グレープフルーツジュースGFJは小腸のCYP3A4を不可逆的に阻害することで、さまざまな薬との相互作用を引き起こすと考えられています。
厳密にはCYP阻害作用があるのは、グレープフルーツに含有されているフラノクマリン類です。
フラノクマリン類は消化管で作用し、肝臓内へは移行しないとされており、肝臓におけるCYP阻害作用は弱く、経口投与では血中濃度が上昇しても静脈内投与では血中濃度が上昇しなかったという例もあります。
フラノクマリン含有あり | グレープフルーツ、スウィーティー、ザボン(ブンタン)、ダイダイ、夏みかん、ハッサク |
フラノクマリン含有なし | レモン、かぼす、温州みかん、バレンシアオレンジ |
有名なのはCCBでしょうか。添付文書は表現の違いこそあれど、原則、併用を避けるような記載となっています。
バイオアベイラビリティが高いアムロジピンではさほど影響しないのでは?といった説も聞いたことがありますが、添付文書では同時服用しないこととなっています。
GFJによる阻害作用の回復には3~4日かかることもあるという報告もあるようですが、実際どの程度影響するものなのでしょうか?
臨床的にどれくらい影響があるのか調べてみたいと思います。
Lack of effect of grapefruit juice on the pharmacokinetics and pharmacodynamics of amlodipine. - PubMed - NCBI
Br J Clin Pharmacol. 2000 Nov
目的:グレープフルーツジュース(GFJ)の1日1回投与による、CCBのアムロジピンの薬物動態・薬力学的な効果の変化を検討
イントロダクション:GFJはDHP系CCBなどさまざまな薬との相互作用が知られている。ニソルジピンはAUCが2倍~、フェエロジピンはAUCが3倍~とも言われている
研究デザイン
ランダム化されている
オープンラベル
クロスオーバー試験(4way)
P:健康な男性20名(平均31.5歳、20~45歳、平均体重70kg)
E:GFJ(ホワイトグレープフルーツジュース)240ml
C:プラセボ(水)
アムロジピン10mg 即時放出錠経口投与または静脈内投与 投与期間9日間
アムロジピン10mg経口投与
GFJ | 水 | |
---|---|---|
Cmax | 6.2ng/mL | 5.8ng/mL |
AUX | 315 | 293 |
tmax | 7.6hr | 7.9hr |
SBP(仰臥位) | −11.7mmHg | −9.2mmHg |
DBP(仰臥位) | −11.5mmHg | −13.2mmHg |
アムロジピン静脈内投与
GFJ | 水 | |
---|---|---|
Cmax | 30.1ng/mL | 34.8ng/mL |
AUX | 374 | 358 |
SBP(仰臥位) | −15.9mmHg | −11.8mmHg |
DBP(仰臥位) | −10.1mmHg | −11.5mmHg |
結論として、アムロジピンの薬物動態はGFJによって本質的に変化しない。
というわけで、アムロジピンはGFJとの相互作用は少ないと示唆されています。
この研究は健常者を対象とした少人数の試験なので、実際にはもしかしたら降圧効果の増強がみられるケースもあるかもしれませんが可能性は低いと思われます。
Effect of a Single Glass of Grapefruit Juice on the Apparent Oral Bioavailability of the Dihydropyridine Calcium Channel Antagonist, Azelnidipine, in Healthy Japanese Volunteers
Jpn J Clin Pharmacol Ther 37(3)May 2006
こちらはアゼルニジピンです。
P:8名の健康な男性(平均年齢27歳[23~40歳]、平均体重63kg[53~73kg]、平均血圧114/61)
E:100%グレープフルーツジュース(トロピカーナ)250mL
C:プラセボ(水)250mL
朝9時にアゼルニジピン8mg錠を服用
被験者は喫煙、アルコール、お茶、コーヒー、セントジョーンズワートなどの摂取は禁止
<結果>
水 | GFJ | 変化率 | |
---|---|---|---|
Cmax | 6.3ng/mL | 15.7ng/mL | 2.5 |
AUC | 45.1 | 147.9 | 3.3 |
tmax | 2.1hr | 3.9hr | 1.8 |
t1/2 | 6.5 | 7.7 | 1.2 |
1名の被験者(GFJ)において投与4時間後に頭痛・顔面紅潮、起立性低血圧あり。
アゼルニジピンはGFJにより過度な降圧を招く可能性があるかもしれません。
できれば数日間投与継続していただいて、血圧の推移を検討して頂きたかったなと思いました。
アゼルニジピンを継続服用している高血圧患者さんがGFJを摂取することで、過度な降圧を招く可能性もあるので控えたほうが良さそうだなという印象です。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1885101/
Br J Clin Pharmacol. 2006 Aug; 62(2): 196–199.
CCBごとのAUCの変化率
CCB | AUC Ratio | BA |
---|---|---|
アムロジピン10mg | 1.08 | 64% |
ベニジピン4mg | 1.59 | NA |
シルニジピン10mg | 2.27 | NA |
ジルチアゼム120mg | 1.18 | 39% |
エホニジピン40mg | 1.67 | NA |
フェロジピン5~10mg | 1.86~2.85 | 16% |
マニジピン40mg | 2.31 | NA |
ニフェジピン5~10mg | 1.35~1.47 | 45% |
ニソルジピン5~10mg | 4.11 | 3.7~8.4% |
どの試験も少人数(6~20人)、GFJ摂取量は200~250mL
Figure 1によると、バイオアベイラビリティBAとAUC増加率に逆相関がある模様。
また、血漿タンパク結合率が高いこともGFJによるAUC増加に寄与している可能性があると結論。
CCBによってGFJの影響は大きく異なっています。
添付文書的には、影響の少ないアムロジピンでさえ、GFJを同時服用しないことと一蹴されてしまっていますが、GFJが大好きな人にとっては辛いことだと思います。もし仮に、自分が高血圧でCCBの服用を必要とし、GFJが大好きだったらという観点で考えると、大好きな食べ物を断つのは嫌なので、GFJの影響の少ないCCBに変えてもらえないか処方医に相談し、許可を得た上でGFJを飲みたいなと思いますね。もちろん血圧コントロール不良となったら断念せざるを得ないでしょうけど…。
健康のために好きなものを断つというのはいろいろと考えさせられます。健康のために大好きな食べ物をすべて断って、残りの人生を送るのは幸せなんでしょうか?好きなものを断つことで、どの程度のメリットを得ることができるか定量的に把握しておくことも大事です。
たとえば、ワーファリンと納豆は相互作用の度合いが強すぎて、とても許容できないレベルでなので、抗凝固療薬がワーファリンしかなかった時代は、納豆を断つしかありませんでした。今はNOACの開発により、ワーファリン以外の選択肢もできて、納豆好きの抗凝固療法を必要とする患者さんにとっては朗報だったと思います。
標準的な医療をやみくもに患者さんに押し付けるだけでなく、患者さんの希望を踏まえた上での良い治療ができるようになればいいなと思います。