pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

認知症の予後を評価するリスクスコア

Prediction of 6-month survival of nursing home residents with advanced dementia using ADEPT vs hospice eligibility guidelines. - PubMed - NCBI
JAMA. 2010 Nov 3;304(17):1929-35.
重度の認知症の6ヵ月生存率の予測におけるAdvanced Dementia Prognostic Tool (ADEPT)とHospice Eligibility Guidelinesの比較
研究デザイン:前向きコホート研究
高度認知症の施設入居者のADEPTスコア(table1)

ADEPTスコア
最近の介護施設入居(90日以内) 3.3点
65~69歳 1点
70~74歳 2点
75~79歳 3点
80~84歳 4点
85~89歳 5点
90~94歳 6点
95~99歳 7点
100歳~ 8点
男性 3.3点
息切れShortness of breath 2.7点
ステージ2以上の褥瘡pressure ulcerが1つ以上 2.2点
ADLスコア=28※ 2.1点
寝たきりBedfast most of day 2.1点
経口摂取不良Insufficient oral intake 2.0点
便失禁Bowel incontinence 1.9点
BMI<18.5 1.8点
最近の体重減少(30日以内で5%以上、180日以内で10%以上) 1.6点
うっ血性心不全Congestive heart failure 1.5点

※ADLスコア(Activities of daily living score)
7項目(0~4点)、計28点。点数が高いほうがADLが低い。
7項目の内容;ベッド上の動きbed mobility、服の着替えdressing、排泄toileting、移動transfer、食事eating、身づくろいgrooming、歩行 locomotion


ADEPTスコア(range;1.0-32.5点)と6ヵ月死亡率(table2)

ADEPTスコア 6ヵ月死亡数(前向きコホート n=606) 6ヵ月死亡率(前向きコホート n=606) 6ヵ月死亡率(後ろ向きコホート n=218088)
1.0-6.4 2/70 3%(0-10) 7.3%(7.1-7.4)
6.5-7.9 7/79 9%(4-17) 11.1%(10.9-11.3)
8.0-8.9 15/79 19%(11-29) 13.9%(13.7-14.1)
9.0-9.7 11/64 17%(9-29) 16.3%(16.1-16.5)
9.8-10.5 13/79 16%(9-26) 19.4%(19.2-19.6)
10.6-11.5 12/62 19%(10-31) 23.2%(23-23.4)
11.6-12.5 12/51 24%(13-37) 27.6%(27.4-27.8)
12.6-14.0 15/56 27%(16-40) 33.3%(33.1-33.6)
14.1-16.1 14/44 32%(19-48) 42.6%(42.3-43)
>16.1 10/22 45%(24-68) 62.1%(61.6-62.6)

前向きコホート606名中111名が死亡。

ADEPTスコアのみピックアップしましたが、男性というだけで3.3点ですか…。びっくりです。


上記のJAMAの文献のtable2に記載されている後ろ向きコホートの文献らしきものが下記の文献。n数がまったく同じなのでおそらくこれじゃないかと。
The advanced dementia prognostic tool: a risk score to estimate survival in nursing home residents with advanced dementia. - PubMed - NCBI
J Pain Symptom Manage. 2010 Nov;40(5):639-51
研究デザイン:後ろ向きコホート研究
Advanced Dementia Prognostic Tool (ADEPT)スコアと生存との関連(table3)

調整ハザード比 リスクスコア
最近の介護施設入居(90日以内) 1.72(1.69–1.75) 3.3点
年齢65歳~100歳以上(5歳ごとに8分類) 1.18(1.17–1.18)(per 5-year increment) 1~8点
男性 1.71(1.68–1.74) 3.3点
息切れShortness of breath 1.57(1.53–1.61) 2.7点
ステージ2以上の褥瘡pressure ulcerが1つ以上 1.44(1.41–1.46) 2.2点
ADLスコア=28 1.42(1.40–1.44) 2.1
寝たきりBedfast most of day 1.42(1.40–1.44) 2.1点
経口摂取不良Insufficient oral intake NA 2.0点
便失禁Bowel incontinence 1.42(1.40–1.44) 1.9点
BMI<18.5 1.35(1.32–1.37) 1.8点
最近の体重減少(30日以内で5%以上、180日以内で10%以上) 1.35(1.32–1.37) 1.6点
うっ血性心不全Congestive heart failure 1.35(1.32–1.37) 1.5点

(経口摂取不良については、本文中には2点として記載されてますが、table3には記載されていません。記載漏れでしょうか…?)

218088名のコホートにおけるADEPTスコアと観測された死亡数の関係(table4)

ADEPTスコア 被験者の人数(%) 6ヵ月死亡率 12ヵ月死亡率
1 84(0.04) 1% 6%
1–2 236(0.11) 4% 8%
2–3 1,232(0.56) 5% 11%
3–4 2,609(1.20) 6% 13%
4–5 5,859(2.69) 6% 15%
6–7 14,700(6.74) 10% 23%
7–8 18,439(8.45) 12% 26%
8–9 21,634(9.92) 15% 30%
9–10 23,036(10.56) 17% 33%
10–11 22,509(10.32) 21% 37%
11–12 20,938(9.60) 25% 42%
12–13 18,632(8.54) 29% 47%
13–14 15,038(6.90) 34% 52%
14–15 111,691(5.36) 40% 57%
15–16 9,512(4.36) 46% 62%
16–17 6,721(3.08) 52% 67%
17–18 4,955(2.27) 57% 71%
18–19 3,585(1.64) 64% 76%
19–20 2,547(1.17) 67% 79%
20–21 1,777(0.81) 73% 84%
21–22 1,154(0.53) 77% 87%
22–23 648(0.30) 83% 90%
23–24 385(0.18) 83% 91%
24–25 188(0.09) 88% 94%
25–26 99(0.05) 88% 96%
26–27 58(0.03) 83% 90%
27–28 21(0.01) 95% 100%
28–32 17(<0.01) 100% 100%

  
未調整ですが、重度の認知症と各種併存疾患の生存ハザード比をtable2より抜粋

併存疾患 未調整ハザード比
糖尿病Diabetes mellitus 1.16(1.14–1.18)
動脈硬化性心臓疾患Arteriosclerotic heart disease 1.13(1.11–1.15)
不整脈Cardiac dysrhythmias 1.42(1.39–1.44)
うっ血性心不全Congestive heart failure 1.44(1.42–1.47)
高血圧Hypertension 1.09(1.07–1.10)
末梢血管疾患Peripheral vascular disease 1.10(1.08–1.13)
脳卒中Stroke 1.20(1.19–1.22)
アルツハイマーAlzheimer’s disease(vs.other dementia) 0.80(0.79–0.81)
発作性疾患Seizure disorder※ 0.91(0.89–0.93)
パーキンソン病Parkinson’s disease 1.07(1.05–1.10)
COPD(Chronic obstructive pulmonary disease) 1.36 (1.33–1.39)
貧血Anemia 1.17(1.15–1.18)
がんCancer 1.51(1.47–1.55)
腎不全Renal Failure 1.76(1.71–1.81)
肺炎/呼吸器感染症Pneumonia or respiratory tract infection 2.03(1.99–2.07)
30日以内の尿路感染症Urinary tract infection in prior 30 days 1.51(1.49–1.54)
その他の感染症Other infections 2.09(2.03–2.14)
180日以内の股関節骨折Hip fracture prior 180 days 1.37(1.33–1.42)
180日以内のその他の骨折Other(non-hip)fracture prior 180 days 1.22(1.17–1.27)

※Seizure disorder;seizureはけいれん発作、disorderは障害。てんかんepilepsyとほぼ同義でしょうか…。

やはり感染症は死亡との関連が強いようです。
感染症になると予後が悪いというより、予後が悪い状態だから感染症を起こすという側面もあるかと思います。
骨折はやはりADLの低下を招くこともあって、予後に影響しており、腎疾患や呼吸器疾患など、呼吸や腎機能など基本的な生命活動が侵されている状態も良くないようです。
その一方で、中高年において成人病として恐れられている高血圧や糖尿病は、認知症の進行した高齢者においては予後との関連が小さい模様。

このような予後の予測についての文献を読んでいると、終末期の薬物療法について考えさせられます。
重度の認知症でADLも低下し、薬を服用するということも困難になってきた場合、この薬は本当に必要か??と思ったりすることはないでしょうか。
このようなリスクスコアの算出や併存疾患を元に予後を予測し、必要に応じて治療方針を再検討してみるというのも選択肢の1つではないかと思います。
今後、「薬を投与することで予後がどうなるか」よりも「薬を中断した場合に予後がどうなるか」というエビデンスも求められる時代になっていくのではないかと考えています。