pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

何を信じるか

前回(当ブログの取扱説明書 - pharmacist's record)からの続きになりますが、ここからが本題です。

つい先日、著名な某先生とのやりとりで、「ブログからの情報収集において、発信者のバイアスの可能性を考慮し、自分自身で出典にあたることの重要性」について意気投合したのですが、個人的には、こんな感じで捉えております。

原著論文:料理
論文抄読ブログ:食レポ

メーカーさん主催の講演会も公開食レポみたいなものですね。


実際のデータをどう解釈したか、必ずしも満場一致とは限りません。
賛否が分かれることもしばしばみられます。
そうなると、試食せずに食レポを見るだけの人にとっては、結局どの食レポを信じるか、ということになります。味見をしないでいいのかな…と思ってしまうのですが、味見をしない人はけっこう多いです。


ちょっともやもやする一例を挙げさせていただきます。

メーカーさん主催の勉強会の内容を鵜呑みにする人たちを非難する一方で、論文要約ブログやSNSで偉人クラスのEBMマスター(私のようなひよっこではない)のコメントを見て、原著をろくに読まずにその内容を自分の意見とばかりに主張する…。

これ、やってることはまったく同じですよね。結局他人の言葉を鵜呑みにしているだけですから…。

うーん、残念な一例ですね、これは。

はい、この一例、過去の私です

EBMに触れたばかりの人に多い印象なのですが、気のせいでしょうか…。

食レポを一切見ずに(論文を読んだ人たちの批判的吟味の内容を知らずに)、自分で試食をして本当に同じ結論に至るのかな…?と思ってしまいますよね。
EBMマスターたちが不味い不味いって言ってるから、不味いように感じているだけで、本当はその料理の味なんて何もわかっていないのでは?と。
(これ、ほんと私の後頭部にブーメランとなって突き刺さりまくりです)

もちろん食レポなんて見るなというわけではありません。とても勉強になります。「おぉ!その視点は見落としていたぁ!」と感銘をうけるレポも多々あります。いろんな見方があるので新しい価値観などを与えくれます。自分自身の味覚そのものに影響するくらい考え方が引っくり返ることもあるでしょう。とくに尊敬している人の食レポには感化されやすいことかと思います。

ただ、ここがまた問題だと思っていて…
自分は尊敬している人の主張こそじっくり吟味するようにしています。
憧れの先生が言うことなんだから正しいに決まっている、という感情はバイアスとなりえますので、憧れや尊敬は情報の吟味においては邪魔だと感じます。尊敬している人だからこそ、あれ?と思ったら、自分が納得のいくまで安易に同調してはいけないと。
ちょっと共感できないな、という場合は、自分の解釈がおかしいのかもしれないという気持ちも持ちつつ、だからといって自分の考えを棄却せずに保留にしておくようにしています。納得のいくまでは保留です。
もちろん、意見交換できれば最高でしょうね。論文抄読会というのはいろんな価値観に触れるという意味で勉強になるんだろうな、と思います。


ただ、たまにワークショップとかに行くと、「ムムム、これは…」と思うことも。
ある薬に関する論文がテーマだったんですが、主催する先生方はみんな否定的なんですね。はっきりと口にせずとも、そういう空気感はヒシヒシと伝わってきました。もうそういう方向に持っていこうとしているのがみえみえで、参加者も全員その考え方に傾倒していくのがまるで目に見えるかのようで…。
もちろん主催者側の先生方は原著を読んで吟味して、その薬の評価に対して意義あり!との考えをお持ちなのですから、正しい論文の読み方・評価の仕方を広く伝えようとしてそのような空気感になってしまうのでしょう。そして、そのような試みは大変すばらしいことなのですが、もうちょっとフラットにしないと、意見の押し付けになっちゃうのでは?という気もしてしまい、メーカーさんの講演会と類似した空気(ベクトルは逆ですが)を感じ取ってしまいました。

これを解消するためには、「とにかくどんな意見でもカモン!」という空気をつくらないと駄目ですよね。私の知る限りではJJ CLIPのジャーナルクラブはとてもフラットな意見交換の場となっているように感じています。あの空気感はすごいですね。反対意見もカモン!という空気ができあがっています。

えーと、JJ CLIPから話を戻しまして…。
偏った空気感に晒されることについてでしたね。
そうなると、結局は誰を(何を)信じるか、ということになってしまうのでは?という懸念があります。
環境にも大きく左右されるでしょう。どちらの意見の先生方に囲まれているか、によって考え方が変わってきてしまう可能性もあります。

なかにはメーカーさん主催の講演会などには参加するな、とまでおっしゃる先生方もいらっしゃいますね。
個人的には、これは反対で、ありとあらゆる食レポを見た上で、自分の舌できちんと味見できるようにならないといけないと思っています(大変ですけど)。

メーカーさん主催で発信される情報だってきちんとした研究結果などを基にしていますからね。勉強になると思いますよ。売り上げに繋がるような情報だけをつまんできたり、重視するポイントがズレている可能性はありますが、それこそきちんと教えてあげればいいだけです。

ケンカしてたら、双方から話を聞きますよね。片方だけから話を聞いたら偏ります。バイアスですね。
情報の解釈だって、主張がぶつかってるなら、すべての主張を見ておいたほうが公平に考えることができます。そして吟味する上で必須なのが味見(原著のチェック)だと思っています。

とにかくいろんな考え方に触れさせること、そして疑問点があればきちんとエビデンスベースで議論をする。
これが大事なのではないでしょうか。


というわけで、このブログはちっぽけな食レポのひとつにすぎません。異論もあって当然です。
このブログの中に、調べ物と類似のテーマがあったとしても、きちんと味見をしてから臨床現場に活かしていただけると幸いです。

そのうち機会があれば、知り合いのブロガーさんたちと、ひとつの料理(論文)をテーマに、「いっせーのせ!」で食レポ(論文抄読記事)を一斉アップするってのも面白そうだなと思ってます。ええ、まあやりませんけどね。私以外のみなさんでやってくれないかなぁ。。