pharmacist's record

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ネフローゼと脂質異常症

ネフローゼ症候群の症例を一部アレンジしてお示しします

 

プレドニゾロン5mg

シルニジピン10mg

トラセミド8mg

ロスバスタチン5mg

カンデサルタン8mg

ジピリダモール150mg

シクロスポリン50mg(処方追加)

 

 ネフローゼ症候群ステロイドに抵抗性を示す場合、免疫抑制剤が使われることがあります。ここで問題となるのがスタチンとの併用です。

 

ネフローゼ症候群

糸球体性の大量の蛋白尿による低アルブミン血症の結果、浮腫が出現する腎疾患

診断基準:①尿タンパク3.5g/日以上 ②血清総タンパク 6.0 g/日以下(血清アルブミン値 3.0 g/dL 以下)③高脂血症 TCho250mg/dl以上 ④浮腫

①②は必須条件、③④は参考条件

 膜性腎症など腎疾患による一次性のものと、SLE、アミロイドーシスなどによる二次性のものに大別される。

治療効果の判定

  • 完全寛解: 尿蛋白<0.3g/日
  • 不完全寛解I型: 0.3g/日≦尿蛋白<1.0g/日
  • 不完全寛解II型:1.0g/日≦尿蛋白<3.5g/日
  • 無効:尿蛋白≧3.5g/日 

ネフローゼの症状

  • 浮腫:低アルブミン血症のため浸透圧が低下し、水が組織間へ移行することと、遠位尿細管でのナトリウム再吸収が亢進するため、浮腫が起こる
  • 凝固能亢進:肝臓での凝固因子の産生が亢進する
  • 易感染性:免疫グロブリンの低下などにより感染症発症のリスク因子となる
  • 急性腎障害:低アルブミン血症に伴い、循環血漿量が減り、急性腎前性腎不全の誘因となる。
  • 脂質異常症:タンパクが尿中に漏れてしまい、タンパク減少を補うために肝臓でタンパク合成が亢進するが、それとともにコレステロール中性脂肪の合成も亢進する。

 脂質の補正に主にスタチン系が用いられる。胆汁排泄型が多いため、腎機能低下例でも用量調節は不要(※1)だが、CKDステージG3以上では横紋筋融解症の報告があるため、注意深い観察が必要。

※1  ロスバスタチンに限り「Ccr 30 mL/分未満では 2.5 mgより開始,最大 5 mg 分1」と腎機能に応じて用量調節が必要とされている。

 ステロイド抵抗性の場合、免疫抑制薬として、シクロスポリンやシクロホスファミド、ミゾリビンが用いられるが、シクロスポリンはスタチンの血中濃度を上昇させるので注意が必要

スタチン(主な代謝経路)とシクロスポリンの相互作用

  • ロスバスタチン(胆汁排泄):併用禁忌 AUC7.1倍、Cmax10.6倍
  • ピタバスタチン(胆汁排泄):併用禁忌 AUC4.6倍、Cmax 6.6倍
  • アトルバスタチン(CYP3A4):併用注意 AUC8.7倍上昇
  • シンバスタチン(CYP3A4):併用注意 10mg/日を超えない 
  • プラバスタチン(胆汁排泄):併用注意
  • フルバスタチン(CYP2C9):併用注意

 一部のスタチンは添付文書に濃度上昇率の記載がありませんが、血中濃度の上昇が示唆されています。シクロスポリンはCYP3A4の基質であることが原因とも考えられましたが、CYPの関与を受けないスタチンも相互作用を起こすため矛盾します。

 シクロスポリンにはアニオントランスポーターを阻害する作用もあり、肝細胞の血液側の膜にあるトランスポーターOATP1B1の阻害により、スタチンが肝臓へ取り込まれるのを阻害する結果、血中濃度が上昇するという説が有力です。

 フルバスタチンはOATP1B1の寄与が小さいと言われており、相互作用の影響は比較的少ないと考えられています。

 脂質異常症に用いられるエゼチミブもシクロスポリンと併用注意となっており、添付文書上では機序不明となっていますが、トランスポーターの関与が示唆されているようです。

 

 お示しした症例は、併用禁忌のロスバスタチンから併用注意の別のスタチンに変更となりましたが、どちらにせよ、禁忌扱いではないスタチンも血中濃度の上昇はみられるので、横紋筋融解症の初期症状の注意喚起等、慎重に投与する必要があります。