インフルエンザの患者さんが減りませんね。
そろそろ終息して欲しいものです。
ところでインフルエンザの患者さんが来局すると慌ててマスクを着用する薬剤師さんが多いのですが(ウチの職場だけ??)、感染予防としてのマスク着用ってどうなんでしょう?
インフルエンザ限定ではないですが、呼吸器感染ウイルスの拡散防止についてのメタアナリシスがありました。
Physical interventions to interrupt or reduce the spread of respiratory viruses: systematic review. - PubMed - NCBI
BMJ. 2009 Sep 21;339:b3675.
目的:呼吸器感染症を引き起こすウイルスの拡散を防止/減少させる介入について検討
ザッとアブストで結果だけ見ていきますと、
6つのケースコントロールの解析結果は、各種予防対策は重症呼吸器感染症(severe acute respiratory syndrome)の蔓延防止に有効
1日10回以上の手洗い | OR0.45(95%CI 0.36 to 0.57) | NNT4(95%CI 3.65 to 5.52) |
マスク着用 | OR0.32(0.25 to 0.40) | NNT6(4.54 to 8.03) |
N95着用 | OR0.09(0.03 to 0.30) | NNT3(2.37 to 4.06) |
グローブ着用 | OR0.43(0.29 to 0.65) | NNT5(4.15 to 15.41) |
ガウン着用 | OR0.23(0.14 to 0.37) | NNT5(3.37 to 7.12) |
家庭内感染の防止にはこれらの併用が有効
フルテキストを見てみると、
対象となった研究は
Randomised controlled trial (n=4)
Cluster randomised controlled trial (n=14)
Case-control (n=7)
Prospective cohort (n=16)
Retrospective cohort (n=5)
Before and after (n=13)
その概略がtable1に記載あり
マスク着用の有用性は介入試験では確認できてないようですね。クラスターランダム化比較試験が2つありまして、1つは効果ありとなってますが手洗いとマスクの介入によるものでマスク単独の介入ではありません。もう1つのマスク単独のRCTは効果無しとなっています。
検索期間対象外でこのメタアナリシスには含まれていないですが、日本国内のRCTがあります。上記メタアナリシスとほぼ同時期に発表されたようです。
Use of surgical face masks to reduce the incidence of the common cold among health care workers in Japan: a randomized controlled trial. - PubMed - NCBI
Am J Infect Control. 2009 Jun;37(5):417-9.
背景:アジアでは医療従事者はサージカルマスクを一般的に使用しているが、上気道感染症の予防効果については不明
研究デザイン:RCT
P:日本の3次医療機関の医療従事者
E:サージカルマスク着用
C:マスク着用なし
O:風邪の頻度
フォロー期間:77日間
参加者は健康習慣やdemographics(人口統計? 年齢・性別など患者背景)などの情報を提供
参加者は77日間、8つの風邪症状を記録し、その自己報告に基づいて風邪の有無を決定
<結果>
32名が試験完遂(2464 subject days)
試験期間中に風邪は2例。両群において1例ずつ。
(There were 2 colds during this time period, 1 in each groupとの記載。32名77日間のうち風邪罹患は2例、両群1例ずつと解釈しましたが、若干少ないでしょうか。季節がいつだったかにもよりますが)
子供と同居している被験者は風邪の重症度が高い傾向。
<結論>
マスク着用の優位性は示せず。
マスク非着用がマスク着用に対して非劣性を証明するには、より大規模な試験が必要という結語。
ということですが、この試験は結果だけ以前より知っていました(「RCTでマスク着用は効果がなかった」という点のみ)が、アブスト読んだだけで、あれ?ちょっと印象が違うぞと思いました。
"マスクは効かない"とは言い切れないような…。
なぜなら両群ともに風邪は1例のみ。
これではちょっと検出力不足なんじゃないかと思います。
論文の結論にもマスク非着用の非劣性を証明するにはもっと大規模な試験が必要と記載されています。
こちらはインフルエンザとマスクに関するシステマティックレビュー。
The use of masks and respirators to prevent transmission of influenza: a systematic review of the scientific evidence. - PubMed - NCBI
Influenza Other Respir Viruses. 2012 Jul;6(4):257-67
table2に各研究結果が記載されていますが、1つ目が前述の日本のRCTです。
Limitationsにunderpowered studyと記載されています。やっぱり!
では、マスク着用は効果あるのかというと結局他の試験も微妙な感じ…。
8つの文献がピックアップされてますが、たとえば、Maclntyre2006(Face mask use and control of respiratory virus transmission in households. - PubMed - NCBI)では、
16歳以上を対象、influenza-like illness(ILI)の家庭内感染をアウトカムとしたクラスターランダム化試験ですが、
サージカルマスク、P2マスク(P2 respirator;防じんマスク)、マスク無しの3群で比較したところ、群間差は無しという結果。
元論文のフルテキストのtable4に詳細データが記載されてますがこれは効果無しかな…という印象です。
システマティックレビューにはこちらもunderpowered studyと記載されていますが、ILIの発生数はどの群も2桁を超えていて、それなりの検出力はあるような気がします。
※respirator:サージカルマスクと区別してレスピレータと呼ぶ。N95マスクが該当
盲検化できない介入の効果の判定は難しいところですが、どうもマスク着用は劇的な予防効果はなさそうです。
ちなみにN95ですらサージカルマスクとあまり差がないという文献もつい最近発表されました。(Effectiveness of N95 respirators versus surgical masks in protecting health care workers from acute respiratory infection: a systematic review and meta-analysis)
こちらはCDCのサイト(季節性インフルエンザの感染予防としてのマスクの使用について)
Interim Guidance for the Use of Masks to Control Influenza Transmission | Health Professionals | Seasonal Influenza (Flu)
インフルエンザウイルスのウイルス排出期間は症状発現の1日前~5日後
<非医療従事者>
Symptomatic Personsにおいては、
咳エチケットや、感染源接触後の手指衛生(石鹸と流水、アルコール消毒など)が推奨されており、人ごみではマスク着用も勧められています。
"No recommendation can be made at this time for mask use in the community by asymptomatic persons, including those at high risk for complications, to prevent exposure to influenza"
ただし、現時点では症状のない人はハイリスク患者においてもマスク着用は推奨はされていないとのこと(使用不可なわけではないようです)
<医療従事者>
"A surgical or procedure mask should be worn by health-care personnel who are in close contact (i.e., within 3 feet) with a patient who has symptoms of a respiratory infection, particularly if fever is present, as recommended for standard and droplet precautions"
呼吸器感染症の症状を呈している患者(特に発熱している場合)と3フィート(91センチ)以内まで接触する場合はマスクを着用する必要がある。マスクはサージカルマスクで良い。
最後に厚生労働省の見解を見てみます。
インフルエンザQ&A|厚生労働省
・皆が「咳エチケット」を心掛け、 咳やくしゃみが出るときはできるだけマスクをする
・飛沫感染対策ではマスクは重要ですが、感染者がマスクをする方が、感染を抑える効果は高い
・高齢者、基礎疾患あり、妊婦、疲労気味、睡眠不足の方は、人混みや繁華街への外出を控える。やむを得ず外出して人混みに入る可能性がある場合には、ある程度の飛沫等を防ぐことができる不織布(ふしょくふ)製マスクを着用することは一つの防御策となる
厚生労働省は基礎疾患のある方などに限り、非感染者も人ごみではマスク着用も防御策となるとしています(←この点はCDCと異なります。CDCは使用不可ではないが特別推奨はしないといったスタンス)。厚生労働省が勧めているマスクはガーゼマスクではなく不織布製マスク。N95などのレスピレータは不要です。
ただ咳が出ているような方は「咳エチケット」としてマスク着用を推奨となっています
CDCによると、医療従事者の場合はマスク着用が勧められているようです。ただし3フィート以内ということでかなり近接する場合です。薬剤師の場合は吸入指導の際に該当しそうですね。
エビデンスとしては微妙な感じもしますが、結局のところ感染者の飛沫を浴びるのを防ぐのは大事だということでしょう。
先日、同僚がマスクをつけるときに、マスクの紐をグーングーンと引っ張ってユルユルにしていて、なにをやってるのかと聞いたら、マスクをつけると、耳の形のせいか片側の耳の裏が痛くて痛くてたまらないのだと。耳の裏が痛くならないように緩くしていたんですね。
まさかマスクにそんな副作用があったとは…。そこまでしてマスクをつけなくてもいいような気もするんですけど…。そんな彼はインフルエンザの患者さんと接するときは必ずマスクをしていましたが、インフルエンザに罹患しました。予防接種もしていたのに…。
マスクによる予防効果は微妙で、あくまで感染対策の1つに過ぎないといったところでしょう。着用するなら市販の不織布製のサージカルマスクで十分。マスクだけでなく、手洗いや加湿(50~60%)、十分な休養、栄養摂取などの対策を併用することが大事だと思います。
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