pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

バロキサビル(ゾフルーザ®)は二次感染を防げるのか

ph-minimal.hatenablog.com
以前とりあげたバロキサビルですが、いろいろと話題になっているみたいですね。
テレビでも商品名を出して紹介されてるみたいです。
(商品名って出しちゃっていいんですかね…?)

強調されてるのは、「オセルタミビルと症状持続時間が同程度」という話ではなく、
「オセルタミビルと比べてウイルス検出期間が短縮される」というCapstone1のセカンダリアウトカムのほうを強調されてる模様。
そして、この結果を踏まえて、「人にうつるリスクが"激減"する」と…。


いやあ~、こわいですね。
こわいですよぉぉ!

「この薬を1回飲めば、すぐに治るし、人にもうつさない!症状軽くなったら外出だぜ、うぇーい!!」

という懸念があります。

ウイルス検出期間が短縮するなら、理論上、人にうつしにくくなるとは思うのですが、実際、どの程度の影響があるのか不明です。

そのデータに関しては、Capstone1試験の論文(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30184455)には載ってなかったはず…と思いきや、FDAの資料に載ってるようです。
https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/nda/2018/210854Orig1s000MicroR.pdf

69ページ。
The intra-household infection rate between Days 1 and 3 (the period of greatest separation between groups) was numerically lower in the baloxavir marboxil group compared to the oseltamivir and placebo groups (3.9% [overall; n=268] vs 5.2% [≥20 years; n=209] and 6.8% [n=134], respectively), although the difference was not statistically significant. Over the 15-day evaluation period, the rates in the baloxavir marboxil,oseltamivir, and placebo groups were 9.0% (overall), 8.5%, (≥20 years), and 9.3%, respectively.

家庭内感染
1~3日:バロキサビル3.9%、オセルタミビル5.2%、プラセボ6.8%
~15日:バロキサビル9.0%、オセルタミビル8.5%、プラセボ9.3%

うーん。
どうなんでしょうね、これは。
初期は微妙に減少傾向(有意差はない)
15日間にわたる家庭内感染の発生率はなぜか逆転してオセルタミビルのほうがやや少なくなっている(有意差はない)。
これがもしや一部の人においてはアミノ酸変異かなにかでバロキサビル投与群でウイルス検出期間が長引くっていう話とリンクするのでしょうか!?(いや…、わかりませんけどね…。汗)

あるいはこういう考え方もできるかも。
これは家庭内感染の発生率ですが、インフルエンザと診断されて薬を投与する以前にすでにご家族と接触してしまっているケースが多いような気もするので、この結果だけで、バロキサビルのウイルス検出期間短縮による二次感染リスク減少を否定してしまっていいのか?という疑問もあります。

まあ、ぶっちゃけよくわからない。というのが本音です。

ただ、この結果を見れば、「バロキサビルを使えば、人にうつすリスクが激減する」だなんていうテレビのテロップは出来上がらないと思うんですが…。いくらなんでも"激減"はないでしょう…。

まだちゃんと治っていないのに、「オレ、ゾフルーザ飲んだからもう大丈夫~」なんつって、すぐ外出しちゃったりして、インフルエンザの流行が拡大したらどうするんでしょうか?

うーん。
もやもやしますね。

ただ、バロキサビルという新薬が悪いのではありません。
「罪を憎んで人を憎まず」っていう言葉がありますが、「薬を憎まず」ですよ。
せっかくの期待の新薬ですからね。
「1回飲むだけで治るよ!」なんていうヘンな説明をして、「1日経っても治らないからまた受診した」とか「次の日になったら熱がさがったから、遊びに行った」みたいなことにならないように、正しい情報を広めないといけませんね~。