pharmacist's record

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メニエール病によるめまいにベタヒスチンは有効?

年明け早々話題になった論文ですが、けっこうびっくりな内容でしたね
Efficacy and safety of betahistine treatment in patients with Meniere's disease: primary results of a long term, multicentre, double blind, randomi... - PubMed - NCBI
BMJ. 2016 Jan 21;352:h6816.
STUDY QUESTION:メニエール病のめまい発作に対するベタヒスチン塩酸塩の長期的な投与は、プラセボと比較して有効か?

研究デザイン:多施設二重盲検化ランダム化比較試験
P:メニエール病(片側性または両側性)の成人21~80歳
E:ベタヒスチン ①低用量2×24mg/daily ②高用量3×48mg/daily
C:プラセボ
O:30日間のめまい発作の回数(7ヶ月~9ヶ月の3ヶ月間、自己記録)
試験期間:9ヶ月


<結果>
No of attacks per 30 days

Placebo(n=72) 低用量ベタヒスチン(n=70) 高用量ベタヒスチン(n=72)
最初の30日以内 Median(range) 4.5(0-37) 5.0(0-19) 4.0(0-23)
7~9ヶ月の1ヶ月平均 2.722(1.304 to 6.309) 3.204(1.345 to 7.929) 3.258(1.685 to 7.266)

rate ratio
低用量ベタヒスチン vs placebo 1.036(0.942 to 1.140)
高用量ベタヒスチン vs placebo 1.012(0.919 to 1.114)

 
・忍容性は良好で、予期しない有害事象はない
・疾患の自然経過を追跡できる無治療群がないため、プラセボ効果を正確に評価できない


<感想>
とても良く効く薬だという印象はない薬ではありましたが、プラセボに対する優位性は示せませんでした。
2001年にコクランもベタヒスチンがメニエール病に効果があるかどうかエビデンスが不十分と評価しています(Betahistine for Menière's disease or syndrome. - PubMed - NCBI Cochrane Database Syst Rev. 2001;(1):CD001873)。ほとんどの試験でめまいや耳鳴りの減少を示唆したが試験の質がいまいち。質の良い1つの試験(n=35)では、プラセボと比較して耳鳴りに有効ではなかったようです。

最近、有効性が期待できないということで塩化リゾチーム製剤が販売中止となりましたが、国内でベタヒスチンを再評価する試験が行われたらどうなるでしょうね…。
そもそも、ベタヒスチンはメニエール病ではなく、「めまい」という症状に対して処方されていることも多いです。これってBPPVじゃないのかなぁ?という患者さんにベタヒスチンが処方されてますよね。一応、添付文書には適応は「メニエール病、メニエール症候群、眩暈症」となっており、メニエールではない眩暈症にも使えるということでしょうか?

The effects of betahistine in addition to epley maneuver in posterior canal benign paroxysmal positional vertigo. - PubMed - NCBI]
Otolaryngol Head Neck Surg. 2012 Jan;146(1):104-8.
DB-RCTでBPPVに対するEpley法の補助的な役割としてのベタヒスチンの効果を無投薬・プラセボと比較して検討されており、ベタヒスチン投与群で有意に症状が改善したようです。ベタヒスチンはメニエールの薬で、BPPVには効かないと思ってましたが、こんな文献もあったのですね。
ただ、BMJの文献を読んだ後だとちょっと疑い深くなってしまいますね。フルテキスト閲覧できないですし妥当性を評価するには情報不足かも。


ベタヒスチンは急性期のめまいの改善には有効かもしれない(急性期のめまいにはプラセボ効果も期待できるかも??)、ただ長期間服用継続する意義があるのかどうか微妙といったところでしょうか。

最近問題視されているポリファーマシーについてですが、患者さんがベタヒスチンを飲んでいるとめまいが起こらず調子が良い!というのであれば、安価で、安全性は高く、害になることはないでしょうから、むやみに中止する方向へ持っていくのはどうかなぁ。不安がる患者さんもいますしね…。無茶な介入は患者さんのためにならないかも。
ただ、薬が多くて減らしたいの!と訴えのある患者さんの服用薬の中にベタヒスチンがあれば、deprescribingのターゲットになると思います。