最近、スタチンがdeprescribingの対象として議論の的となっているようです。
他にもdeprescribingの対象となる薬がたくさんありそうな気もしますが、鉄壁のエビデンスがある(と信じられてきた?)スタチンに焦点をあてるのは凄いなぁと思いました。
雑魚はいいから本丸を切り崩せ!という感じでしょうか?
常識を疑え!というのは重要な視点ですね。
意識して避けてたわけではないですが、スタチン関連の論文は今までまったく読んでなかった気がします。
最近記憶喪失がひどいのですが、ブログ内検索してもほとんどヒットしないので、ほんとに読んでないんでしょうね
スタチンがdeprescribingの対象として検討されるようになったキッカケはこの論文でしょうか?
Safety and benefit of discontinuing statin therapy in the setting of advanced, life-limiting illness: a randomized clinical trial. - PubMed - NCBI
JAMA Intern Med. 2015 May;175(5):691-700.
研究デザイン:multicenter, parallel-group, unblinded, pragmatic clinical trial. intent-to-treat approach、非劣性試験
P:心血管疾患CVDの一次予防or二次予防として3ヶ月以上、スタチンを服用している推定余命1ヶ月~1年の成人(機能状態が悪化傾向にある患者が該当。ただしCVDの悪化(active cardiovascular disease)は含まない)
E:スタチンの中止
C:スタチン継続
O:60日以内の死亡
試験期間:最長1年間
オリジナルのプロトコルでは、プライマリエンドポイントが生存率と設定。
生存期間中央値が13週で、2-week difference in survivalを検出するためのサンプルサイズが各群600名。
試験の途中にて、生存期間中央値が9ヶ月。再計算したところ30000以上のサンプルサイズが必要と推定され、プライマリエンドポイントを変更。
サンプルサイズの目標を360とし、プライマリアウトカムを60日以内の死亡に変更
非劣性仮説
60日以内の死亡:5%(90%CIの上限 difference in proportions is <0.05→非劣性マージン5%)
time to death:3週間
time to first cardiovascular-related event:2週間
スタチン中止189名→7名脱落→182名解析へ。
スタチン継続192名→3名脱落→189名解析へ。
<患者特性>
平均年齢74歳
スタチン服用歴5年以上:7割
がん:4~5割
Charlson Comorbidity Index score:4.8~4.9
<結果>
スタチン中止 | スタチン継続 | 90%CI(中止-継続) | |
---|---|---|---|
60日以内の死亡 | 23.8% | 20.3% | −3.5% to 10.5% P=.36 |
プライマリアウトカムの60日以内の死亡について、90%CIの上限が10.5%で、非劣性マージン5%を超えており、スタチン中止群は継続群に対して、非劣性を達成できず。
スタチン中止 | スタチン継続 | p value | |
---|---|---|---|
Survival生存率(median time) | 229 days | 190 days | P = .60 |
time to first cardiovascular-related event | NA | NA | P = .64 |
experienced a cardiovascular-related event | 13名 | 11名 | - |
<感想>
おやっ!?プライマリエンドポイントが非劣性を示せてないじゃん!と思いましたが、心血管イベント発生までの期間に差はなく、イベント発生総数は13名(7%)vs11名(6%)。生存率は中止群でやや優位。とはいえ、セカンダリの評価にはサンプル数が足りず、検出力不足ってこともあるかもしれません。
Total McGill QOL was significantly higher among the group discontinuing statin therapy (mean area under the curve, 7.11 vs 6.85; P = .04)ということで、QOLは中止群でやや優勢のようですが、よくわからないスコアですね…。table2を見る限り、ほぼ同等と捉えてもよさそうな印象。まあ悪化することはないだろうという感じです。
盲検化されてないということや、参加者はスタチン中止群に割り付けられることを望んでいた(patients who enrolled were those willing to be randomized to statin therapy discontinuation)といったことなどがLimitationとして挙げられており、外的妥当性については慎重に考えたほうが良さそうです。
スタチンをやめたがっていた患者層だったってことは外的妥当性を考える上で重要かなと思いました。予後が限定されていて、薬なんて飲みたくない!という患者さんに対してはスタチンのdeprescribingを考慮してもよいかなという印象です。
少ないとはいえ(中止群で7%)、心血管イベントは起きていますので、いざスタチンをやめて心血管イベントが発生したらと思うと怖いですね…。薬を減らすのが不安だという患者さんにスタチンの中止を推奨するのはちょっと厳しいかな~というのが正直なところです。