pharmacist's record

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抗ヒスタミン薬と熱性痙攣

鼻炎や皮膚のかゆみに処方される抗ヒスタミン薬ですが、2014年7月読売新聞にて、抗ヒスタミン薬の小児における痙攣リスクについて記事になりました。

順天堂大練馬病院小児科より一覧表がお薬手帳に記載(商品名を成分名に改変)

安全 フェキソフェナジン、エピナスチン、レボセチリジン
比較的安全 ロラタジン、セチリジン、オロパタジン、メキタジン、アゼラスチン
痙攣誘発する可能性あり ケトチフェン、オキサトミド、d-クロルフェニラミン、シプロヘプタジン、ヒドロキシジン、クレマスチン、ジフェンヒドラミン

(日本医事新報 (4732): 105-106, 2015にも同様の記載があったようです。)

新聞には商品名が記載され、読者にとってインパクトがあったのではないでしょうか。

この分類の根拠は何かという点ですが、しばしば医学書でも引用されている中枢移行性についてのデータが元になっているのかなと思いました。

抗ヒスタミン薬の薬理学
日本耳鼻咽喉科学会会報 Vol. 112 (2009) No. 3 P 99-103
ヒスタミン薬のH1受容体占拠率(ヒト脳内移行性を示し、鎮静作用の強さに比例)

フェキソフェナジン120㎎ 2~3%
エピナスチン20mg 約8%
エバスチン10mg 10%
セチリジン10mg 約15%
オロパタジン5mg 約15%
ベポタスチン10mg 約15%
アゼラスチン1mg 約20%
メキタジン3mg 22~23%
セチジリン20mg 約25%
クロルフェニラミン2mg 51~52%
オキサトミド30mg 51~52%
ケトチフェン1mg 77~78%

(レボセチリジン、ロラタジンは記載無し)
このような中枢移行性のデータより痙攣誘発のリスク分類をしたのではないかと思われます。あくまで推測ですが。

一般に中枢移行性は、第一世代>第二世代(ケトチフェンは別格で中枢移行性が高く、てんかん患者に禁忌)

H1受容体占拠率の文献にロラタジンの記載がないですが、ロラタジンは添付文書上、フェキソフェナジンと同様に添付文書に運転等に関する注意喚起の記載がなく、眠気が少ないとされています。
その割に順天堂大の先生が交付している表にて、ロラタジンが“安全”ではなく“比較的安全”となっています。

2014年に安全性情報が出ており、この報告を加味したのかな?と思いました。
医薬品・医療機器等安全性情報|厚生労働省
2014年8月26日医薬品・医療機器等安全性情報315号
こちらに因果関係が否定できないロラタジンによるものとされる痙攣の報告あり
報告症例)
熱性痙攣の既往のある10歳未満の患児(てんかん無し)にて服用3~3.5時間後に30秒程度持続の痙攣あり(発熱はない)。
ロラタジン中止、セチリジンに変更しても痙攣が起こったとのこと
(過去に約2か月ロラタジン服用歴あり、そのときは異常なし)。

ということで…、悩ましいですね。
年間推定170万人に使用ということで、ごくまれにこのようなケースもあると留意しておくべきでしょう。


国内で、抗ヒスタミン薬が熱性痙攣の持続時間に影響するかについて検討した報告があります。
鎮静性抗ヒスタミン薬の投与により熱性けいれんのけいれん持続時間は延長する
脳と発達 Vol. 46 (2014) No. 1 p. 45-46
<背景>抗ヒスタミン薬は、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎、呼吸器感染症の小児患者に広く使用されている。熱性痙攣は国内において5歳未満の8~10%が経験する。抗ヒスタミン薬の投与により、熱性痙攣の痙攣持続時間が延長することが少数報告されている。

<方法>
熱性痙攣(単純性・複雑性)の既往のある206名を登録
てんかんなどの神経疾患9例、抗けいれん薬を投与した5例、痙攣持続時間不明の5例を除外
→187名(平均年齢2歳0ヵ月)
痙攣持続時間の最小単位は30秒として計測

<結果>

ヒスタミン薬投与あり(n=29) 投与なし(n=158)
月齢 中央値 21か月 24か月
痙攣既往回数 1回 1回
熱性痙攣家族歴 34% 29%
24時間以内の痙攣の再発 7例(24%) 12例(8%)
痙攣持続時間 中央値(25%tile~75%tile) 4.5分(1~7) 2.0分(1~5)
痙攣持続[5分未満、5~15分、15分以上] [51%、34%、14%] [70%、26%、4%]

ヒスタミン投与群のほうが痙攣持続時間が長い傾向にあり、痙攣の24時間以内の再発のリスクも高いという結果

この抗ヒスタミン薬投与群をさらに分類
H1受容体占拠率50%をカットオフとし、鎮静性の高い群と低い群で分類すると、50%未満の抗ヒスタミン薬投与群は、非投与群と痙攣持続時間に有意差なし。

ヒスタミン薬の内訳については文献に記載がありません。
第二世代についてはさほど影響はないかもしれませんが、第一世代は痙攣閾値を下げ、痙攣時間の持続に影響している可能性があることが示唆されています。


こちらは海外の文献
Histamine H1 antagonists and clinical characteristics of febrile seizures. - PubMed - NCBI
Int J Gen Med. 2012;5:277-81.
研究の目的:抗ヒスタミン薬が熱性痙攣の患者における痙攣を誘発させるかを検討すること
イントロダクション:熱性痙攣は5歳未満の2~5%でみられるもっともコモンな痙攣で、発症のピーク年齢は14~18か月。ヒスタミンレベルの増加は、発作閾値を上昇させ、痙攣の持続時間や重症度を軽減。第一世代の抗ヒスタミン薬はてんかん様活性を誘発。

対象:熱性痙攣をおこした283名の乳幼児→→無熱性痙攣や脳性麻痺、精神遅滞などの33名を除外し、250名が本研究に登録。
熱性痙攣の定義:38℃以上の発熱に関連した痙攣発作(中枢神経系の感染症、代謝異常、中毒は除外)。単純性と複雑性を含む。

第一世代:クロルフェニラミン、ジメチンデン(本邦未発売)
第二世代:セチリジン、ロラタジン、ケトチフェン

<結果>
ヒスタミン薬投与ありが84名、投与無しが166名。
家族歴は5割程度、平均月齢は27~30か月

投与なし(n=166) 第一世代抗ヒスタミン薬(n=55) 第二世代抗ヒスタミン薬(n=29)
平均痙攣持続時間 4.5分 9.3分 6.0分
痙攣持続時間[5~15分、15分以上] [70.5%、29.5%] [63.3%、36.7%] [79.3%、20.7%]

中枢移行性が高いとされる第一世代のほうが痙攣持続時間が長いという結果。
投与無しと比較して、第二世代のほうが持続時間がやや長かったのは、中枢移行性の高いケトチフェンが第二世代として含まれていることが影響しているのかもしれないと思いました。


こちらは国内のデータ
The relationship between drug treatment and the clinical characteristics of febrile seizures. - PubMed - NCBI
World J Pediatr. 2008 Aug;4(3):202-5
背景:テオフィリンや抗ヒスタミン薬は熱性痙攣を誘発することあり。熱性痙攣と薬物の使用との関連を調査

方法:熱性痙攣のためERにて治療をうけた265名の小児の、痙攣持続時間と薬物療法について調査

<臨床特性>
平均月齢:30か月
熱性痙攣の既往:0回(69%)、1回(15.8%)、2回(8.3%)、3回(3.4%)、4回(2.3%)、5回以上(1.1%)

薬物治療 痙攣持続時間(分)
No drugs(n=125) 4.8±6.5(5分未満:69.6% 15分以上:8.8%)
ヒスタミン薬(n=52) 4.5±5.8(5分未満:69.2% 15分以上7.7%)
テオフィリン(n=8) 9.1±11.3(5分未満:37.5% 15分以上:12.5%)
テオフィリン/抗ヒスタミン薬(n=11) 7.0±6.1(5分未満:63.6% 15分以上:18.2%)
テオフィリン/メキタジン(n=5) 3.8±3.6
テオフィリン/メキタジン以外の抗ヒスタミン薬(n=6) 9.7±6.8


<結論>
テオフィリンは発熱患児(とくに乳幼児)には使用すべきではない。抗ヒスタミン薬は、中枢のヒスタミン系を乱す可能性があるため、乳児に使用する際には注意が必要。メキタジンは痙攣を延長しないので、熱性痙攣の患児に使用する抗ヒスタミン薬として適していると考えられる


 "メキタジン以外の抗ヒスタミン薬"の内訳の記載がないですが、2008年時点では、フェキソフェナジンやレボセチリジン、オロパタジンなどの小児適応はなかったと思いますので、メキタジンよりも古い第一世代やケトチフェンかもしれません。第二世代の中では比較的中枢移行性が高めなメキタジンが熱性痙攣に適していると記載されていますが、2008年時点で使用可能だった抗ヒスタミン薬の中ではメキタジンは安全だと結論づけたのではないかと思います。フェキソフェナジンやレボセチリジン、オロパタジン、エピナスチンなどが適していないとは言えないかなと…。他の抗ヒスタミン薬がなんだったのか記載してほしかったですね…。
 ちなみにテオフィリンと併用した場合の痙攣持続時間で比較しているので、熱性痙攣既往の患児に対してテオフィリンと併用するならメキタジンが良いということなのでは?とも。抗ヒスタミン薬単剤では、投与無しと比較して痙攣の延長はなかった模様。


すみません、ごちゃごちゃしてきましたね。

・熱性痙攣の既往がある患児には、念のため第一世代やケトチフェンは避けて、中枢移行性の低い第二世代を選択した方が無難。
・中枢移行性の低い第二世代の抗ヒスタミン薬は、どの薬が安全でどの薬が危ないといった決定的な比較データはない。
・極めて稀だが第二世代でも安全性情報にて報告のあったような痙攣誘発をきたす可能性がある点は留意すべき。

そもそも風邪に抗ヒスタミン薬の投与は必要?という根本的な問題を議論すべきかもしれませんね。



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