pharmacist's record

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β遮断薬はCOPDを悪化させる?②

NEJMに興味深い論文が発表されました。
COPD患者にβ遮断薬を投与したRCTです。


COPDとβ遮断薬については以前とりあげたことがあります
ph-minimal.hatenablog.com

4年の時を経て、再び同じテーマで第2弾を書くことになろうとは…。
β遮断薬による気管支平滑筋の収縮を懸念してCOPD患者さんには慎重になった方がよいのでは?ということで使用を躊躇する傾向にある一方で、心臓選択性のβ遮断薬であれば使っても大丈夫そうだという報告も多いようです。

最近では、LAMA/LABAのRCTの事後解析でβ遮断薬服用者と非服用者を比較したところ、肺機能はβ遮断薬による悪影響はなかったとされており、心疾患合併COPD患者に対してβ遮断薬の慎重かつ適切なβ遮断薬の使用を支持する報告もでています
β-Blockers in COPD: A Cohort Study From the TONADO Research Program. - PubMed - NCBI
Chest. 2018 Jun;153(6):1315-1325.PMID:29355547


さて、今回のNEJMで報告されたRCTですが、なんとβ1遮断薬のメトプロロールがCOPD増悪予防に有効かどうか検証されました。

まずはバックグラウンドから。

心筋梗塞心不全に対するβ遮断薬の有効性は確立している。COPD患者は肺機能への悪影響を懸念して、β遮断薬の適応がある場合でも、使用されないことがしばしばある。複数の観察研究で、心血管疾患を合併しているCOPD患者に対するβ遮断薬の有益性が示唆されているにもかかわらず、使用されない傾向が続いている。COPD患者を対象とした観察研究では心疾患の有無に関係なく、β遮断薬は死亡リスクを減らすという報告もある。しかし、観察研究なのでバイアスの可能性がある。
そこで、β遮断薬のCOPDの増悪リスクに対する影響を検証した。」

ざっと意訳するとこんな感じです。
最新の論文のイントロダクションって勉強になりますよね。これまでの報告でわかっていることがまとまっているのでアツい!

さて、研究の概要をビジアブ(ビジュアル・アブストラクト)でまとめました。

f:id:ph_minimal:20191025105207j:plain
Metoprolol for the Prevention of Acute Exacerbations of COPD. - PubMed - NCBI
N Engl J Med. 2019 Oct 20. PMID:31633896

ランダム化、盲検化(メトプロロールの心拍数や血圧の低下で見破られる可能性もある?)
メトプロロールvsプラセボ
アウトカムはCOPDの増悪
増悪の定義は3日以上の抗菌薬orステロイドの治療を必要とする「咳、痰、喘鳴、呼吸困難、胸の圧迫感(chest tightness)」のうち2つ以上の症状。

さて、この試験、なんと安全性の懸念に基づいて試験中断となっているんですね。

プライマリエンドポイントは有意差はありません(中途終了による検出力不足の可能性もある?)
COPD増悪については、mild,moderate,severe,very severeの4段階、severe,very severeは入院を必要とする増悪です。
で、入院を必要とするCOPD増悪がメトプロロール群で増加していたようです。

さて議論になりそうなこの試験結果…、みなさんはどう思いますか?
個人的に気になったのは、喫煙率がメトプロロール群のほうが多い傾向にあること(current smoker 35.4% vs 26.9%)

この試験ではβ遮断薬の恩恵が大きい患者さんは除外されています。
β遮断薬が必要な患者さんには使ったほうがよいのでしょうけど、COPD患者さんに使用する場合には、呼吸機能の悪化に十分注意したほうがよさそうですね。