最近、急に暑くなってきました。暑いといえば熱中症が懸念されますが、激痛に襲われる尿管結石も暑い時期に多い疾患です。
尿路結石症
脱水傾向となりやすい夏に多い。好発時間帯は早朝(尿が濃縮されるため)。
7~8割はカルシウム結石、次いで尿酸結石が5~10%。
再発するケースが多い(1年以内に15%、10年以内に約半数が再発)
<症状>
腰部~側腹部の疝痛(痛む部位は結石の位置によって異なる)。鼠径部に放散することあり。CVA圧痛・叩打痛は診断に有用。痛みが軽減しても結石が残っている限り、痛みが再燃することがある。
吐気・嘔吐を伴うことあり(迷走神経刺激による)。下部尿管結石では、残尿感などの膀胱刺激症状あり。
尿潜血は感度が高いが、特異度が低いので診断の決め手にはならない。ただし、尿検査は尿路感染の除外に有用。発熱していたら腎盂腎炎の併発を疑う。
腹部エコーによる結石の検出は困難だが水腎症の検出は感度、特異度ともに良好。
※水腎症:尿路閉塞により腎臓に尿が溜まり、内圧が上昇し、腎盂が拡張する。急性の閉塞による場合、腰部、側腹部、下腹部にかけて疝痛あり。
<治療>
①痛みの除去:NSAIDs(とくに坐剤)が第一選択(麻薬性鎮痛薬と効果は同等で吐気の副作用が少ない)。補助療法として臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン)が用いられる。芍薬甘草湯が即効性があり有効との報告もある。α1ブロッカーが痛みの軽減にも有効であったという報告あり。
②結石排出
- 結石が大きい(10mm以上)、尿の通過障害あり等:体外衝撃波結石破砕術(ESWL:)、経尿道的腎尿管結石砕石術(TUL:尿道から内視鏡を挿入しレーザーで粉砕)、経皮的腎結石砕石術(PNL:腰背部よりルート作成、内視鏡を挿入。全身麻酔必要)など。結石の位置などを考慮し、治療法を選択。
- 5mm未満の結石、尿の通過障害がない等:保存療法にて自然排出。ウラジロガシエキス(ウロカルン)や猪苓湯などが用いられる。排出促進にα1ブロッカーが有用との報告あり。
J Urol. 2005 Jul
ニフェジピンやタムスロシンは結石除去に有効。とくにタムスロシンは疝痛にも効果があったという結果。
Medical therapy to facilitate urinary stone passage: a meta-analysis. - PubMed - NCBI
Lancet. 2006 Sep 30 9つのRCT(n=693)のメタ解析
α1ブロッカー(タムスロシンなど)またはカルシウム拮抗薬(ニフェジピンなど)の投与と、結石排出についての比較試験のメタ解析。
α1ブロッカーまたはカルシウム拮抗薬:結石排出率1.65倍(95% CI: 1.45-1.88)。絶対リスク減少率31%(0.31 95% CI: 0.25-0.38)、NNT3.2(※論文にはNNT4と記載されているが、絶対リスク減少率が0.31なら1/0.31=3.2?)
α1ブロッカー:結石排出率1.54倍(95% CI: 1.29-1.85)
カルシウム拮抗薬:結石排出率1.90倍(95% CI: 1.51-2.40)
さまざまな観点からα1ブロッカーが望ましいと考えられているようです。ともに保険適応の観点から日本では使いにくいのではないかと思います。
その他、文献
A multicentre, prospective, randomized trial: comparative efficacy of tamsulosin and nifedipine in medical expulsive therapy for distal ureteric stones with renal colic
(★H27.6追記 ランセットにニフェジピンやタムスロシンは結石排出に無効であったという論文が出ました『Medical expulsive therapy in adults with ureteric colic: a multicentre, randomised, placebo-controlled trial』。後日、取り上げる予定です。)
<尿路結石と食事療法>
①水分を多めにとり、尿量を増やす。飲み物の種類はとくに関係ないとされている。(腎疾患や心疾患により水分制限を受けている場合は主治医の指示に従う)
②塩分制限。塩分を摂り過ぎるとカルシウム尿中排泄が増加する。
③動物性タンパクの制限
④カルシウムは制限不要。通常摂取でOK。乳製品摂取も問題なし。ただしカルシウムサプリメントは推奨されない。
1日2Lの水分摂取指導により5年以内の尿路結石再発率が27人/100人→12人/99人に減少。絶対リスクが約15%となり、NNTは1/0.15=6.7
Ann Intern Med. 1997 Apr 12年フォローアップした前向きコホート研究。
対象:34歳~59歳の腎結石の既往を持つ看護師91731名の女性。
プライマリアウトカム:腎結石の発症
各種高摂取群は、低摂取群と比較して、
食事由来のカルシウム:相対リスク0.65 (95% CI, 0.50 to 0.83).
塩分:1.30 (CI, 1.05 to 1.62)
ショ糖:1.52 (CI, 1.18 to 1.96)
カリウム:0.65 (CI, 0.51 to 0.84)
カルシウムサプリメント摂取群は、非摂取群と比べて、相対リスク1.20 (CI, 1.02 to 1.41).
カルシウムが不思議な結果となっています。食事由来のカルシウムはカルシウム結石の原因となるシュウ酸の腸管からの吸収を減少させるためと考察されています。乳製品の摂取は良いですが、カルシウムサプリメントの摂取は勧められません。
N Engl J Med. 2002 Jan
高カルシウム尿症の再発性シュウ酸カルシウム結石患者120名を、動物性タンパク・塩分を制限し、通常カルシウム食(介入群)、低カルシウム食(対照群)にわけて5年追跡したRCT。
結果は、通常カルシウム食で12名/60名、低カルシウム食で23名/60名に結石再発。RR 0.49 (95%CI 0.24 to 0.98).
低カルシウム食ではシュウ酸の尿中排泄が増加。動物性タンパクと塩分を制限し、通常のカルシウム摂取が有効。
腸管でシュウ酸とカルシウムがあると結合してシュウ酸カルシウムとなり、便中に排泄されます。腸管に動物性タンパクがあるとカルシウムとくっついて、フリーのシュウ酸が吸収され、尿中に排泄されるため、動物性タンパクが結石のリスクとなると考えられています。
以上、主にカルシウム結石の再発予防の食事療法についてピックアップしましたが、尿酸結石の場合は、尿酸を抑える治療が必要となります。
<尿酸結石と高尿酸血症>
尿酸結石の危険因子は「尿量低下」、「尿中尿酸排泄量増加」、「酸性尿」の3つ。尿酸排泄促進薬を使うと尿酸排泄量が増加するため、尿酸生成抑制薬が第一選択。1日尿酸排泄量が1100mgを越えると、尿酸結石の発症率が50%程度になるというデータあり(CKDガイド2012では尿酸排泄促進薬を使用する場合の推奨尿中尿酸濃度は50mg/dL以下)。
2000~2500mL/日の水分摂取で尿量を2000mL/日以上確保(腎疾患や心疾患により水分制限を受けている場合は主治医の指示に従う)
尿のアルカリ化として、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物(ウラリット)にて尿pH6.0~7.0で維持
1Lに溶ける尿酸の量は、pH5で80mL、pH6で220mg、pH7で1580mg(Gröbner W et al: Postgrad., Med. J.1979, 55)。尿酸は尿が酸性になると溶けにくいため、尿のアルカリ化が重要となります。
高尿酸血症の食事療法については、こちらでとりあげています。
痛風発作を起こしたことのない高尿酸血症は治療したほうがいい? オススメの食事は? - pharmacist's record
尿路結石も生活習慣病の一種といえます。結石の種類にあわせて、生活習慣を改めることが大事です。カルシウム結石、尿酸結石ともに、水分摂取が推奨されていますが、水中毒の懸念もあるので摂取推奨量を大きく上回るような過度な飲水は避けたほうがよいと思います。
参考