今までADHDの患者さんと接することがなかったのですが、DSM-5によると子供の有病率は約5%ということで、けして稀な疾患ではありません。ADHDは発達障害として位置づけられており、保護者・学校・医療機関が連携し、支援することが望まれています。正しい知識を備えておく必要があります。
ADHD(注意欠陥/多動性障害)
3つの中核症状
①不注意
- 忘れ物や紛失が多い
- 集中力が続かず、気が散りやすい
- 興味があるものに集中しすぎて切り替えが難しい
- 計画が立てられない
- ケアレスミスが多い。
②多動性
- 一方的にしゃべったり、話の内容がころころ変わる
- じっとしていられず、落ち着いて座っていられない(そわそわしていたり、立ち歩いたりする)
③衝動性
- 思いついたらすぐ行動/発言する
- 順番を待つのが難しい
- 相手の質問を遮って、最後まで聞かずに途中で答えてしまう
文章だと わかりにくいですが、下記の日本イーライリリーのサイトのアニメ動画「ADHDのお子さんの日常」がとてもわかりやすいです。
親と子のためのADHD(注意欠如・多動性)情報サイト|トップページ(PCサイト)
〈ADHDの診断〉
DSM-5の診断基準を用いる。
- 不注意、多動性および衝動性の症状が合致し、6ヶ月以上の持続、かつ学業的/職業的に悪影響を及ぼす
- 症状発現は12歳未満
- 症状が、2つ以上の状況で発現(学校、家庭など)
- 他の精神疾患では説明できない
除外すべき鑑別疾患/環境
など
〈ADHDが引き起こす問題〉
ADHDの子供
- 叱られてばかりで劣等感を生み、自尊心が低くなる。
- 学校の友達とのトラブル
- 反抗的な行動
ADHDの子供の保護者
- 子供の不注意による大きな事故が起きないかという不安
- 周囲からしつけがなっていないと咎められる
〈ADHDの治療〉
教育的支援として、環境調整、ペアレントトレーニング、ソーシャルスキルトレーニング。
アトモキセチン(ストラテラ)
アトモキセチンはADHDに適応を持つ選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤。メチルフェニデート(コンサータ)と違って、依存・乱用のリスクが低く、流通管理や医師・医療機関・薬局・調剤責任者の登録は不要。
DI(添付文書より)
〈用法用量〉
6歳以上~18歳未満:1日2回(食後食前の指定なし) 1日0.5mg/kgより開始し、その後1日0.8mg/kgとし、さらに1日1.2mg/kgまで増量した後、1日1.2~1.8mg/kgで維持。増量は1週間以上の間隔をあける。上限は1日1.8mg/kgまたは120mg(国内第3相臨床試験では、1日2回変服の場合、夕の投与量が多くなるように分割)
18歳以上:1日1回または2回(食後食前の指定なし) て1日40mgより開始し、その後1日80mgまで増量した後、1日80~120mgで維持。80mgまでは1週間以上、その後の増量は2週間以上間隔をあける。上限1日120mg
(肝機能に応じて減量必要)
〈代謝〉
CYP2D6によって代謝。平均消失半減期は、通常3.6時間、CYP2D6のPM(Poor Metabolizer)では20.6時間。
パロキセチンなどのCYP2D6阻害剤との併用でCmax及びAUCはそれぞれ約3.5倍及び約6.5倍に増加(他にCYP2D6阻害剤としては、テルビナフィン、シナカルセト(レグパラ)、シメチジン、キニジンなどがある)
食事の影響:Cmax低下、Tmax遅延はあるが、AUCは信頼区間90%で同等
〈禁忌〉
エフピーなどMAO阻害剤併用、閉塞隅角緑内障、褐色細胞腫、重篤な心血管障害
〈副作用〉
小児(国内):頭痛(22.3%)、食欲減退(18.3%)、傾眠(14.0%)、腹痛(12.2%)、悪心(9.7% )
成人(日本人、アジア人):悪心(46.9%)、食欲減退(20.9%)、傾眠(16.6%)、口渇(13.8%)、頭痛(10.5%)
傾眠、頭痛、食欲減退、腹痛、悪心などの副作用は投与開始2週間以内に起こりやすい。
頭痛、腹痛、悪心は3日以内に消失することが多いが、食欲減退、傾眠は1ヶ月以上続くことも。
自殺念慮(小児・青少年(外国)):投与初期の自殺念慮のリスクが大きかったとの報告がある(本剤投与群5/1357(0.37%)、プラセボ投与群0/851(0%))。既遂例は無し。
攻撃的行動、敵意(小児・青少年(外国)):本剤投与群21/1308(1.6%)、プラセボ投与群9/806(1.1%)
小児においては、体重増加の抑制や成長遅延の報告あり。
眠気・めまいの注意記載あり。
〈注意事項〉
眼球刺激性あり、脱カプセルは不可
DIはざっとこんなところです。
効果発現には2週間くらいかかり、充分な効果を得るには6~8週間程度かかるようです(メチルフェニデート(コンサータ)は即効性)。
気になる副作用である攻撃性や自殺念慮についてですが、
Efficacy and safety of atomoxetine in children and adolescents with... - PubMed - NCBI
上記論文のDB-RCTのメタ解析によると、
攻撃性 7.5% (placebo 6.0%)
となっており、リスク増加の傾向にあります(統計的に有意ではないと記載あり)。プラセボでも見られるようですが、このような徴候には注意する必要があります。
ADHDは医療従事者だけでなく、みんながその特性を知っておくと良いと思います。落ち着きのない子供を見て、しつけがなってないと親を非難するのではなく、もしかしたらADHDなのかもしれないと思いやりをもって接することが大事ではないでしょうか。ADHDの子供とご家族を支えるには周囲の理解が必要です。