pharmacist's record

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ラニチジン自主回収 NDMA(N‐ニトロソジメチルアミン)検出

H2ブロッカー(消化性潰瘍治療薬)のラニジチン製剤が自主回収となりました。以前、バルサルタン錠「AA」やアムバロ「ファイザー」でも発がん性物質NDMAの検出により自主回収となったのですが、取り扱っている薬局はそれほど多くなかったかもしれません。

今回のラニチジンに関しては、先発品を含め、あらゆるメーカーの製剤が自主回収となったため、対応に追われている薬局も多いのではないでしょうか。

NDMAについては、るるーしゅ先生が詳しくお調べになっています。
https://kuroyaku.tokyo/ndma-ranitidine/
https://kuroyaku.tokyo/valsartan-ndea-risk/

さすが!

この中で紹介されていた厚生労働省の資料がこちら(資料①)
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000414371.pdf
バルサルタンAAの原薬ロットにより検出量は異なるようですが、NDMA含量は36~74ppmとのこと。

NDMAの管理指標は0.0959μg/日
バルサルタンの1日最高量160mgとして限度値を算出すると、バルサルタンの原薬中のNDMAの限度値は0.599ppmとのこと。
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000378171.pdf

バルサルタンAAにおける検出量は限度値を大きく上回っていますね。
(限度値が0.599ppmで検出量は36~74ppm)


さて、ラニチジンですが、9月17日に通知があり、海外でNDMA限度値の0.32ppm(ラニチジン最大量300mgとして算出)を上回ったとのこと(数ppm程度)。国内メーカーに対してNDMAが含まれていないか分析するように指示が出されました。
https://www.pmda.go.jp/files/000231528.pdf

先発メーカーのGSKは分析の結果が出る前に、予防的措置ということで自主回収に踏み切り、その後、国内の後発品で限度値を上回るNDMAが検出され、あらゆるメーカーのラニチジン製剤が自主回収となりました。


さて、NDMAですが、前述の厚生労働省の資料①によると、NDMAは食品中にも含まれると記載されています(海外の対応状況「FDA」より)
1日摂取量におけるNDMA推定含有量は下記のとおり
「保存処理された肉(0.004~0.23μg)、燻製肉(0.004~1.02μg)、焼肉(0.006~0.13mg)、ベーコン(0.07~0.09μg)」

うーん…。私は焼肉が主食なのですが…。

食品にも含まれているならそれほど心配しなくてもいいのかなという気もするのですが、発がん性物質と言われるとやはり気になりますよね。

そこで、前述のバルサルタンに関するデンマークの観察研究が発表されていますので、ご紹介しましょう。
Use of N-nitrosodimethylamine (NDMA) contaminated valsartan products and risk of cancer: Danish nationwide cohort study. - PubMed - NCBI
BMJ. 2018 Sep 12;362:k3851. PMID:30209057

f:id:ph_minimal:20191010091522j:plain

発生人数は差があるのですが、追跡期間が違うためか、1000人年あたりの発生数の差は2~3人。
ハザード比は1.09で有意差なし。

有意差がないから安全だという結論にはなりませんが、短期的な著明な増加は認められなかったようです。

追跡期間の中央値は4.6年ということで、もっと長期間の曝露となると、どのような結果になるのか気になるところですね。

(※前述の資料①に国立医薬品食品衛生研究所のリスク評価も掲載されています。バルサルタンAAによる生涯の発がんリスクについては資料①をご参照ください)


さて、国内の各種ラニチジン製剤はどの程度検出されたんでしょうか。
今のところまだ発表されていないようですが、海外の報告では数ppm程度ということでした。限度値(0.32ppm)を上回ってしまったということですが、海外と同じくらいであれば、バルサルタンAAと比べると検出量は少ないのかも。
大幅に超過してないことを祈るばかりですね。