乳児に対するプロプラノロール(インデラル錠)の処方といえば、いちご状血管腫が有名ですが、添付文書には記載がありません。
プロプラノロールは高血圧や狭心症、不整脈などに適応を持つ薬ですが、現在ではこれらの疾患で処方されることは少なくなっていると思います。甲状腺機能亢進症における動悸・頻脈や、片頭痛発作抑制に使われる程度でしょうか。
不整脈においては小児適応も通っており、「1日0.5~2mg/kgを、低用量から開始し、1日3~4回に分割経口投与。効果不十分な場合には1日4mg/kgまで増量することができるが、1日投与量として90mgを超えないこと」となっています。
では、いちご状血管腫とはどのような疾患でしょうか。
皮膚表面がいちごのような形をした鮮やかな隆起性腫瘤ができる(平坦なものもあり、その大きさもさまざま)。乳児に多く、発生頻度は日本人では0.8%程度(白人では10%)で、男女比は1:3。発生部位は頭頸部60%、体幹25%、四肢15%。痒み、疼痛が認められる場合もあるが、通常は無症状であることが多い。生後より、6ヶ月~1年くらいが増殖期、その後、5歳程度までが消退期とされ、増大を続けたあと勝手に小さくなっていく(自然退縮)。5歳までに約50%、7歳までに約75%が自然退縮すると言われているが、変形、しわ、皮膚萎縮などの後遺症が残ることがある。
大きくて自然消退後に跡が残る懸念がある場合や、目の近くにできて視力に悪影響をもたらしたり、口唇にできて摂食障害をきたしたり、陰部や肛門周囲にできて排泄障害をもたらしたりするケースでは治療を必要とする場合がある。
<いちご状血管腫の治療>
レーザー治療:増殖期に照射することで増殖を抑制し、消退を早める。積極的に行うかは意見がわかれている。
ステロイド:局所注射は内服とほぼ同等の効果だが、局所注射は広範囲の血管腫には不適
プロプラノロールの有効性も報告されています。
A randomized, controlled trial of oral propranolol in infantile hem... - PubMed - NCBI
N Engl J Med. 2015 Feb
P:いちご状血管腫の乳児(生後1~5ヶ月) 460名
E:プロプラノロール1mg/kg、3mg/kg(中間解析に基づき、3mg/kgレジメンを最終解析)
C:プラセボ
O:いちご状血管腫の完全またはほぼ完全な消失
3mg/kg6ヶ月投与の治療成功率は60%、プラセボ:4%(P<0.001)
低血糖、低血圧、徐脈、および気管支痙攣などの有害事象はプラセボと有意差なし。
追跡期間中に、治療成功例の10%で再治療を必要とした。
プロプラノロール3mg/kgというと成人量に匹敵する用量ですが、有害事象の増加はみられなかったようです。大学病院での処方せんを調剤したことがありますが、不整脈での適応の小児用量の範囲で少なめの量から漸増という方針をとっていました。
プロプラノロールの錠剤製品のインデラルには散剤はありません。錠剤の粉砕時の安定性はIFに記載があり、粉砕品・乳糖200倍散ともに25℃/60%RH(遮光)の保存条件下4ヵ月保存したところ、純度、水分及び含量において変化はほとんど認められなかったとのことで、粉砕調剤は問題ないようですが、遮光保存とする必要があります。
味が苦いようなので、お子様には酷かもしれません。いちごミルクが苦味をマスキングするのに有効であったという報告もあるので、試してみる価値はあるかと思います。ただしミルクと混ぜるのはミルク嫌いになる恐れがあるのでおすすめできません。