pharmacist's record

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カフェインの鎮痛補助効果は? [ビジアブ]

以前から疑問に思っていたカフェインについて取り上げます。

カフェインといえばコーヒー!って感じですが、カフェインは医薬品にも配合されています。

パッと思いつくのはPL配合顆粒®などの総合感冒薬ですね。抗ヒスタミン薬による眠気を防いだり、血管収縮作用による頭痛の鎮痛補助として配合されていると言われています。

眠気防止だけでなく、鎮痛補助の目的もあるんですね。

たしかに処方せんがなくても購入できる鎮痛薬の中にはカフェインが配合されている商品もありますよね。販売メーカーのサイトを見てみると、カフェインは「頭痛をやわらげる」「痛みをおさえる働きを助ける」と書いてあります。

痛みをおさえる働きを助ける作用(=鎮痛補助作用)があるとのことですが、カフェインを鎮痛補助として治療に用いることはあるのでしょうか(自分が知らないだけ?)。

ためしに医療用医薬品の添付文書検索メニューで「カフェイン」で検索すると、各種メーカーからカフェインの散剤が販売されており、効能効果は「ねむけ、けん怠感、血管拡張性及び脳圧亢進性頭痛(片頭痛、高血圧性頭痛、カフェイン禁断性頭痛など)」となっていました。鎮痛補助という効能はありませんが、頭痛に対する効能はあるとされているようです。
(カフェインの医療用医薬品があるとは知りませんでした…)


というわけで、カフェインの鎮痛補助効果について調べてみたいと思います。
頭痛に対する鎮痛補助効果についての文献はちらほら見たことがあるような気がするのですが、つい最近、腰痛・首の痛みに有効なのか検証した試験結果が発表されました1)。
おっ!これは気になる!ということでこの文献IDをメモしておいたのですが、最近、怠け癖がついていて、あとで読むリストに放り込んだまま永遠の眠りについてしまう可能性があるので、本ブログで取り上げてみたいと思います。

1)A randomized, placebo- and active-controlled, multi-country, multi-center parallel group trial to evaluate the efficacy and safety of a fixed-dose ... - PubMed - NCBI
J Pain Res. 2019 Sep 23;12:2771-2783.PMID:31576162

f:id:ph_minimal:20191023010412j:plain

概要はビジアブ(ビジュアル・アブストラクト)のとおり。
対象は腰痛or首の痛みです。急性ってことで3週以内が対象。もっと持続している症例は慢性疼痛ってことで除外されています。

介入内容は3通り
イブプロフェン400mg+カフェイン併用 vs イブプロフェン400mg単独 vs プラセボ
2:2:1でランダム化

スペースの都合上、ビジアブには記載してませんが、レスキュー薬の使用も許可されています。
痛みが強いとき、アセトアミノフェン500mgを1回1~2錠、1日2回まで。
(→てことは、試験結果を見るとき、アセトアミノフェンの使用率もチェックしておいたほうがよいですね)

あと、カフェインの鎮痛補助効果を検証ってことなので、試験参加者にはカフェイン含有飲料などを控えるように指示されました。advised to refrainってことで、完全に禁止というわけにはいかないって感じでしょうか。

介入期間は5日間ですが、
主要評価項目(プライマリアウトカム)は1日目→2日目の痛みの変化。
厳密には初日の朝(服用開始前)の痛みをベースラインとして、2日目の朝の服用2時間後の痛みのスコアを比較しています。
痛みは体動による痛み(pain on movement)とし、もっとも痛みが強い体動痛を評価しました。

結果はご覧のとおり。
プラセボがすごい。
まあ、自然軽快もあるのでしょうけど…。
(群間差がちょっと見づらいかもしれませんが、マイナス=痛みのスコアの減少幅が介入群つまり併用群の方が小さいということです)

併用群がプラセボに対する優位性を示せませんでしたが、これは検出力の問題もあるのでしょうか?一応、減少傾向にはありますね。
ただ、イブプロフェン単独群と比べると併用群は有意差がないどころか、若干劣ってる傾向。

アセトアミノフェンの使用率は、
併用群:12.1%
イブプロフェン単独群:8.7%
プラセボ群:12.7%

この試験結果を見る限りでは、腰痛や首の痛みに関してはカフェインの鎮痛補助効果は期待できそうにないなぁという印象です。

個人的に気になったのは、体動による痛みを評価したってところでしょうか。
この結果を見ると、イブプロフェンの効果自体がイマイチな感じがしてしまいますが、体を動かして痛みを誘発したら、鎮痛薬を飲んでても痛いよねって気もします。多少は痛みが軽減しているのでNSAIDsの効果は出ているといえるのかなぁ~という印象です(とはいえ劇的な改善は見込めなそう…)。

プライマリは2日目で評価してますが、試験は5日間実施されています。
詳しい試験結果はぜひ原著論文をご確認ください!この論文も全文フリーで読めます!


<おまけ>
カフェインの鎮痛補助効果についてはコクランレビューが出ています
Caffeine as an analgesic adjuvant for acute pain in adults. - PubMed - NCBI
Cochrane Database Syst Rev. 2014 Dec 11;(12):CD009281.PMID:25502052
結論は、「The addition of caffeine (≥ 100 mg) to a standard dose of commonly used analgesics provides a small but important increase in the proportion of participants who experience a good level of pain relief」
small but importantですって…。
辛口な印象のあるコクランの結論がこんな感じ。

メタアナリシスの結果、
鎮痛効果は鎮痛薬単独と比べてカフェイン併用はRR1.2(1.1 to 1.3)、NNTは14

パッと見、腰痛や首の痛みについての研究は含まれていないようですね(きちんと読み込んだわけではないので、原著をご確認くださいッ汗)
歯の痛み、生理痛、頭痛などの研究が主だそうです。

痛みの種類によって鎮痛補助効果を示すかどうかが異なるのかもしれませんね。