pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

プソイドエフェドリンの血圧・心拍数への影響は?

CQ「プソイドエフェドリンの長期使用の安全性は?」

長期使用の安全性ってことで検索してみたら、血圧、脈拍への影響を検討したメタアナリシスがあったので、ブログ表題のCQへスイッチ。
まあ、結局、気になるのは"そこ"ですもんね

Effect of oral pseudoephedrine on blood pressure and heart rate: a meta-analysis. - PubMed - NCBI
Arch Intern Med. 2005 Aug 8-22;165(15):1686-94.
PMID: 16087815
2005年ってことで、かなり古いですね。
プソイドエフェドリン配合のディレグラ®が日本に登場したのはまだ数年なので、海外では経口プソイドエフェドリンが古くから使われていたのでしょうか。
(このあたり背景知識がないのでなんとも…)

背景
鼻炎や鼻漏によく使われているが、血圧や心拍数への影響は不明
MEDLINE, EMBASE, and the Cochrane Library をつかって、英語限定で、成人の試験を対象にプラセボ対照RCTをサーチ
元論文はJadadスコアで評価(いまはあまりつかわれないですが、これ2005年ですからね。)
ランダムエフェクトモデルを使用
weighted mean differencesってことですが、測定尺度の単位はまったく同じものですもんね。SMDじゃなくてOK(そんなのあたりまえだろ、ふざけるなって声も聞こえますが、このあたり自分自身よくわかってない部分なので、復習としてメモがわりに書いています)

24試験、n=1285
SBP (0.99, mm Hg; 95% CI, 0.08 to 1.90)
HR (2.83 beats/min; 95% CI, 2.0 to 3.6)
DBP (0.63 mm Hg, 95% CI, –0.10 to 1.35).

血圧はほんのちょっとだけ上昇しそう
心拍は2.8BPMはやくなる。
BPMって言われると、DJしたくなる人、手を挙げて!(ふーた先生はおそらく手を挙げたはず)

コントロールされてる高血圧患者を対象とすると、
SBP (1.20 mm Hg; 95% CI, 0.56 to 1.84 mm Hg).

高用量のほうが、また即放錠のほうが、血圧は上昇する。とのこと
男女差は、どうやら女性のほうが影響が小さいらしい

アブストはここまで。

フルテキストもざっと目を通しておきますか。
サーチタームが載ってますね
pseudoephedrine combined with the text words hypertension, blood pressure, heart rate, adverse effects, and clinical trial
最近のSR&MAだともっといろんなワードで検索してるような気が…、検索ワードがシンプルだなぁという印象。(あくまで個人の見解)

All references of reviewed articles were scrutinized for additional articles missed by the computerized database search.
参考文献も精査した模様

これらの基準(randomization, placebo control, at least 1 group receiving a sympathomimetic medication, and extractable outcomes reported.)でスクリーニング。

Jadadの6項目は以下のとおりで、2名が独立して評価、不一致についてはコンセンサスで仲裁(Disagreements were arbitrated by consensusとの記述だが、第三者の名前が出ていないので2人で話し合って決めたということか…?コンセンサスって複数の合意という意味合いだと思うが2人でもコンセンサスって表現するのかな…もっと複数っていうニュアンスだと思っていたが…)。

description of randomizationランダム化
adequacy of blinding盲検化
description of withdrawals and dropouts試験脱落
appropriateness of statistical analysis統計分析(具体的になにをさすんだろう…。サンプルサイズの計算とかかな…)
description of inclusion and exclusion criteria組み入れ基準/除外基準
and method of assessing adverse treatment effects有害事象の評価


用量、治療期間、剤形などの情報を抽出

用量別、剤形別などいろいろサブ解析しますよってことが書いてある

元論文の質ごとの解析もするよ、とのことですが、
high- and low-quality (Jadad score <6)
と…。満点以外は低品質ということですかね。


859試験ひっかかり、それを厳選していった模様
非英語文献も6個みつかってますが、ざっくり除外しちゃってます。
バイタルサインのデータがなくて60試験除外されており、さらにバイタルサイン変化無しとしか記載されていない20試験が除外されてます。
(↑このあたりバイアスとなりそうですね。本当にまったく変化がなかった試験が20あって、それが除外されてたら、差がつく方向へ偏ります。一方、バイタルのデータがない試験のFundは企業でしょうか、公的機関でしょうか…。このあたりも気になるところ)

24試験集まりましたが
Australia, Switzerland, United States, England, Italy, Austria, Germany, Belgium, and Finland
アジアはない模様…

また、このうちの16試験はクロスオーバー試験で、ウォッシュアウト期間は1~14日、平均7日

試験期間はどれくらいでしょうか
平均4.6日(1~28日)
短いですね…。1日ってどういうこと?
1ヶ月をこえる試験はない模様

Jadadスコアの平均は5.9
前述の項目はほぼしっかりできている試験が選ばれているようですね。ただクロスオーバーが多いですが。

で、Resultはアブストのところで記載したとおり。

平均値としてほんのちょっと血圧上昇と言われても、"平均値"ですからね…
グンッ!と上昇した人がいなかったかどうかが知りたいんですけれども…

と思っていたら、フルテキストには記載がありました

平均血圧20mmHg以上の増加:2名

ムムム、これはなかなか。
(分母が1000名くらいでしたっけ。いやプラセボを抜いたら、もっと少ないのかな?それとも"24 studies involving 1108 patients exposed"て記載があるから、プソイドエフェドリン投与群の人数だけでこの人数なんでしょうか…)
どちらにしろこれはちょっと無視できない数かも

高血圧患者5名は、血圧が145/94 mm Hgを超えた
19名がDBP89を超え、16名がSBP139を超え、、、
などなど細かいデータも記載されていますが、
ほとんどの試験において、「ベースラインの血圧の記載がない」「プラセボ群も血圧上昇していた」「心拍増加の症例について絶対値の記載がない」といった元文献の記述が不十分であることについても触れられています。

このメタアナリシス、患者の平均年齢は 34.9 years (range, 20-63 years)です。これがもっと高年齢を中心としたものだとしたら、血圧上昇例はもっと多くなるかもしれないと思いました。また、高血圧の患者数はどれくらいだったのか…。正確なn数は不明ですが、Five trials with 7 treatment arms investigated the effects of pseudoephedrine treatment in patients with stable, treated hypertension, という記載があるので、安定した高血圧患者はそこそこ含まれていたようです。

なにはともあれ、アブストを見て、血圧平均1mmHg上昇かあ~、ぜんぜん問題ないじゃんって終わらせてしまっていいのか…というとちょっと慎重になったほうがいいのかもしれません。

Stroke associated with sympathomimetics contained in over-the-counter cough and cold drugs. - PubMed - NCBI
Stroke. 2003 Jul;34(7):1667-72. Epub 2003 Jun 5.
こういう報告もありますからね。PPA(Phenylpropanolamine)はたしか日本の市場から消えたんでしたっけ?
PPAが報告が多いもののプソイドエフェドリンでも報告があります。
血圧が極端に跳ね上がるような症例で、こういう転帰を辿るおそれがあるということでしょうか。
元のメタアナリシスのディスカッションにおいても、交感神経刺激作用による極端な反応は、1000例ちょっとの小さいサンプルサイズで検出できない可能性があると指摘されています。

まあ、このメタアナリシスは2005年の報告ですので(脳卒中の報告は2003年)、その後もスタディはどうなっているのか調べたほうが良さそうですね。
(だれかかわりにやってくれないかなぁ~…)

あ、そういえばこのメタアナリシス、1ヶ月以上の使用期間の試験はなかったので、冒頭の長期使用の安全性についての答えにはなってないですね…。
長期安全性については、別の研究で検討したほうがよさそうです(フリダシに戻る…)。