朝ぼんやりとスマホを眺めていたら、「国内2例目の新型コロナ治療薬としてデキサメタゾン」という記事が目に飛び込んできました。
参考:厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き 第2.2版」(7月17日改定)にもデキサメタゾンが掲載されています。
https://www.mhlw.go.jp/content/000650160.pdf
このニュースに飛びついた患者さんが処方を希望したらどうしましょうかね。
臨床的にCOVID-19が疑わしくない軽度の風邪様症状の患者さんに対するデキサメタゾンの処方が激増するなんてことがありえるのでしょうか…?なきにしもあらずでしょうか?
ここはやはり根拠となったRECOVERY trialをチェックしておく必要があるでしょう。
ビジアブはこちら
Dexamethasone in Hospitalized Patients with Covid-19 - Preliminary Report - PubMed
N Engl J Med .2020 Jul 17. PMID: 32678530 DOI: 10.1056/NEJMoa2021436
ふむ…。
重症COVID-19入院患者にデキサメタゾンが有効かどうかを検証した試験ですね。
この試験はもっと大規模で、他の治療群も設けられているみたいなのですが、この論文ではデキサメタゾン群と通常治療群についての結果を掲載しています。
ビジアブに載せたとおり、試験に参加した時点で呼吸補助を必要としていない患者さんにおいては、死亡率低下は認められていません(有意差はないものの死亡率が少しだけ高い傾向にある)。
この試験で実証されたのは呼吸補助を必要とする重症患者さんに対する有益性に限ります。「自分は新型コロナウイルスに感染しているかもしれない!?」という人たちが安心を求めて服用する薬ではないと思います。少なくともこの研究結果からはそのような結論には至りません。
この薬が予防的に乱用されるのを防ぐためには、まずはこの論文をじっくり見ていただくとよいんじゃないかと思います。この論文は全文フリーなので、Fig2が一目瞭然です。
もしデキサメタゾンを熱望する患者さんがいたら、Fig2をお見せして説明するのがいいんじゃないかなぁ~と思うのですが、いかがでしょうか。
街薬局で勤務している私の立場としては、院外での処方を要する薬剤ではないという印象です。呼吸管理を必要とする重症患者さんで検討する薬であって、ふつうの街薬局では出番はないのではないかと思います。
ちなみに、サブ解析で
Invasive Mechanical Ventilation(侵襲的人工呼吸器)
Oxygen Only(酸素投与)
No Receipt of Oxygen(酸素投与なし)
の3つのグループで解析されていますが、
各グループの試験参加時点でのCOVID-19発症からの期間は、順に13日、9日、6日でした。
発症初期から重症化することはほとんどなく、たしか1週間くらい過ぎてから重症化するそうなので、重症例の方が発症からの期間が長くなっていますね。
一方、酸素投与なしの患者さんたちは比較的発症初期の段階で試験に参加したということです(ゆくゆく酸素投与や人工呼吸器が必要となった患者さんもいたことでしょうけど)。
これってざっくり解釈すると、初期の段階でデキサメタゾンを投与する必要はなく、呼吸補助が必要な状態になったら投与開始すればよいということなのかな!?
呼吸状態良好な患者さんが、急いで投与することのメリットはなさそう…。
ますます院外の薬局では出番がなさそうですね。
重症化防止というより、重症化してしまった患者さんの死亡を減らす薬という印象です。
さて、基本的なデータをビジアブに落とし込んで、ざっくりと流し読みをしてみましたが、クロスオーバーしてるところをどう考えればいいのかなど気になることばかり!
実はきたる連休の狭間にこの論文を題材とした勉強会に参加予定ですので、そこでじっくりと勉強したいと思います!
自分が見落としているチェックポイントもあるかもしれませんので、しっかり読み込みたいですね!