pharmacist's record

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塩分制限やダイエットで血圧はどれくらい下がるのか?[TONE試験]

今回も血圧ネタ
減塩介入の有効性とは!?

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Sodium reduction and weight loss in the treatment of hypertension in older persons: a randomized controlled trial of nonpharmacologic interventions in the elderly (TONE). TONE Collaborative Research Group
TONE Collaborative Research Group. JAMA. 1998 Mar 18;279(11):839-46. PMID: 9515998.

うーむ。
見やすくするために、スライドみたいなノリで横長の簡易なビジアブをつくってみたのですが、いざ、ブログに貼り付けてみたら、文字が小さくなってしまいました(計画性ナシ)。
見にくくてすみません。

割り付けがちょっとややこしいんですが、肥満ありの参加者はダイエットの介入も含めた4群に割り付けられています。血圧の変化の解析は合算した平均値です。


塩分制限が大事!というのは万国共通の生活指導かと思っていましたが、肥満を解消するだけでも血圧がけっこう下がるんですね。

ただ、これは外国で実施された研究なので、そもそも塩分過多の人たちがどれくらいいたのかっていう疑問もあります。つまり外的妥当性の検討が必要。

ナトリウム排泄量をみてみると1日あたり、肥満ありで155mmol(mEq)/dくらい、肥満なしで137mmol(mEq)/dくらいでした。

尿検査による1日食塩摂取量の計算方法とその信頼度は? |Web医事新報|日本医事新報社
ナトリウム排泄量÷17でおおよその塩分摂取量がわかるようなので、計算してみると、
肥満あり→塩分摂取量9.1g
肥満なし→塩分摂取量8g

な~んだ。そんなに摂りすぎてないじゃないですか。
これって醤油大好き日本人だともっと塩分とってそう…汗
ラーメン1杯で6g以上いっちゃいますよね(スープも飲んだら)
たった今、私が食べたカップうどんの食塩相当量が6.2gでした汗汗汗

この研究では塩分制限の指導によって、1日2~3g減塩できたようです(原著のFig2参照)。
だいたい2~3gの減塩でSBPが3mmHgくらい下がるという見込みでしょうか。

塩分摂取量の多い日本人高血圧患者さんだと、減塩介入の効果がもっと大きくなるかもしれませんね。


ダイエット介入では、平均4~5kgの減量という結果。
ダイエット介入が行われたのは肥満の参加者のみで、その平均体重は87kgです。87kgくらいの人が4~5kgの減量に成功すると、血圧が4mmHgくらい下がるという見込みですかね。


いざ患者さんに勧めるときの参考として使えそうな目安かと思います。


ちなみに、この研究では、3つの介入群は患者さんたちが服用していた1種類の降圧薬を離脱する方針となっていました。中止までの中央値は3.2ヶ月です。
(ビジアブに示した血圧の変化は降圧薬中止前のデータ)

降圧薬を中止できた割合は、通常ケア86.8%、減塩92.6%、減量93.2%、減塩と減量の併用93.2%。

その後も介入は継続し、フォローアップ期間は15~36ヶ月(中央値29か月)

実はこの研究のプライマリアウトカムは、薬を中断したあとの、「薬の再開」と「心血管イベント(心筋梗塞狭心症心不全など)」の複合アウトカムなんですよね。今回は純粋に血圧の推移が知りたかったので、プライマリではなく、血圧の変化についてのみビジアブに載せました。

心血管イベントの発生数については各群の発生率に有意差なし。ただ、各群の発生数がほぼ一桁なので症例数不足が否めない印象です。そのあたりの詳細は原著をご確認ください。


というわけで、だいたいの目安がわかって個人的には満足。
高血圧の患者さんって、とくに薬が増えていくのを嫌がる人が多い印象(誰だってそうでしょうけど…)
こういう生活指導で血圧の上昇を抑えることで薬の増量が不要になる可能性もあるということは患者さんにとって朗報でしょう。「塩分ひかえて!」とか「太ってるなら痩せなきゃ!」って言われても、どれくらい血圧が低下するのかわからなかったらモチベーションもあがりませんよね。こういう数値の目安は大事だと思います。

「それくらいしか血圧が下がらないなら、生活習慣なんて改めんでええわ!」という人が続出しないか心配なところではありますが…汗