pharmacist's record

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デュタステリドvsフィナステリド(前立腺肥大症)

供給が停止したデュタステリドですが、同効薬はなく、類似薬のクロルマジノンも供給が追い付かなくなって出荷調整となっているようです。
MRさんに聞いたところ、休薬してもすぐに前立腺が大きくなるわけではないということで休薬で様子を見るという専門医もいらっしゃるようです。
国内ではAGA(男性型脱毛症)に自費診療で用いられているフィナステリドは海外では前立腺肥大症にも用いられています。

Comparison of dutasteride and finasteride for treating benign prostatic hyperplasia: the Enlarged Prostate International Comparator Study (EPICS). - PubMed - NCBI
BJU Int. 2011 Aug;108(3):388-94.
EPICS試験
資金提供:GSK
研究デザイン:多施設、ランダム化、二重盲検、並行群間(parallel group)試験、ITT解析
P:前立腺肥大(BPH;benign prostatic hyperplasia)と診断された50歳以上の男性
E/C:①フィナステリド5mg ②デュタステリド0.5mg
O:前立腺容積(prostate volume)の変化
(セカンダリ:AUA-SI scores、最大尿流率(Qmax)、長期投与の安全性)

追跡期間:二重盲検1年、オープンラベルで3年

<患者選定基準>
・AUA-SIスコア≧12
・前立腺容積≧30cc
・Qmax<15mL/s
・最小排尿量(a minimum voided volume)≧125 mL

<除外基準>
・前立腺がん
・前立腺手術の既往
・3か月以内の急性尿閉
・スクリーニング2週間以内、試験中のαブロッカーや抗コリン薬の使用
など

<結果>
1630名を2群にランダム化
・フィナステリド(n=817)→1年で10%が脱落、90%が完了(n=735)→→オープンラベル(n=226)→3年で19%脱落し、81%が完了(n=183)
・デュタステリド(n=813)→1年で12%が脱落、88%が完了(n=719)→→オープンラベル(n=222)→3年で15%脱落し、85%が完了(n=188)
(脱落の主な理由は有害事象


前立腺容積の減少率

フィナステリド デュタステリド
3か月 -18.5% -18.3%
12か月 -26.7% -26.3%


AUA-SI

フィナステリド デュタステリド
3か月 -3.8点 -3.6点
12か月 -5.5点 -5.8点

 
※AUA-SIについて
The AUA Symptom Index for BHP and the Disease-Specific Quality-of-Life Question - HIV/AIDS
①残尿感
②頻尿(2時間以内の排尿)
③排尿時に尿が途切れる
④尿意切迫感(排尿延期が困難)
⑤尿の勢いが弱い
⑥push or strain to begin urination(排尿時のいきむ?)
⑦夜間排尿回数
以上、7項目、0~5点
計35点 高得点のほうが重症
0~7点:Mild
8~19点:Moderate
20~35点:Severe

 
Qmax

フィナステリド デュタステリド
3か月 +1.5mL/s +1.6mL/s
12か月 +1.7mL/s +2.0mL/s

 
↓Qmaxについて
ジスチグミンは前立腺肥大症に効かない? ジスチグミンと抗コリン薬を併用? - pharmacist's record
 
PSA値

フィナステリド デュタステリド
3か月 -38.9% -40.3%
12か月 -47.7% -49.5%

 
有害事象(二重盲検の1年間)

フィナステリド(n=817) デュタステリド(n=813)
any AE 409(50%) 396(49%)
serious AEs 43(5%) 55(7%)
有害事象による脱落 35(4%) 38(5%)
インポテンツ 74(9%) 63(8%)
性欲減退 50(6%) 41(5%)
射精障害 14(2%) 14(2%)
女性化乳房 10(1%) 9(1%)
高血圧 16(2%) 19(2%)

 

フィナステリドはデュタステリドとの有効性・安全性の比較試験で、ほぼ同等の結果であり、代替薬となりそうですが、残念ながら国内ではBPHに保険適応が通っていません。
DPP4iやARBなど同効薬がある薬なら、1つ欠品が生じてもなんともないですが、代替薬がない薬に限って供給停止…。はやく出荷再開されるといいですね。