pharmacist's record

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心血管イベント抑制効果【EPA/DHA vs コーン油】The STRENGTH Randomized Clinical Trial

近年、いろいろと報告があがっているω-3脂肪酸(オメガ3)なんですが、新しいのがJAMAに出ました

Epanova®(アストラゼネカ)というEPADHAのカルボン酸製剤(carboxylic acid formulation of EPA and DHA)とコーン油を比較した試験です。

カルボン酸製剤は腸管吸収時に膵リパーゼによる加水分解を必要としないため、高脂肪の食事と一緒に摂取する必要がなく、標準的なオメガ3エチルエステル製剤(omega-3 ethyl ester formulations)よりもバイオアベイラビリティがよいそうです。

さっそくビジアブ
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Effect of High-Dose Omega-3 Fatty Acids vs Corn Oil on Major Adverse Cardiovascular Events in Patients at High Cardiovascular Risk: The STRENGTH Randomized Clinical Trial
JAMA. 2020 Nov 15. doi: 10.1001/jama.2020.22258. Epub ahead of print. PMID: 33190147.

全例スタチンをオン
エゼチミブ服用は数%のみ。
フィブラートは不可という決まりで試験してます。

ビジアブに検査データを書ききれなかったんですが(単に忘れたという説もある)、
ベースラインのTGは中央値240mg/dLで、介入の結果、19.0%減少 vs 0.9%減少

心血管イベント(MACE)はネガティブでした。
ハザード比はほぼ1で有意差なしです。

過半数が二次予防ですが、二次予防集団だけで見ても、有意差なし

有用性は認められないであろうということで試験が早期中断となっています。

ビジアブの※をつけた脱落人数のところですが、これについては詳細は原著をご確認ください。
ビジアブがビジーになるので、詳細は書いてませんが、
全体の人数から「試験完遂と早期中断となったために完遂しなかった人」を差し引いた人数を記載しています。
ランダム割付されたけど介入を受けなかったのは数人、Lost to follow-upは各群200例くらい、患者の意向で中断したのが各群700例くらいです。
有害事象で中断したのがEPA/DHAは708例に対し、コーン油は526例。ここは脱落人数に差がありますね。

本文に
Vital status was recorded in 99.8% of patients and 96.6% of patients had complete follow-up for assessment of the primary end point.
という記述がありました。ロストだらけでデータ欠損が多すぎるってことはなかったみたいですね。


個人的に注目したのはプライマリアウトカムのMACEに差がないことだけでなく、有害事象の胃腸障害がEPA/DHAの方が多いことでしょうか。ビジアブにも記載しておきました。
内訳を一部紹介すると、下痢が12% vs 5%、吐き気が3.2% vs 1.7% です

これはちょっと気になりますね。NNHが10くらいってことですよね。
有害事象による脱落人数もEPA/DHAの方が多いのは胃腸症状が理由でしょうか?
(ちなみに、個人的な経験になりますが、日本のEPA/DHA製剤でも胃腸症状で継続できなかった患者さんを数例経験しています)

あとはTable2より、心房細動が増加しているのも気になりますね。
ハザード比は1.69 (1.29-2.21)
これも試験早期終了となった理由のひとつです。

偶然かな?って気もしますが、REDUCE-IT試験でも似たような知見が得られており、考察で言及されています
Investigator-reported new-onset atrial fibrillation was more common in patients receiving omega-3 CA, a finding also reported with purified EPA administration in REDUCE-IT (5.3% vs 3.9% with icosapent vs mineral oil).
これはちょっと気になりますね。
高用量オメガ3脂肪酸の大規模RCT2つで似たような知見が得られていると…。


サブ解析にもちょっと触れておきましょう
偶然かなって気もしますが、エゼチミブ服用集団はMACEが有意に減っている。あとアジア人も有意に減っている。有意差のない試験のサブ解析で「○○な集団には有効」とか言っちゃいけないはずなので、このデータでアジア人には有効という証明にはならないと思います。


ディスカッションがいろいろおもしろかったです
日本のJELISについても触れられていますね。非盲検試験であること、待機的血行再建術が複合エンドポイントに含まれていること…などの記述が。。

ポジティブな結果を示したREDUCE-IT(Cardiovascular Risk Reduction with Icosapent Ethyl for HypertriglyceridemiaPMID30415628)との比較なども考察されています。こちらは高用量イコサペント酸エチルで、DHAはナシ。対照群がmineral oil。このmineral oilが悪さをしたから有益性が得られたのではないか、みたいな意見も出ていたみたいですね。それだけではポジティブな結果を示した根拠としては弱いだろうってことになったみたいですけど。

今回紹介したThe STRENGTH RCTの著者は「コーン油が心血管リスクに関連する生化学的パラメータに最も影響が少ない中立的な比較対照薬」だと言及しています。
プラセボとして使われたのが何かについてもチェックしなきゃイカンですねぇ~。


さて…、
結局のところ、一部の試験においてポジティブな結果が得られた理由がよくわかりません。
このテーマは今後も目が話せないですね。ほかにも試験が走っているのかどうか不明ですけれども。