pharmacist's record

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婦人科系漢方薬の使い分け

婦人科でよく使われる漢方薬として、通し番号23,24,25と連番の3剤があります。
 

当帰芍薬散(TJ-23)

構成生薬:当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、蒼朮(そうじゅつ)、沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、川芎(せんきゅう)
蒼朮、茯苓、沢瀉→水滞(水分貯留)を改善
当帰、芍薬、川芎→痛みをとる
当帰、川芎→血虚(貧血・血行障害)を改善
 
適応患者の特徴:中間~虚証。冷え性で、線が細く、色白で浮腫みやすい。体力がなさそうで、見た目が気だるい感じで話し方はゆっくり。
適応:月経困難(生理痛など)、月経不順、貧血、更年期障害(浮動性めまい、頭痛、頭重、肩こりなど)、倦怠感、冷え性、むくみ、不妊症など。
副作用:胃腸が弱い人は食欲不振などの症状を起こすことがある
特徴:水滞を改善し、肩こり、むくみに有効
【他剤との使い分け】
不安・不眠が強い→加味逍遥散(TJ-24)
体力があり、血色がよく、火照りが強い→桂枝茯苓丸(TJ-25)
口唇や皮膚が乾燥し、手のひらや足底のほてりあり→温経湯(TJ-106)
 
 
加味逍遥散(TJ-24)
構成生薬:柴胡(さいこ)、芍薬(しゃくやく)、蒼朮(そうじゅつ)、当帰(とうき)、茯苓(ぶくりょう)、山梔子(さんしし)、牡丹皮(ぼたんぴ)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)、薄荷(はっか)
柴胡、山梔子→精神安定作用
蒼朮、茯苓→水滞(水分貯留)を改善
牡丹皮→瘀血(血液のうっ滞)改善
 
適応患者の特徴:中間~やや虚証。上半身はのぼせ・火照り、下半身は冷え(冷えのぼせ)。イライラして神経質な印象。早口で相手を責めるような話口調。様々な症状を訴えがち(多訴)。
適応:月経困難、月経不順、更年期障害、不眠、不安、便秘など
副作用:甘草を含むので、偽アルドステロン症に注意
特徴:精神安定効果あり
【他剤との使い分け】
体力消耗が激しく、倦怠感、寝汗あり。精神症状なし→補中益気湯(TJ-41)
神経興奮、易怒性が強い→抑肝散(TJ-54)
虚弱で色白、精神症状軽度→当帰芍薬散(TJ-23)
 
桂枝茯苓丸(TJ-25)
構成生薬:桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、桃仁(とうにん)、茯苓(ぶくりょう)、牡丹皮(ぼたんぴ)
牡丹皮、桃仁→瘀血(血液のうっ滞)を改善
桂皮→身体を温める
芍薬→痛みをとる
 
適応患者の特徴:やや実証~中間。体力は保たれてる印象、体格がっちりタイプ、精神症状は目立たず、ホットフラッシュが強い。下腹部の抵抗や圧痛がある。
適応:月経不順、月経困難、おりもの、更年期障害、子宮内膜炎など
特徴:血流の改善作用あり。血中CGRP濃度低下の抑制・CGRP感受性亢進の抑制によりホットフラッシュ改善(CGRP感受性亢進にて一過性のCGRP放出による皮膚温上昇が起こる)
※CGRP:血管拡張ペプチドの1種であるカルシトニン遺伝子関連ペプチド。
【他剤との使い分け】
体力充実、不安、不眠、便秘→桃核承気湯(TJ-61)
虚弱、不安、不眠→加味逍遥散(TJ-24)
 
 
 更年期障害に対する漢方療法は、効果が出るのに時間がかかるとも言われます。1ヶ月程度では著効せず、8~12週程度の服用が必要とも言われており、数日の服用で効かないからといって中断しないほうが良さそうです。
 
 それにしても漢方…、奥が深いです。類似方剤を3剤まとめただけで頭が混乱してきました。今後も漢方について取り上げて知識を深めていきたいと思っています。
 
 
H30.8追記
「今後も漢方の知識を深めていきたい」と締めくくっているにもかかわらず漢方について知識を深めることのないまま3年過ぎました。
ざっくりとわかりやすく漢方についてまとまってる本はないかなと思って2年ほど前に購入したのがこちら。とても見やすいですね。エビデンスベースの本ではないですが、漢方を愛用する先生方はこういう考え方で処方しているんだなぁ、というのを知るには有用かと思います。なかには 引用文献を記載した上で○○という効果があるといった記述もありますが、原著を確認してそのエビデンスの限界を自分の目で確かめたほうがよいでしょう。