pharmacist's record

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BPSDに抑肝散が効く?

 高齢化が進む昨今、認知症とその周辺症状BPSDのコントロールの重要性が増しているのではないでしょうか。夜間のせん妄や興奮が、患者さんを介護するご家族や、介護施設の職員の負担となることも多いのではないかと思います。

 介護施設にて高齢患者さんの夜間の興奮に対して漢方製剤の抑肝散が有効であった症例を経験しました。昼夜逆転傾向にあり、夜間のコールが多発していましたが、抑肝散2.5g分1就寝前投与にて、夜間のコールが明らかに少なくなったとのことです。抑肝散はあまり効かないといった声もありますが、忍容性も高いですし、有効なケースもあるので選択肢の一つになり得ると思います。

 

古いですが、抑肝散の論文をピックアップしました。 

A randomized, observer-blind, controlled trial of the traditional C... - PubMed - NCBI

J Clin Psychiatry. 2005 Feb 観察者盲検RCT

観察者盲検ということで、プラセボを用いたDB-RCTではありません(漢方のプラセボをつくるのは難しいと聞いたことがあります)。

平均年齢80歳の認知症患者52名を抑肝散投与群27名、対照群(投与無し)25名に無作為に分けて、4週間処置(両群ともに脱落者無し)

アウトカム:①BPSDの評価としてNPI ②認知機能の評価としてMMSE ③ADLの指標としてバーセルインデックス ④錐体外路症状EPSなどの有害事象

対照群11名でチアプリド(グラマリール)による治療を必要であった。

結果は、BPSD,ADLは改善したが、MMSEは変化なし。EPSは両群ともに無し。対照群のチアプリド投与11名のうち6名でめまい、ふらつきあり。

 

※NPI:BPSDの評価尺度。妄想、幻覚、興奮、うつ、不安、多幸、無感情、脱抑制、易刺激性、異常行動の10項目の頻度を1~4、重症度を1~3の3段階で評価する。点数が高いほど頻度、重症度が大きいことを示している。各項目のスコアは頻度×重症度で表され(1~12点)、10項目で合計1~120点となる。

※MMSEミニメンタルステート:日時(5点)、現在地(5点)、記憶復唱(3点)、計算/100から7を引いていく(5点)、想起(3点)、呼称/時計と鉛筆を見せて名称を答えさせる(2点)、文章を繰り返す(1点)、言語理解/3つの命令(3点)、文章理解/文章の指示に従う(1点)、文章構成/文章を書かせる(1点)、図形を書き写す(1点)。合計30点満点。点数が低いほど知能低下が進んでいる。

※バーセルインデックス:食事、歩行、トイレ、入浴、整容(洗面・歯磨きなど)、着替え、階段昇降、排尿・排便コントロールなど。合計100点。点数が低いほどADL低下。

 

  症例数が少なく二重盲検でない点を差し引いて評価する必要があるかと思います。この研究では、抑肝散フルドーズでの使用でしたが、高齢者の場合、過鎮静の可能性も考慮して、分1眠前投与から開始で漸増していくのでも良いかなと思います。抑肝散はフルドーズでも甘草1.5gで甘草含有量が多いわけではないですが、他の漢方との併用、あるいは利尿剤との併用、食事量低下などにより低カリウム血症をきたすこともあるので注意が必要です。