一般的に経口薬よりも坐薬のほうが効果が早いというイメージがありますが、小児によく用いられるアセトアミノフェン製剤は坐薬よりも経口薬のほうが血中濃度の立ち上がりが早いことで有名です。
アンヒバ坐剤®
(各種インタビューフォーム引用)
パラメータ
Cmax(μg/mL) | Tmax(hr) | AUC0~∞(μg・hr/mL) | T1/2(hr) | |
カロナール錠200mg® 2錠(400mg) | 9.1±2.9 | 0.46±0.19 | 19.03±2.45 | 2.36±0.28 |
アンヒバ坐剤® 400mg | 4.18±0.31 | 1.60±0.16 | 20.36±1.75 | 2.72±0.26 |
坐剤よりも経口薬のほうがCmaxが高く、Tmaxが短い。
T1/2は坐剤のほうが長い。
AUCはやや坐剤のほうが高いがほぼ同等
小児用薬の医学書などを見てみると、この血中濃度の立ち上がりの違いから、坐剤よりも経口薬のほうが早く効くと記載してあったりするのですが、本当にそうでしょうか。
大昔の文献ですが、こんなのがありました。
Antipyretic therapy. Comparison of rectal and oral paracetamol. - PubMed - NCBI
Eur J Clin Pharmacol. 1977 Aug 17;12(1):77-80.
対象:直腸温38.5度以上の感染症に罹患した小児30名(4ヶ月~12歳)
アセトアミノフェン10mg/kg シロップ剤と坐剤で比較
<結果>
・両剤形ともに体温が有意に低下
・最大解熱までの時間は、経口薬のほうが2時間早い
・シロップ剤の最大解熱は-1.58℃
・坐剤の最大解熱までの時間は投与後6時間で、最大解熱は-1.24℃
シロップのほうが解熱が早く、解熱の度合いも大きいという結果となっています
(余談ですが坐剤の基材はトリグリセリドがベースのものよりポリエチレングリコールのほうが少し吸収が良いという記述もありました。国内のアンヒバ®やアルピニー®の添加物はハードファット。ハードファットとはモノ・ジ・トリグリセリドの混合物だそうです)
血中濃度のグラフのとおりで、医学書の記載内容は正しいのかと納得しかけましたが、上記データはかなり古いですし、もう少し調べてみます。
なんとメタアナリシスがありました。しかもJAMAに無料登録すれば全文フリー。
Effectiveness of oral vs rectal acetaminophen: a meta-analysis. - PubMed - NCBI
Arch Pediatr Adolesc Med. 2008 Nov;162(11):1042-6.
研究デザイン:ランダム化、準ランダム化比較試験のメタアナリシス
介入:アセトアミノフェン 経口投与vs直腸投与(rectal)
アウトカム:解熱、鎮痛
Inclusion Criteriaによると言語制限は無し、ただしアブストは英語。全年齢を対象
2名のレビューアがデータを抽出。データはダブルチェックされ、不一致についてはディスカッションにより解決
<結果>
アウトカム:解熱
4つのRCTが選定
成人1RCT、小児3RCT(3ヶ月~6歳、6ヶ月~6歳、6ヶ月~13歳)
inclusion temparatureは直腸温38.3~39度以上
被験者の数は37~83名程度の小規模RCT
Fig1~4
アウトカム | WMD(weighted mean difference)95%CI | 異質性I2 |
---|---|---|
decline in temperature at 1 hour | WMD -0.14℃(-0.36to0.08) | 0% |
decline in temperature at 3 hour | WMD -0.10℃(-0.41to0.21) | 0% |
maximum decline in temperature | WMD -0.10℃(-0.24to0.04) | 0% |
time to temperature reduction by 1℃ | WMD -0.06℃(-1.34to1.23) | 94.8% |
(WMDが負の数字だと直腸投与が有利、正の数字だと経口投与が有利)
上段3つは異質性もなく、1つ1つの試験で有意差がでてない。
ただ、"1℃下がるまでの時間"は異質性が高く、経口投与が有利だった試験(older限定)と、直腸投与が有利だった試験がある。
メタアナリシスでは経口投与と直腸投与に有意な差はないという結果です。
フォレストプロットを見ると一目瞭然。ほぼ真ん中で揃っていますね。
さらにこのメタアナリシスの2年後に新たな報告
Comparison of antipyretic effectiveness of equal doses of rectal and oral acetaminophen in children. - PubMed - NCBI
J Pediatr (Rio J). 2010 May-Jun;86(3):228-32
研究デザイン:ランダム化並行群間(parallel group designed)試験
P:直腸温39℃以上の小児60名
E/C:アセトアミノフェン15mg/kg Group1直腸投与(n=30)、Group2経口(シロップ)投与(n=30)
O:体温(ベースライン、1時間後、3時間後)
<患者特性>
平均月齢:24~27ヶ月(range 6ヶ月~6歳)
平均体重:12kg
ベースラインの体温:39.5℃
<サンプルサイズ>
体温0.5℃の差を検出するために必要なサンプルサイズはα0.05、power80%で各群22名。脱落を考慮して30名ずつ登録した。
脱落は直腸投与で3名、経口投与で4名。理由はtheir parents elected to leave the clinic before the study was overとのことで詳しい記載は無し
<結果>
体温
ベースライン | 1時間後 | 3時間後 | |
---|---|---|---|
直腸投与(n=27) | 39.53±0.32 | 38.46±0.30 | 37.80±0.32 |
経口投与(n=26) | 39.55±0.32 | 38.57±0.39 | 37.86±0.32 |
(アブストラクトのresultの経口投与の数値は間違っていると思います。本文のtable2,table3の数値が正しいと判断しました)
こちらの試験においても有意差無し。
海外の試験で用いられた坐薬の基材の記述が見当たりませんが、国内の製剤で用いられているハードファットよりも吸収が良いのでしょうか。
国内と国外の製剤でさほど大きな吸収の差はないんじゃないかという気がするのですが…。
血中濃度の推移からアセトアミノフェンは経口のほうが早く効く!という説は個人的にはちょっと支持できないかなぁと思いました。差があったとしても臨床的に意義のある差ではなさそうだという印象。
小さいお子様だと坐薬の使用は困難かと思います。物心ついてきたお子様だと心理的に抵抗もあるでしょう(発熱でぐったりしていたらそれどころではないかもしれませんが)。
個人的には嘔吐を繰り返しているような状態でなければ、経口投与が良いかなと思います。坐薬と同じくらい効くなら口から飲むほうがいいですよね。
ただ、飲み薬が大嫌い!というお子様であれば、坐薬のほうが嫌がらずに使用できるという可能性もありますね。
結局、効果に大きな差はなさそうなので、患者個々の特性にあわせてケースバイケースで剤形を選択するといったところでしょうか。
※おまけ
いくつかアセトアミノフェンの文献を取り上げましたが、すべて体温を直腸温で測定しています(どの試験でも38℃台の半ば以上といった高熱患者が対象となっている)。
一般に体温は、直腸温>口腔温>わきの下
と言われており、その差は、(Comparison of rectal, axillary, and forehead temperatures. - PubMed - NCBIArch Pediatr Adolesc Med. 1996 Jan;150(1):74-8.)においては、わきの下の温度+約1℃=直腸温
Mayo Clinicによれば(Thermometer basics: Taking your child's temperature - Mayo Clinic)発熱の定義は、
•Has a rectal, ear or temporal artery temperature of 100.4 F (38 C) or higher
•Has an oral temperature of 100 F (37.8 C) or higher
•Has an armpit temperature of 99 F (37.2 C) or higher
となっており、やはりわきの下の温度と直腸の温度は1℃くらい離れているようです。
今回とりあげたアセトアミノフェンの文献、みな高熱患者が対象とされていますが、すべて直腸温なので、わきの下で測定したら38度前後という患者さんも含まれるでしょう。体温の測定方法が違うことによるギャップは留意しておく必要があるかもしれませんね。