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薬の組み合わせと上部消化管出血のリスク

Risk of upper gastrointestinal bleeding from different drug combinations. - PubMed - NCBI
Gastroenterology. 2014 Oct;147(4):784-792
2000万人のデータベースより同定した114,835人のUGIB患者のデータを解析した症例集積研究(Case series)

背景:NSAIDsと低用量アスピリン(LDA)の併用は上部消化管出血(UGIB;upper gastrointestinal bleeding)のリスクを増加させる。各薬剤の併用におけるUGIBのリスクを推定

方法:非選択的(ns)NSAIDs、COX-2i、LDAなどの薬の併用におけるUGIBの相対リスク(非暴露と比較した発生率比IRR;incidence rate ratio)を測定

各種薬剤によるUGIBの相対リスクIRR

単独 with nsNSAIDs with COX-2i with LDA
no drug 1.0 refference(n=69664) NA NA NA
nsNSAIDs 4.27(4.11–4.44)(n=3327) NA NA 6.77(6.09–7.53)(n=416)
COX-2i 2.90(2.67–3.15)(n=635) NA NA 7.49(6.22–9.02)(n=131)
LDA 3.05(2.94–3.17)(n=4733) 6.77(6.09–7.53)(n=416) 7.49(6.22–9.02)(n=131) NA
コルチコステロイド 4.07(3.83–4.32)(n=1378) 12.82(11.17–14.72)(n=244) 5.95(4.25–8.33)(n=40) 8.37(7.14–9.81)(n=190)
SSRIs 2.06(1.94–2.18)(n=1793) 6.95(5.97–8.08)(n=210) 5.82(4.45–7.62)(n=65) 4.60(4.09–5.17)(n=401)
GPAs(胃保護薬) 1.61(1.56–1.66)(n=5279) 3.90(3.59–4.24)(n=678) 2.37(1.92–2.93)(n=95) 2.54(2.32–2.78)(n=607)
アルドステロン拮抗薬 3.27(3.06–3.50)(n=1211) 11.00(8.63–14.03)(n=76) 4.02(2.07–7.81)(n=10) 5.01(4.13–6.08)(n=131)
CCBs 1.57(1.51–1.63)(n=3546) 4.45(3.98–4.98)(n=363) 3.11(2.46–3.93)(n=77) 3.07(2.86–3.29)(n=1123)
抗凝固薬 3.01(2.85–3.19)(n=1760) 8.69(7.30–10.35)(n=143) 5.01(3.21–7.82)(n=21) 6.94(5.86–8.22)(n=168)
抗血小板薬(LDA以外) 1.74(1.61–1.87)(n=994) 6.50(5.19–8.15)(n=87) 1.73(0.87–3.44)(n=9) 5.49(4.71–6.41)(n=246)
硝酸薬 2.55(2.43–2.68)(n=2572) 5.82(4.97–6.82)(n=172) 5.09(3.79–6.82)(n=49) 3.79(3.51–4.10)(n=859)

 
Supplementary Table 6によると、CCB単独投与、GPAs単独投与は出血リスクに有意差はみられず。

Fig1の相互作用のヒートマップによると、
コルチコステロイド+nsNSAIDs
コルチコステロイド+LDA
アルドステロン拮抗薬+nsNSAIDs
LDA+COX-2i
抗凝固薬+nsNSAIDs
→→相互作用によるUGIBのリスクが高い

GPAsやCCB、硝酸薬
→→相互作用によるUGIBのリスクが少ない
(詳細はFig1参照)


<ディスカッション>
nsNSAIDsはLDAやCOX-2iよりもUGIBリスクが高く、他の薬剤との併用においても同様の傾向にあった。

コルチコステロイド:本研究では、コルチコステロイドがnsNSAIDsと同等のUGIBリスクが認められ、以前の研究(※)とは矛盾する結果となった。ガイドラインによると、ステロイドはUGIBの独立したリスクファクターとみなされるべきであり、GPAsを投与するべきである

※過去の研究として引用された文献をピックアップ
Steroids and risk of upper gastrointestinal complications. - PubMed - NCBI
Am J Epidemiol. 2001 Jun 1;153(11):1089-93.
nested case-control study
上部消化管合併症のリスク(table3)

経口ステロイド OR(95%CI)
No use Reference
Low-medium 1.6(1.2-2.2)
High 3.3(1.3-8.3)
NSAIDs OR(95%CI)
No use Reference
Low-medium 2.5(2.0-3.3)
High 5.0(4.3-6.0)
抗炎症薬 OR(95%CI)
None Reference
NSAIDs alone 4.0(3.4-4.6)
経口ステロイド単独 1.8(1.3-2.5)
NSAIDs+経口ステロイド 8.9(5.0-15.8)

 

SSRIs:nsNSAIDsやCOX-2iと相互作用を起こすが、LDAとは相互作用を示さない。SSRIセロトニンレベルを減少させるので結果として血小板凝集が損なわれ、UGIBを含む出血リスクの増加をきたすと、生物学的観点から考えられる。

GPAs:NSAIDsなどを投与されているような高リスク患者に処方されているために、UGIBリスクの増加がみられたと考えられる


<感想>
ステロイドは単独では消化管出血リスクは小さく、NSAIDsとの併用でリスクが増加すると認識していましたが、この研究ではステロイドもNSAIDsに匹敵しています。ビッグデータの解析ではありますが、さまざまな交絡がありそうです。この研究結果はあくまで参考資料の一つとしてとどめ、他の研究結果も踏まえて出血リスクの評価を行うのが妥当かと思います。


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