pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

安息香酸ナトリウム???

安息香酸ナトリウムの処方意図は?」

 

クリニカルクエスチョンを頂きました。

★事前情報は、「安息香酸ナトリウム5.65g/日」、「小児」、「抗てんかん薬」、「デキストロメトルファン10% 1.15g/日」「エルカルチンFF」(数値は改変してあります)

 

安息香酸ナトリウムの適応は「保存・防腐・殺菌の目的で調剤に用いる」となっており、適応外使用の可能性大。

安息香酸ナトリウムカフェイン(アンナカ)とは別物です。

 

PubMedにて「sodium benzoate epilepsy」で検索

The effectiveness of benzoate in the management of seizures in nonketotic hyperglycinemia. - PubMed - NCBI

Response to sodium benzoate treatment in non-ketotic hyperglycinaemia. - PubMed - NCBI

非ケト-シス型高グリシン血症への有効性について述べた論文が見つかりました。「安息香酸ナトリウムがけいれん発作を押さえる(精神的な発達の促進はない)」と記載あり。

この疾患はグリシン脳症とも呼ばれいます。

先天性のアミノ酸代謝異常症で、けいれん、重度の精神運動発達遅滞、昏睡、筋緊張低下などの症状をきたし、治療法は確立していませんが、安息香酸ナトリウムやデキストロメトルファンなどが用いられるようです(小児慢性特定疾病情報センター より)。

②の文献では、用量について言及されており、「安息香酸ナトリウム 470 mg/kg/dayまでの投与で、毒性は検出されなかったが、副作用として、かゆみや多動あり」と記述あり。

 

他にも安息香酸ナトリウムの有効性を検討した文献を探してみると、

Sodium benzoate in the treatment of acute hepatic encephalopathy: a double-blind randomized trial. - PubMed - NCBI

こちらはDB-RCTで、安息香酸ナトリウムの急性肝性脳症への有効性を検討した文献。

安息香酸ナトリウム(5gを1日2回)vsラクツロース

ともに2割程度が死亡。副作用の発生率は同等。コストの面から安息香酸ナトリウムが有用と結論づけられています。

急性肝性脳症に用いられることもあるようです。 

 

次は高グリシン血症、「hyperglycinaemia」で文献検索。

Benzoate therapy and carnitine deficiency in non-ketotic hyperglycinemia. - PubMed - NCBI

「非ケトーシス型高グリシン血症の5名の新生児に安息香酸ナトリウム投与で、血清グリシン値を改善することで、けいれん発作の減少と覚醒状態の顕著な増加が得られた。 」

「4名中3名でカルニチン欠乏症あり。これをLカルニチンで治療。」

「高用量安息香酸治療は有効。ただし、グリシンカルニチン、安息香酸の値をモニターすること。」と結論

  

Effect of sodium benzoate in the treatment of atypical nonketotic hyperglycinaemia. - PubMed - NCBI

ケトーシス型高グリシン血症の女の子(0歳6ヵ月)の症例報告。 「安息香酸ナトリウムとデキストロメトルファンで治療」と記載あり。

 

Dextromethorphan in nonketotic hyperglycinaemia: metabolic variation confounds the dose-response relationship. - PubMed - NCBI

ケトーシス型高グリシン血症に対するデキストロメトルファンの文献。 「高用量のデキストロメトルファンで抗けいれん効果…」と記載あり。

CYP2D6の代謝群(EM)はCYPを阻害するシメチジンによりデキストロメトルファン血中濃度上昇、低代謝群(​​PM)では投与間隔をあけることで血中濃度を低下と、EM/PMの対応について言及されています。

 

グリシン血症は稀な先天性疾患のようで、ほとんど情報源がないのですが、PubMedを使うことで、さまざまな情報が得られました。やはりEBMを学ぶことは大事だなと再認識しました。