇するらしいです。リウマチでの使用量だと問題ないという見解のようですね

2013年ニュージランド
http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly11/21131010.pdf
ここでも「高用量」との記載

↓こんな報告もありますが、低用量ではないですね。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphcs/40/6/40_369/_pdf

そんなに心配しなくていいのかなぁ~
リウマチ患者はNSAIDsも必要、胃障害防止のためPPIも長期併用、という方は多いと思います。


MTXの薬物動態

【MTXの排泄】

MTXが腎排泄というのは有名かと思います。
前述のとおりGFR30未満は禁忌

そこで、とある文献にこんなことが書いてありました。
「MMTXは主に近位尿細管から有機酸として排泄される.この結果,果たして糸球体濾過の指標であり,近位尿細管機能の指標とはならないGFRのみで MTXの投与量を決定してよいかという点は問題である.」
(腎疾患を有する RA患者の治療法とその注意点)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cra/19/4/19_217/_pdf/-char/ja
臨床リウマチ,19: 217~221,2007 217

10年以上前の文献ですが、これって現在はどう考えられているんでしょうね。

いろいろ漁ってたら見つかったのがこの論文
Effects of moderate renal insufficiency on pharmacokinetics of methotrexate in rheumatoid arthritis patients
PMID:9613341
これも古いんですが、このなかのFigが目に留まりました
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/core/lw/2.0/html/tileshop_pmc/tileshop_pmc_inline.html?title=Click%20on%20image%20to%20zoom&p=PMC3&id=1752537_97249.f1.jpg
CcrとMTXのクリアランスの相関図
なんかバラつきが大きいように見えるのですがいかがでしょうか。
個人差が大きいと言っていいのかな?

腎機能が中等度低下(禁忌でない程度)の場合には、低用量から開始して様子を見ながら増量していく感じになるのだと思いますが、個人差が大きくて予測しにくいという側面があるのかも。


MTXに関しては、帯状疱疹へのバラシクロビルなんかと違って、初回に完璧な用量設定をする必要性があるのかな?って思ったり…(←注 素人発想)。
バラシクロビルは治療は早いほうがよいでしょうし、適正な用量での治療が望まれます※

※これは賛否あるかもしれません。低用量でもそれなりに効くんでしたっけ?
ちなみに…、そもそも長期的なPHNはプラセボとそんなに差がないらしい…
Antiviral treatment for preventing postherpetic neuralgia
PMID:24500927

一方、リウマチに対するMTXって、そもそも有効用量が人それぞれですよね。増量していって効果判定しながら投与量を調節していきます。腎機能低下例に初回投与量を過度に少なめに設定してしまうことのリスクは寛解までの期間が延長すること(←あ、いや、これももちろん患者さんにとっては大問題なんですけど)。副作用リスクを背負ってまで、強気の用量設定で攻める必要はないような気もします。

このあたり、リウマチ専門の先生方のご意見を聞いてみたいところですね。


さて、そろそろ力尽きてきたのでこのあたりで締めます。
いかがでしたでしょうか。昨日剛速球で集めた私の付け焼刃(の知識)は…
自分用の備忘録(疑問のまま終わってるの多々あり)ですので、わかりにくかったかと思います汗。討論会に参加してらっしゃった先生方には、ここで引用した文献が参考になるかもしれません。ぜひ原著をご確認ください。網羅的に情報収集できてなくて、グーグル検索で上位にあがってくる資料ばかり参考にしてしまっているという偏りがありますので、その点はご容赦くださいm(_)m