pharmacist's record

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偽痛風 (症例:高齢者の発熱)

介護施設の患者さんの症例。
ご高齢の患者さんにセレコキシブが追加処方。施設の職員さんによると発熱したとのことでした。

ん?
発熱でセレコキシブ?
適応は消炎・鎮痛だったはず。。

詳しく聞いてみると表題のとおり、診断は偽痛風だったわけですが、“発熱でセレコキシブ”という話を聞いてちょっと戸惑いました笑
関節穿刺も行っておりましたが感染は否定され、偽痛風と診断。無事セレコキシブで解熱し、関節の痛みも改善しました。


痛風
ピロリン酸カルシウム(CPPD)結晶が沈着して起こる急性の結晶性関節炎で、関節痛、腫れ、発熱などの症状をきたす。
加齢とともに増加。ほとんどが70歳以上で、高齢者に多い疾患。
他の急性疾患罹患時に起こりやすいため、入院中にしばしばみられる。
変形性関節症を伴っていることが多い。
再発例が6割程度。

〈偽痛風の好発部位〉
膝関節が圧倒的に多く、次いで、手関節、足関節、肩、股関節、肘、MCPなど。
単関節であることが多く、2箇所、3箇所以上のこともあるが、通常は、単~少数関節炎。

入院患者など身体を動かしていない場合、関節炎があっても痛みを訴えないことがある。
膝の関節炎をピックアップするには?⇒膝の上と大腿部の温度を確かめる。通常、膝より大腿部のほうが温かい。温かさが同じ、もしくは膝の方が温かい場合、膝関節に熱感あり。左右差を見ることも大事。

※偽痛風は関節の痛みであるため、能動的に動かしても(患者が)、他動的に動かしても(医師が)、痛みが強まる。
関節外の痛みである腱鞘炎、蜂窩織炎などでは他動的にゆっくり動かすと痛みの悪化がなかったり、一定の方向に動かすときのみ痛みが強まる。


〈偽痛風の検査所見〉
CRP上昇、白血球増加、赤沈亢進⇒特異的ではない

・単純X線写真
軟骨の石灰化の検出感度が高い部位を狙って、両膝・両手首(三角靱帯)・骨盤正面の5枚撮影。
⇒石灰化を認めても、高齢者では特異的でないので確定診断には不十分(変形性関節症OAなどでみられる)。石灰化が認められなければ可能性は低くなるが、検出感度は充分ではなく完全に除外できない。

・関節穿刺液の白血球数
痛風などの炎症性の場合、2,000~20,000/μLとなることが多く、20,000/μL以上であれば感染性を疑い、2,000/μLであれば炎症のない変形性関節症の可能性を疑う。50,000/μLを超えると感染性の特異度が約90%となりLR+が7~8と高くなる。
あくまで参考指標であり、確定診断はできない。

・関節穿刺液の培養とグラム染色
化膿性関節炎かどうかの鑑別には培養検査が必須で、グラム染色の感度はあまり高くない。
ただし、グラム染色でCPPD結晶(長方形・菱形)や尿酸結晶(針状)が白血球に貪食されているのが見つかり、偽痛風痛風をピックアップできることがある。

・関節穿刺液のCPPD結晶の検出⇒診断の確定
偏光顕微鏡にて菱形・長方形の結晶を検出。CPPD検出感度は6割程度という報告もあり、偽陰性となることもある。


〈偽痛風と他疾患の鑑別〉
・関節リウマチRA
通常、緩徐発症で、発症年齢が30~50代と若年発症が多い。
朝のこわばりが30分以上持続
PIP、MCP、手関節(両側性)に多いが、高齢者では膝などの大関節から始まることもある。
初期は少関節炎だが、一般に多関節炎。

痛風
一般的に痛風のほうが痛みが強い。ジンジンするといった前兆を感じることがある。
男性率が約9割で、飲酒習慣のある中年男性に多い(閉経後は女性の率が増えてくるが、男性の半数以下)
高尿酸血症が原因となるが、急性発作時は尿酸値は正常範囲内であることも多いので発作時の尿酸値では評価できない。
体温の低い部位に結晶ができるため、足の親指の付け根に好発。体幹に近い肩や股関節などではまずおこらない。
無治療で放置すると耳介(耳たぶ)、肘、足指、くるぶしなどに無痛性の痛風結節(しこり)がみられる。

・変形性関節症OA
非炎症性であり、骨性の関節腫脹
膝、DIP、PIP、CMCに多いが、足首や肩、肘、手首、MCPには起こりにくい。


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DIP⇒OA
PIP⇒RA、OA
MCP⇒偽痛風、RA
手関節⇒偽痛風、RA
CMC⇒OA


〈偽痛風の治療〉
基本は対症療法でNSAIDsの経口投与を行う。ステロイド、コルヒチンなどを用いることもある。
ステロイド:感染が除外できており、NSAIDsが使用できない場合、関節液をなるべく吸引してからステロイド注射。多関節炎なら経口投与短期間。ステロイドの結晶が白血球を呼び寄せてしまい、一時的に発作を誘発することもあるので(約5%、1~2日程度で消失)、事前説明が必要。


〈偽痛風のピットフォール〉
関節穿刺にてCPPDが確認できたとしても、化膿性関節炎も合併している可能性あり(特に単関節の場合)。
関節穿刺液のグラム染色(感度低い)、培養検査(感度高い)を行い、除外診断を行う。


 偽痛風は予後良好であることが多く、無治療でも自然緩解することがあるようで、見落とすと怖い病気というわけではありませんが、高齢者の不明熱の原因となることもあります。高齢者の関節痛としては偽痛風はコモンな疾患ですが、注意すべきは偽痛風であったとしても、化膿性関節炎も合併している可能性もあるため、培養検査は必須となることが多いようです。
 場合によっては治療的診断としてのNSAIDsという選択肢もあるかもしれません。偽痛風ならNSAIDsで改善しますが、化膿性関節炎も合併していればNSAIDsだけでは治療できないので注意が必要です。