医療従事者のインフルエンザ予防に対する意識はとても強いと思う一方で、正しい予防策が浸透していないのでは?と思うこともしばしばあります。マスクを一度外して、また装着するといったマスクの再利用は正しい使い方とは言えません。インフルエンザの感染経路から復習してみます。
- マスクを着ける前に手洗いをする。
- 装着の際には、鼻から顎まで隙間のないようにしっかりと覆う。
- 着脱したらすぐに捨てる。再利用はしない。
- 机の上などに使用済みマスクを放置しない。
- 不意に咳やくしゃみが出るときは、周囲の人に顔を向けないようにする、または口をティッシュなどで覆う。使用したティッシュはすぐに廃棄。
- 手で咳やくしゃみを受け止めたらすぐに手洗いをする。
- 咳やくしゃみの症状があるときはマスクを着用
こちらは日本の研究で、二酸化塩素製剤の有効性を調べた論文です。対象者は陸上自衛隊員。前向きコホートということでランダム化はされておらず盲検化もされていません。
介入群:345名、男女比93:7、平均年齢43歳、ワクチン接種率17.7%
非介入群:442名、男女比82:18、平均年齢35歳、ワクチン接種率23%
介入群に据え置き型二酸化塩素放出薬を設置、1ヶ月で新品に交換。介入期間は54日間。
アウトカムはインフルエンザ様症状(38℃以上の発熱、咳または咽頭炎)
介入群8名(インフルキット陽性2名)、非介入群32名(インフルキット陽性12名)
これをどう解釈するかが問題です。
非介入群に同部屋での複数感染が見られたら効果があったのかな?と思いますが、「介入群、非介入群ともに、同じ部屋から複数の患者が発生していない」ということで、室内でのウイルス感染を予防したとは言えないのではないでしょうか。
交絡因子について「考察」の中で記述があり年齢や性差について検討されていますが、ランダム化されていないコホート研究なのでDB-RCTやったらあっさり覆される可能性もあるかもしれませんね。
ちなみに製品の提供は製薬メーカー。COI(利益相反)はないとされています。
空間除菌の需要が増えているようですが、本当に効果があるのか、安全性に問題はないのかきちんと検証するべきだと思います。今後の追加検証が期待されます。
補足(2016.1)
あいかわらずこの手の製品がドラッグストアや薬局で積極的に販売されているようです。ペン型の製品も発売されたとか…。
TVのCMでは、「医師がすすめる」と紹介されていますが、空間除菌製剤を推奨している医師ってどこにいるんでしょう?
これにはちょっとしたトリックがあったみたいで、医師へのアンケートで
「感染症対策として空間除菌が有効だと思いますか?」→有効77%
有効と答えたDrに対して、
「空間除菌に二酸化塩素が有効?」→有効60%
あれ?結局、感染対策に二酸化塩素による空間除菌が必要だと答えた医師は46%ということになりませんかね?半数切ってますが…。
しかも、「空間除菌に二酸化塩素が有効?」というのも、「二酸化塩素の空間除菌製剤を室内に設置することが安全性においても有効性においても有益?」とイコールの質問ではありません。
アンケートをとった医師の専門分野も大事ですよね。感染症専門医でしょうか?違うでしょうね…。もし本当に専門医が有用だと評価しているなら学会などで発表されているはずです。
http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/injuryalert/0040.pdf
安全面においては、このような事故の報告もありますので要注意です。
なんとなくですが、追加検証なんてだれもやらないのでは?という気がしてきました。メーカーさんにとっては臨床試験はコストがかかるのでリスクが高いですし、感染症専門の先生方からしたら検証するまでもないでしょ、と。
今後も各メーカーさんの販売促進は加速していくのかもしれませんが、個人的にはこの関連商品については新しいエビデンスが出るまではおすすめしたくないですね。