pharmacist's record

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NOACの出血リスクは相互作用が懸念される他剤との併用により上昇する?

Association Between Use of Non-Vitamin K Oral Anticoagulants With and Without Concurrent Medications and Risk of Major Bleeding in Nonvalvular Atri... - PubMed - NCBI
JAMA. 2017 Oct 3;318(13):1250-1259.PMID:28973247

目的:NVAFに対するNOACの出血リスクを併用薬(NOACと代謝経路を共有する薬剤)の有無で評価

研究デザイン:Retrospective cohort study
(台湾のデータベースを使用 91 330 patients with nonvalvular atrial fibrillation who received at least 1 NOAC prescription of dabigatran, rivaroxaban, or apixaban )

P:NVAF
E:NOAC+代謝経路を共有する薬剤
C:NOAC単剤
O:出血リスク

検討した併用薬は、
atorvastatin; digoxin; verapamil; diltiazem; amiodarone; fluconazole; ketoconazole, itraconazole, voriconazole, or posaconazole; cyclosporine; erythromycin or clarithromycin; dronedarone; rifampin; or phenytoin.

アウトカムの「出血」の定義は、
Major bleeding, defined as hospitalization or emergency department visit with a primary diagnosis of intracranial hemorrhage or gastrointestinal, urogenital, or other bleeding. 


<結果>
NVAF91330名(平均年齢75歳、男性56%)
NOAC exposure: dabigatran, 45 347 patients; rivaroxaban, 54 006 patients; and apixaban, 12 886 patients
4770 major bleeding events occurred during 447 037 person-quarters

出血リスクが増加した併用薬は以下のとおり
adjusted incidence rates per 1000 person-years of major bleeding
38.09 for NOAC use alone vs 52.04 for amiodarone (difference, 13.94 [99% CI, 9.76-18.13])
102.77 for NOAC use alone vs 241.92 for fluconazole (difference, 138.46 [99% CI, 80.96-195.97])
65.66 for NOAC use alone vs 103.14 for rifampin (difference, 36.90 [99% CI, 1.59-72.22);
56.07 for NOAC use alone vs 108.52 for phenytoin (difference, 52.31 [99% CI, 32.18-72.44]). 

出血リスクが減少したのは
atorvastatin, digoxin, and erythromycin or clarithromycin 

有意差がなかった併用薬は
verapamil; diltiazem; cyclosporine; ketoconazole, itraconazole, voriconazole, or posaconazole; and dronedarone


結果を考察する前に…

各薬剤のプロファイルは?

Drug Development and Drug Interactions: Table of Substrates, Inhibitors and Inducers
上記FDAのサイトを調べつつ、添付文書もチェック。
《》内は添付文書の記載。特筆すべき内容がなければスルーしてます。

・ダビガトランdabigatran:P-gpの基質
《P-糖蛋白の基質である。本剤は肝薬物代謝酵素P-450による代謝を受けない》
・リバーロキサバンrivaroxaban:CYP3Aの基質(中程度の感度)
《チトクロームP450 3A4及び2J2(CYP3A4及びCYP2J2)により代謝される.また,本剤はP-糖蛋白及び乳癌耐性蛋白(BCRP)の基質》
・アピキサバンapixaban:FDAサイトに記載なし(新しいから???)
《主にCYP3A4/5によって代謝される。また、本剤はP-糖蛋白及び乳癌耐性蛋白(BCRP)の基質となる》


・アトルバスタチンatorvastatin:CYP3Aの基質(中程度の感度)、OATP1B1/OATP1B3の基質
ジゴキシンdigoxin:P-gpの基質
・ベラパミルverapamil:CYP3Aを阻害(中等度)、CYP3Aの基質(中程度の感度)、P-gpを阻害
《肝代謝酵素CYP3A4で代謝される。また、本剤はP‐糖蛋白の基質であるとともに、P‐糖蛋白に対して阻害作用を有する》
・ジルチアゼムdiltiazem:CYP3Aを阻害(強)(P-gp inhibitorと注釈あり)
・アミオダロンamiodarone:CYP2C9阻害(中等度)、CYP2D6阻害(弱)、P-gp阻害
《主として肝代謝酵素CYP3A4で代謝される》
・フルコナゾールfluconazole:CYP2C19阻害(強)、CYP2C9阻害(中等度)、CYP3A阻害(中等度)
・ケトコナゾールketoconazole:CYP3A阻害(強)、P-gp阻害(vitro)
・イトラコナゾールitraconazole:CYP3A阻害(強)、P-gp阻害
・ボリコナゾールvoriconazole:CYP3A阻害(強)、CYP2B6阻害(弱)、CYP2C9阻害(弱)、CYP2C19(弱)
・posaconazole:国内未発売のためスルー!
・シクロスポリンcyclosporine:CYP3A阻害(中等度)、P-gp阻害、BCRP阻害、OATP1B1/OATP1B3阻害
・エリスロマイシンerythromycin:CYP3A阻害(中等度)、OATP1B1/OATP1B3阻害
クラリスロマイシンclarithromycin:CYP3A阻害(強)、P-gp阻害、OATP1B1/OATP1B3阻害
・dronedarone:国内未発売のためスルー!(心房細動につかう抗不整脈薬らしい・・。アミオダロンとhead to headでやってる)
・リファンピシンrifampin:CYP1A2誘導(中等度)、CYP2B6誘導(中等度)、CYP2C8誘導(中等度)、CYP2C9誘導(中等度)、CYP2C19誘導(強)、CYP3A誘導(強)、OATP1B1/OATP1B3阻害
《チトクロームP450 3A4(CYP3A4)をはじめとする肝薬物代謝酵素、P糖蛋白を誘導する作用がある》
・フェニトインphenytoin:CYP3A誘導(強)、CYP1A2誘導(中等度)、CYP2C19誘導(中等度)、CYP2C9の基質(中程度の感度)、CYP2C19の基質(強、S-mephenytoin)
《薬物代謝酵素CYP2C9及び一部CYP2C19で代謝される。また、CYP3A、CYP2B6及びP糖蛋白の誘導作用を有する》


ぐぬぬ…、疲れた。
(転記ミスの可能性もゼロではないので、臨床判断の際には、原典をご確認ください。)

ちょっと気になったのは、リファンピシン、フェニトインともに、添付文書にはP糖たんぱく誘導との記載があるが、FDAのサイトには記載がないこと。


と、まあこんな感じなのですが、いかがでしょう?
個人的には何がなにやら…という結果です。

アブストに記載されているデータは、NOACとしてひとくくりにして評価されてしまっており、あまり有用なデータとはいえないように思います。
前述のとおり、NOACの代謝経路は同一ではないので、それをまとめてしまったら元も子もないような…。
(大きな違いは、ダビガトランがCYPの影響を受けないとされていることでしょうか)

傾向スコアを使用して調整したみたいですが、交絡まみれでわけがわからなくなってんじゃないの?という気もしますね。

作用機序から予想される結果と相反するものもあります。

たとえばこのアブストのデータにより、リファンピシンはNOACの出血リスクを高めると言えるのでしょうか…?
リファンピシンは各種CYPの誘導、P-gp誘導、OATP阻害とされていますが、これだとNOACの効果を弱めるのではないかと推測されますが、コホート研究の結果は出血リスク増大となりました。では、リファンピシンはNOACの作用を強めるか?と言われれば、それは違うのではないかと。

CAM,EMは有意差がなかったからといって、NOACの作用に影響しないと言えるのでしょうか?
CYP3A阻害作用による影響を無視できるかどうか、この研究だけでは判断できないように思います。

シクロスポリンも有意差無しとのことですが、CYPもP-gpも阻害…。本当に影響はないのでしょうか?

この研究、どのように解析したのかわかりませんが、後ろ向きコホートということで、リアルワールドのデータを使用しているということになります。ということは、併用薬を考慮して投与量を調節した上でのNOAC使用のデータだと考えられます。
もしかしたら、リファンピシン飲んでいるから本来低用量とすべき症例に高用量で投与したり…ということもあったのかな?などいろいろ考えさせられます。

このアブストの結果をみた自分の感想としては、薬物動態的に相互作用を起こしうる薬剤との併用は要注意。投与量を調節すること自体が難しい
という印象を受けました。

NOACの登場以降、ありとあらゆる論文が量産され、わけがわからない状況となっており、なにがベストなのかといろいろ悩まされます。個人的にはこのNOACが良い・悪いというのではなく、各薬剤のプロファイルからコントロールしやすいものを選ぶのが良いのではないかと考えています。
(CYPに影響するような薬剤をたくさん使っている患者さんには、ダビガトランが使いやすいなど。)

RCTではおそらく相互作用のある薬剤が投与されている患者さんは除外されてるのではないでしょうか?(すみません、ちゃんと調べてないのであくまで推測です。NOACに都合の悪いデータがでたら困るので、除外されてそうな印象)
ですが、リアルワールドではそんなことは不可能でしょう。なにかしら相互作用をおこしうる薬剤を投与されていることのほうが多いのではないでしょうか。服用している薬がどのNOACとも相互作用をおこしうるのであれば、ワルファリンでのコントロール(PT-INRをチェック)のほうがイケてるかもしれません。

やみくもにどのNOACがベストか、といった解析をするのではなく、○○を服用している患者さんにはこのNOACが使いやすい(あるいはNOACは全滅でワルファリンがベスト!など)というようなことを紐解いていくべきではないかと思っています。


さて、ひさしぶりにNOAC関連の文献をピックアップしました
NOACについては、さまざまな研究結果が出てきて、とてもこの領域は追いきれないなと思い、NOAC論文はあえてスルーしてきたという経緯があります。

では、なぜ今回、NOACをとりあげたかというと…


https://aheadmap.jimdo.com/過去のお知らせ/
このブログをお読みになられている方は、すでにご存知かと思いますが、黄川田先生(通称;ニンジャ先生)がご逝去されました。
ニンジャ先生が運営されていたブログ(【薬局薬剤師の記録的巻物】)は薬局薬剤師がエビデンスベースで情報発信をする先駆けとなり、多くのフォロワーを生みました(私もそのひとり。ブログを開設するにあたって、はてなブログを選んだのはニンジャ先生の影響です)。
いろいろと忙しいとき、エビデンスベースの勉強なんてやめてしまおう(3次資料のほうが楽だし)!ブログもやめちまえ!と何度も思いましたが、絶え間なく情報発信を続けるニンジャ先生をみて、くじけずに続けてきたように思います。

一昨日、JAMAのメールで、今回とりあげた論文を見たとき、「ああ、NOACか。併用薬関連で面白そうだけど、自分はNOACは苦手だし、ニンジャ先生が取り上げてくれるだろう」と思い、ハッとしました。ニンジャ先生は以前よりNOAC関連を漏らさずピックアップしていたように思いますので、今回もニンジャ先生が…と思ったのです。ニンジャ先生がご存命なら、間違いなくこの論文を取り上げたことでしょう。
といった経緯から、僭越ながら、ニンジャ先生のかわりに私が取り上げた次第です。

薬剤師による論文関連の情報発信が増えてきたことですし、私はマイペースで更新を続けていこうと思っています。
あとは我々に任せて頂いて、ニンジャ先生はゆっくりとお休みください。
おつかれさまでした。