pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

β遮断薬!!!

 近年よく用いられるβ遮断薬といえばカルベジロール、ビソプロロールあたりでしょうか。この両者の一騎打ちという感じがしますが、それぞれ特徴が違うので、患者さん個々の状態にあわせての使い分けが大事で、けしてどちらが優れているということはないと思います。

さっそく、各種β遮断薬の特徴について

薬剤 作用 ISA 脂溶性(排泄) CKD投与量※1 その他 特徴
カルベジロール(アーチスト) α・β遮断 ISA(-) 高(肝) 少量開始 CHF適応あり。α:β=1:8(他のαβ遮断薬より起立性低血圧が少ない)。血管拡張作用があり脳血流を減少させない※2
ビソプロロール(メインテート β1遮断 ISA(-) 中(肝・腎) Ccrに応じて減量 CHF・AF適応あり。3~4日で定常状態。β1選択性が極めて高く糖代謝や脂質代謝への悪影響が少ない
アテノロール(テノーミン) β1遮断 ISA(-) 低(腎) Ccrに応じて減量/投与間隔延長 中枢へ移行しにくく不眠リスク低
メトプロロール(セロケン) β1遮断 ISA(-) 中(肝) 正常者と同じ 主な代謝はCYP2D6(70~80%)、半減期短、徐放性製剤あり
セリプロロール(セレクトール) β1遮断 ISA(+) 低(腎) 重症では減量 ISAがあるため徐脈になりにくい、食後投与(空腹時投与のCmaxは食後投与の2倍)
プロプラノロール(インデラル) β遮断(非選択的) ISA(-) 高(肝) 腎機能正常者と同じだが、低用量から開始 片頭痛に適応あり、適応外使用[アカシジア※3、乳児血管腫※4、本態性振戦、食道静脈瘤]

※1 CKDguide2012参照
※2 Effects of carvedilol on cerebral blood flow and its autoregulation in previous stroke patients with hypertension
脳卒中患者にカルベジロール20mg/日 1週間投与、血圧18%減少→脳血流に有意な変化なし
脳卒中患者に対するβ遮断薬の選択として、カルベジロールが良い可能性あり

※3
アカシジアにβ遮断薬やミルタザピンが有効? - pharmacist's record
※4
乳児にプロプラノロール処方?? <いちご状血管腫> - pharmacist's record


<β1遮断の薬理作用>
降圧作用:心拍出量低下(心拍数・心収縮力低下)、レニン分泌抑制による血管拡張・循環血流量減少
不整脈作用:洞結節・房室結節抑制
狭心症作用:心拍出量低下による心筋酸素消費量減少。冠攣縮誘発することがあるため、異型狭心症に使う場合はCCBの併用が推奨される(後述<β遮断薬と冠攣縮>)。
心不全改善作用:心拍数低下、心臓リモデリング抑制など


ISA(内因性交感神経刺激作用):弱い刺激作用により内因性ノルエピネフリンが少ないとき(安静時)は交感神経刺激作用を示し、ノルエピネフリンが多いとき(運動時)は交感神経遮断作用を示す。→労作時のみ心拍数を減らしたいケースに有用。徐脈のリスクは低いが、AMI、CHFへの効果は減弱する可能性あり。予後改善のデータもISA(-)のほうが豊富。


脂溶性:脂溶性が高いと中枢へ移行しやすく、不眠や抑うつを起こしやすい。ただし、水溶性のβ遮断薬は左室肥大抑制効果が弱い・致死性不整脈を防ぐ効果が弱いという説あり。

Beta-blocker prescription among Japanese cardiologists and its effect on various outcomes. - PubMed - NCBI
日本の研究JCAD 冠動脈疾患coronary artery disease (CAD)へのβ遮断薬の使用を検討したコホート研究
CAD患者13,812名のうち4,160名がβ遮断薬を処方。2.7年追跡。β遮断薬の継続率は90.8%。傾向スコアマッチング

総死亡 心イベント 脳血管イベント
β遮断薬投与(E)vs投与なし(C) HR0.82(95%CI0.64-1.05) HR1.04(95%CI0.90-1.19) HR0.89(95%CI0.61-1.31)
脂溶性β遮断薬(E)vs水溶性β遮断薬(C) HR0.47(95%CI0.25-0.88) HR0.94(95%CI0.70-1.27) HR0.94(95%CI0.46-1.90)

各種、主要薬剤は、
脂溶性:ビソプロロール、カルベジロール、メトプロロールなど
水溶性:アテノロールなど

結論:RCTでの検証が必要だが、死亡リスクの観点から脂溶性β遮断薬のほうが水溶性よりも良い可能性がある


Atenolol in hypertension: is it a wise choice? - PubMed - NCBI
Lancet. 2004 Nov
アテノロールの有効性を検証した文献
プラセボまたは未治療と比較した4試験と、他の降圧剤と比較した5試験を解析

vsプラセボ(6825名、4.6年追跡、血圧はプラセボより有意に低下している)
全死亡 RR1.01(95%CI 0.89-1.15)
心血管死 RR0.99(95%CI 0.83-1.18)
心筋梗塞 RR0.99(95%CI 0.83-1.19)
脳卒中 RR0.85(95%CI 0.72-1.01)

vs他の降圧剤(17671名、4.6年追跡、降圧効果に差はない)
全死亡 RR1.13(95%CI 1.02-1.25)
心血管死、脳卒中も高い傾向にあった

アテノロールを積極的に使うのはどうなのかな?という結果でした。
次に述べますが、脂溶性のβ遮断薬で不眠や抑うつがみられる患者さんには、水溶性のアテノロールは選択肢となりうるかもしれません。


<β遮断薬と不眠>
Risk of insomnia attributable to β-blockers in elderly patients with newly diagnosed hypertension. - PubMed - NCBI
Drug Metab Pharmacokinet. 2013
後ろ向きのコホート研究(台湾)
β遮断薬を服用した65歳以上の高血圧患者が対象。追跡1年間。
プライマリアウトカム:服用開始30日以内の不眠症発症

E C OR(95%CI)
ビソプロロール プロプラノロール OR0.31(0.19-0.50)
アテノロール プロプラノロール OR0.46(0.33-0.66)
カルベジロール プロプラノロール OR0.64(0.38-1.08)
メトプロロール プロプラノロール OR0.71(0.31-1.6)
ラベタロール プロプラノロール OR0.84(0.45-1.59)
β1選択性 非β1選択性 OR0.48(0.36-0.64)
水溶性 脂溶性 OR0.72(0.53-0.96)

結論:水溶性、β1選択性が不眠の低リスクと関連。

水溶性のほうが不眠は少ないとされていますが、脂溶性と水溶性の中間とされているビソプロロールも不眠のリスクは低いようです。


<β遮断薬と気管支攣縮>
β遮断薬はCOPDを悪化させる? - pharmacist's record
β1選択性のβ遮断薬はCOPDへの悪影響は否定的で、むしろ有益かもしれないと示唆されています。


<β遮断薬と冠攣縮>
冠動脈平滑筋のβ2受容体遮断とα受容体の活性化により、冠攣縮を起こすことがあり、β遮断薬は異型狭心症には慎重投与となっている。プロプラノロールで異型狭心症を悪化したデータがあるが、β1選択性の高い薬剤やα遮断作用を併せ持つカルベジロールなどではリスクは低い。ただし、CCBや硝酸薬の併用が推奨される。

日本は欧米と比べて冠攣縮を伴う狭心症が多く、冠攣縮の抑制に優れるカルシウム拮抗薬(CCB)の使用が多い。そこで国内でβ遮断薬とCCBを比較した試験がこちら
Comparison of the effects of beta blockers and calcium antagonists on cardiovascular events after acute myocardial infarction in Japanese subjects. - PubMed - NCBI
日本のオープンラベルRCT
対象:心筋梗塞1ヶ月以内の患者(心不全や徐脈は除外)
β遮断薬vsCCB 平均追跡期間455日
β遮断薬:ビソプロロール、カルベジロール、アテノロール、メトプロロール
CCB:アムロジピン、ニフェジピン、マニジピン、ニソルジピン

β遮断薬(n=545) CCB(n=545)
心血管死 1.7% 1.1%
再梗塞 0.9% 1.3%
不安定狭心症 11% 10.6%
心不全 4.2% 1.1%
冠攣縮 1.2% 0.2%

CCBと比べるとβ遮断薬群で冠攣縮や心不全のリスクが高いという結果。

欧米人と比べ、日本人が冠攣縮のリスクが高いとすれば、海外のβ遮断薬の臨床データを参考にする場合、その点は差し引いて考えなくてはいけないのかもしれません。


<β遮断薬と徐脈>
高齢者ではβ遮断薬の主作用とも言える徐脈が問題となることあり。
bpm50未満で減量中止を検討、徐脈による症状(ふらつきなど)にも注意。
ISAのある薬剤は徐脈を起こしにくい。
ビソプロロールとカルベジロールではビソプロロールのほうが徐脈を起こしやすい(CIBIS-ELD試験)

A double-blind comparison of bisoprolol and atenolol in patients with essential hypertension. - PubMed - NCBI
ビソプロロールとアテノロールの降圧効果を検討した二重盲検ランダム化クロスオーバー試験
心拍減少効果はビソプロロール>アテノロール
忍容性に差はなし

各薬剤ごとの徐脈のリスクは文献によって差がありそうですし、一概には言えません。高齢者ではアテノロールのほうが徐脈が多かったというデータもあります(腎機能低下による効果増強などさまざまな因子が関与していると考えられる)。
特徴の異なるビソプロロールとカルベジロールの比較では、ビソプロロールのほうが心拍減少効果は強いという説が一般的かと思います。



<β遮断薬と心筋梗塞
β遮断薬は心拍数・心収縮力減少、血圧低下作用により心筋酸素消費量を減らし、心筋の虚血を防ぐ。心筋虚血抑制、心臓のリモデリング抑制、抗不整脈作用などにより心筋梗塞の二次予防としても用いられる。

Effect of carvedilol on outcome after myocardial infarction in patients with left-ventricular dysfunction: the CAPRICORN randomised trial. - PubMed - NCBI
Lancet. 2001 May CAPRICORN試験
左室機能不全の心筋梗塞後のカルベジロール有用性を検討したDB-RCT
P:急性心筋梗塞AMI発症3~21日以内 1959名(LVEF40%以下、原則ACEi併用)
E:カルベジロール6.25mg(→1回25mg、1日2回へ増量)(n=975)
C:プラセボ(n=984)
O:全死亡、心血管疾患による入院
プライマリアウトカムは有意差なし
全死亡単独では、
カルベジロール116名(12%)vsプラセボ|151名(15%) HR0.77(95%CI 0.60-0.98 p=0.03)
1年間のNNTは43


Clinical outcomes with β-blockers for myocardial infarction: a meta-analysis of randomized trials. - PubMed - NCBI
Am J Med. 2014 Oct
心筋梗塞におけるβ遮断薬の効果を評価した6つのRCTのメタ解析
心筋梗塞102,003名(心筋梗塞心不全/左室機能障害の臨床試験は除外)

〈再灌流以前〉

全死亡 IRR 0.86(95%CI 0.79-0.94)
心血管死 IRR 0.87(95%CI 0.78-0.98)
心筋梗塞 IRR 0.78(95%CI 0.62-0.97)
狭心症 IRR 0.88(95%CI 0.82-0.95)
心不全、心原性ショック 有意差なし

〈再灌流以後〉

全死亡 IRR 0.98(95%CI 0.92-1.05)
心筋梗塞 IRR 0.72(95%CI 0.62-0.83) NNTB209
狭心症 (IRR 0.80(95%CI 0.65-0.98) NNTB26
心不全 IRR 1.10(95%CI 1.05-1.16) NNTH79
心原性ショック IRR 1.29(95%CI 1.18-1.41) NNTH90

※IRR(incident rate ratio):発生率比
(Table2に詳細データあり)

再灌流時代では心筋梗塞狭心症の抑制に利益が得られるのは30日間程度の短期間と考えられる
全死亡を抑えられるわけではないので、リスクとベネフィットを考慮する必要ありと結論

PCIが成功し、かつEF低下のない心筋梗塞にはβ遮断薬は必須ではないかもしれません。古い文献はそもそも初期治療が違うため、安易に参考にしてはいけないと勉強になりました。

※再灌流療法
血栓溶解療法
カテーテル治療 局所麻酔にて、足の付け根の動脈からカテーテル挿入、冠動脈へ。造影剤を注入し、狭窄部位を検索。血栓を吸引し、バルーンカテーテルで狭窄部を拡張、ステントを留置し、再梗塞を防止。ステント留置部位の再梗塞を防ぐために薬剤溶出性ステントが用いられる。近年では2~3年で溶けるステントも開発されている。
(近くの病院で血栓溶解療法を受けてからカテーテル治療ができる病院へ移送というケースもある。)


<β遮断薬と心不全CHF>
心収縮力低下→代償機構として交感神経、レニン亢進→心筋肥大などリモデリング→血圧上昇、循環血流量増加→代償機構破綻
β遮断薬は交感神経やレニンを抑制。カルベジロールやビソプロロールが推奨されている。

The Cardiac Insufficiency Bisoprolol Study II (CIBIS-II): a randomised trial. - PubMed - NCBI
Lancet. 1999 Jan CIBIS-Ⅱ試験 DB-RCT 追跡期間平均1.3年(有意差がついて早期終了)
P:CHF2647名(NYHAⅢ~Ⅳ、LVEF35%以下、利尿剤・ACEi服用
E:ビソプロロール1.25mg(→10mgまで可能な限り増量)(n=1327)
C:プラセボ(n=1320)
O:全死亡

アウトカム ビソプロロール プラセボ HR(95%CI) NNT(1.3年)
全死亡 156名(11.8%) 228名(17.3%) HR0.66(0.54-0.81 p<0.0001) 18
突然死 48名(3.6%) 83名(6.3%) HR0.56(0.39-0.80, p=0.0011) 37


Effect of carvedilol on survival in severe chronic heart failure. - PubMed - NCBI
N Engl J Med. 2001 May Copernicus試験
重症心不全に対するカルベジロールの有用性を検討したDB-RCT 追跡期間10.4ヶ月
P:CHF2289名(NYHAⅢ~Ⅳ、LVEF25%以下)
E:カルベジロール1156名
C:プラセボ1133名
O:全死亡

アウトカム カルベジロール プラセボ NNT
全死亡 130名(11.2%) 190名(16.7%) 19


Effects of carvedilol on heart failure with preserved ejection fraction: the Japanese Diastolic Heart Failure Study (J-DHF). - PubMed - NCBI
Eur J Heart Fail. 2013 Jan J-DHF研究(日本)
HFpEF(EFが保たれてる)拡張不全へのカルベジロールの有効性を検討
試験デザインはPROBE法(ランダム化はされているがオープンラベル。エンドポイントを盲検化)
平均追跡期間3.2年
P:HFpEF(EF40%以上)
E:カルベジロール(N=120)
C:カルベジロールなし(N=125)
O:心血管死と心不全による入院の複合アウトカム
複合アウトカム:カルベジロール29名vs対照群34名 HR0.902(95%CI 0.546-1.488)
カルベジロールの投与量>7.5mg(標準用量)を達成した58名では、心血管死や予期せぬ入院が有意に少なかった。

拡張不全にβ遮断薬の予後改善は認められなかったが、標準用量では有効かもしれないという結果


Titration to target dose of bisoprolol vs. carvedilol in elderly patients with heart failure: the CIBIS-ELD trial. - PubMed - NCBI
Eur J Heart Fail. 2011 Jun  CIBIS-ELD試験
心不全(CHF)のある高齢者へのカルベジロールとビソプロロールの最大量への増量の忍容性について検討
対象:CHF患者、65歳以上、NYHAⅡ以上またはLVEF45%以下(平均年齢73歳、NYHAⅡ~Ⅲが多い、LVEF45%未満が約7割)
プライマリアウトカムは忍容性。
ビソプロロール24%(10mg/日)
カルベジロール25%(25~50mg/日)

有害事象

ビソプロロール カルベジロール
徐脈 16% 11%
呼吸障害 4% 10%
心不全悪化 22% 21%
めまい 7% 7%
低血圧 9% 10%

結論
忍容性はどちらも低く(ほぼ同等)、ビソプロロールは徐脈が多く、カルベジロールは肺の有害事象が多い傾向。

呼吸器疾患があればビソプロロールを、徐脈の懸念が強ければカルベジロールを、といった使い分けも有用と思います。昔は禁忌とされてきたCHFに対するβ遮断薬ですが、CIBIS-Ⅱ試験やCopernicus試験といった大規模試験で有用性が示唆され、日本でも多く用いられています。EF低下していない拡張不全に対しては有効性を示せていないなど、まだまだ謎が多い分野ですので、常日頃から情報をアップデートしていかなくてはならないと思います。



 β遮断薬について徹底的に調べてみようと思いましたが、このあたりで限界です笑。ほかにも重要文献があるでしょうし、ピックアップした文献が偏っている可能性もあるので、各薬剤の有効性と安全性は各自検討していただけたらと思います。