一包化
混雑時にこれが連発すると、調剤業務がパンクすることで有名な一包化。
つくるのは大変ですが、患者さんにとっては飲みやすいのでしょうね。
朝は朝、夕は夕…とまとめてパックすることであら不思議、とても簡単に服用できるわけです(調剤は簡単ではありませんが)。
さて、今回は一包化に関する論文を紹介します。
対象となる薬剤はワルファリン(ワーファリン®)です。
ワルファリンは凝固因子の合成の手助けをするビタミンKの働きをブロックすることで血栓を防ぐ作用があります。
至適用量には個人差があり、血液検査でPT-INRをモニタリングしながら、至適用量に調整するのですが、併用薬剤との相互作用や食事(ビタミンKの摂取量)によっても変動するので、定期的に検査をうけてPT-INRをモニタリングします。
PT-INRが治療域内にある期間の割合をTTR(time in therapeutic range)といいます。心房細動のガイドラインでは、TTRを60%以上に保つようにと記載されています1)。
TTRを高く保つためには、飲み忘れや飲み間違いのないようにすることも大事です。そこで、一包化調剤を行うことにより、ワルファリン服用者のTTRが改善するのかを検討したランダム化比較試験が実施されました2)。
1) 心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)
2)Effect of multidose drug dispensing on the time in therapeutic range in patients using vitamin-K antagonists: A randomized controlled trial. - PubMed - NCBI
J Thromb Haemost. 2019 Aug 30. PMID:31469508
論文にはビタミンK拮抗薬(VKA)と記載されていますが、主にワルファリンのことだと捉えてよいと思います。TTRが65%未満のVKA服用者を対象です(※①)。服薬介助の在宅ケアを受けている患者さんは除外されました。
介入内容はmultidose drug dispensing (MDD)です。日本でいうところの一包化ですね。
主要評価項目はTTRです。
TTRはいわゆる代用のアウトカムですが、TTRが高い方が血栓の発生や死亡が少ないというデータもありますので、TTRを高く維持することは大事だと思います3)
3)Time in Therapeutic Range and Disease Outcomes in Elderly Japanese Patients With Nonvalvular Atrial Fibrillation. - PubMed - NCBI
Circ J. 2018 Sep 25;82(10):2510-2517. PMID:30158401
さて、結果はというとTTRが有意に改善しました。
(※①除外基準にはこのように記載されているが、ベースライン時にTTRが65%以上だった患者さんも試験に含まれており(介入群28人、対照群29人)、これらを除外した解析(Per-protocol解析)では、79.4% vs 69.9%ということで群間差が開いている)
ただ、ちょっと気になったのは、ベースライン時のTTR(試験参加直近の6ヶ月間のTTR)が、介入群(88人)の平均値が60.8%、対照群(91人)の平均値が55.9%となっており、介入群のほうがベースラインが高い傾向にあります。ベースライン時の群間差よりも、試験実施後の群間差のほうが大きいので介入の効果があったと言えるのかもしれませんが、それほど劇的な変化とは言えないような気もしますね。
対照群も70%を超えており、試験参加前と比べて大きく改善しています。もしかしたら、「臨床試験に参加する」という介入により、服薬意識が高まったのかもしれません。
ワルファリンのコントロールが悪い患者さんで服薬コンプライアンスが悪いのであれば一包化調剤によりコントロールが改善するかもしれませんが、患者さんへの意識づけも大事だと思いますので(対照群もTTRが改善している)、「一包化したよ~、ハイ、介入終わり」では、結局、TTRが改善しないかもしれませんね。適切な抗凝固作用を得るためには、きちんと用法どおり服用することが大事だということを理解してもらうことも重要だと思います。
※詳細は原著論文をご確認ください。
全文フリーで読めます。より詳細なTTRの分布の前後比較(Fig2)も載っています。TTR90~100%の人たちがこんなにも増えているとは(とくに介入群)!ぜひともご自身の目でご確認を!