pharmacist's record

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T2DM 食事療法(-500kcal/d)1日6食vs1日2食

Eating two larger meals a day (breakfast and lunch) is more effective than six smaller meals in a reduced-energy regimen for patients with type 2 d... - PubMed - NCBI
Diabetologia. 2014 Aug;57(8):1552-60

研究デザイン:ランダム化、オープンラベル、クロスオーバー試験
P:経口血糖降下薬服用中のT2DM患者52名(年齢30~70歳、BMI27~50、HbA1c6~11.8%
E/C:低エネルギー食(-500kcal/d) ①A6 regimen ②B2 regimen
O:体重、肝臓脂肪含量(HFC;hepatic fat content)、インスリン抵抗性、β細胞機能
治療期間:12週
ITT解析

患者除外基準:T1DM、3ヶ月以内の体重変動/治療薬の変更、妊婦授乳婦など

A6 regimen:1日6食 朝昼夕3食+間食3回
B2 regimen:1日2食 朝食(朝6時~10時の間)、昼食(12時~16時の間)

<ベースライン特性>

平均年齢 59歳
性別 男性29名、女性25名
DM罹病期間 8.1年
平均体重 94kg
平均BMI 32.6
HbA1c 7.2%
血圧 140/85
経口糖尿病薬の使用
メトホルミン 76%
SU 30%
チアゾリジン 6%
グリニド 4%
アカルボース 2%
DPP4i 35%


<食事制限について>
個々の安静時エネルギー消費量(REE;resting energy expenditure)を測定
1日摂取量:REE×1.5-500kcal/day

炭水化物carbohydrates:総カロリーの50~55%
たんぱく質protein:20~25%
脂質fat:30%未満(飽和脂肪酸7%以下、コレステロール200mg/d未満)
食物繊維fibre:30~40g
アルコール制限あり

試験期間中、計3日間食事内容を記録し、栄養士が分析

<治療薬について>
既存の経口糖尿病治療薬は継続
ただし、低血糖を繰り返した場合、プロトコルにしたがって医師により減量
低血糖:血液検査での空腹時血糖<80mg/dL or 簡易血糖測定(capillary glucose reading)<62mg/dL、低血糖症状を伴う


<結果>
脱落は計7名。A6 regimenのときにモチベーション欠如での脱落あり。B2 regimenでもほぼ同数の脱落があるが、個人的な(±家族の)理由と記載されている。ITT解析なので全例解析の対象となっている。

A6 B2 p value
総カロリー −378kcal/d −418kcal/d p=0.731
脂質 −35.0g/d −38.2g/d p=0.921
体重 -2.3kg(−2.7 to −2.0) -3.7kg(-4.1 to -3.4) p< 0.001
BMI −0.82(−0.94 to −0.69) −1.23(−1.4 to −1.17) p<0.001
ウエスト −1.37cm(−2.01 to −0.73) −5.14cm(−5.78 to −4.50) p<0.001
空腹時血糖 -8.4mg/dL -14g/mdL p=0.004
HbA1c -0.23% -0.25% p=0.08
HFC -0.03% -0.04% p = 0.009
REE -108kcal/d -90kcal/d p=0.3

その他のデータはtable2,fig2を参照

有害事象は観察されなかった。


<感想>
B2グループで低血糖がなかったのかどうかが気になります。SU剤の使用率が30%となっており、1日2食では、低血糖の懸念があるのかなと思ったのですが、低血糖による治療薬減量が必要とされた症例があったかどうかの記載は見当たらず、有害事象は観察されなかったとなっています。この点は気になりますね。
低血糖リスクのある糖尿病治療を受けている患者さんに1日2食を推奨するのはちょっと早計かなと思いました。

ディスカッションにおいて、B2グループのほうが体重減少が有意であった理由として、
・B2のほうがREEの減少が軽度であった(統計的に有意ではなかったが)
・B2の間欠絶食(intermittent fasting)の正の効果(インスリン感受性増大の可能性あり)

試験期間が12週と短く、研究の一般化を妨げる要因であり、長期的にどのような影響を及ぼすか不明。
参加者の半分に試験期間中、すべての食事を提供。これも外的妥当性が損なわれるように思います。
参加者より報告される食事摂取量は両群で同等としながらも、B2のほうが食事量を減少させていた可能性もあるとのこと。


空腹時のグルカゴンがB2では減少、A6では微増。

ちょっと脱線してグルカゴンについて調べてみます。
グルカゴンはすい臓のα細胞から分泌されるホルモンで、空腹になりインスリン分泌が減るとグルカゴンが分泌され肝臓のグリコーゲン分解、糖新生促進にて血糖値上昇。高血糖になるとインスリンが分泌されグルカゴンが過剰に作用しないようインスリンにより調節されます。
文献[1]によると、
・健常者においては食事によりインスリンが分泌され、グルカゴンは抑制されるが、T2DMではインスリン分泌低下によりグルカゴンが抑制されない
・炭水化物によりグルカゴンは抑制されるが、たんぱくや脂質の多い食事ではグルカゴンは増加する。
・SU剤はβ細胞に作用しインスリン分泌によりグルカゴンを抑制するが、α細胞を活性化させる作用もあるため、T2DMが進行しβ細胞が減少するとグルカゴンを増加させる。SU剤少量で効果が得られない場合はβ細胞の衰退が考えられ、むやみに増量してもグルカゴン分泌により十分な効果が得られない可能性がある。
・GLP1はグルカゴン分泌を抑制する。

[1]日本内科学会雑誌 Vol.102 (2013) No.12 p.3237-3243

グルカゴンはインクレチン関連薬の登場により再注目されたように思いますが、グルカゴンの変動も減量に影響しているのかもしれませんね。


このRCTから得られた知見は総カロリーが同じでも間食が多いのは良くないということかなと自分は思いましたがいかがでしょうか。
ぶっちゃけ痩せたくて読んでみた文献なのですが(自分はDMではないので対象外だけど)、夕飯抜きというのは、仕事終わりの唯一の楽しみが好きなものを食べることである自分にとってはかなりしんどいです。
まあ、好きなものばかり食べてるから太るんですけどね汗