pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。

果物を摂取しても血糖値は上がりにくいというのはホント?

本を読んでいたら、こんなことが書かれていました。


果物の果糖を抽出して摂取すれば血糖値は上昇するが、
果物そのものを食べても血糖値をそれほど上昇しない


なにィィィ!!??そ、そうだったんだ…。たしかにそんな話も聞いたことがあるような気がして、インターネットで検索してみると、似たようなことを主張してらっしゃる方もちらほら。

まあ、ありがたいことに自分が読んでいた本には引用文献がついていました!やったぜ!
(そもそも引用文献がついてない本は買わない)

引用されていたRCTはこちら

Effect of fruit restriction on glycemic control in patients with type 2 diabetes--a randomized trial. - PubMed - NCBI
Nutr J. 2013 Mar 5;12:29.PMID:23497350

さっそくRCTシートに。

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ご覧のとおり、比較的年配で肥満の新規糖尿病患者さんが対象です。
食事介入なので、盲検化はできず、オープンラベルとなっています。

介入方法は図解のとおり。
両群、制限されたとおり、果物摂取量が増減してます。

HbA1cはベースラインが若干ずれてるので、HbA1cの低下率はやや高フルーツ群のほうが大きいですが、有意差はないとのこと。(difference 0.19%, CI 95%; -0.23 to 0.62)

小規模RCTのせいか、ベースライン時の経口糖尿病薬服用者の割合が高フルーツ群のほうが高いという問題があり、それを調整した結果も載っています。調整HbA1cの差は、(difference 0.06%, CI 95%; -0.38 to 0.49)

体重やウエストは両グループともにやや減少。その程度は同じくらい。

さて、この研究結果を基に、果物は血糖値を上げにくいと判断していいのか?という問題です。

個人的には、この研究からはそれは断言できないのでは?という気がします。

その理由は、この研究では被験者の果物摂取量は調べていますが、総カロリー摂取量は測定していません。論文の著者も言及していますが、果物はあくまで食事のなかの一部であるため、果物摂取量が増減すると他の食事が変化している可能性があります。測定していないものの総カロリー全体としては同じくらいになったのではないかと著者は推察しています。

図解シートにも書きましたが、この研究の介入の違いは、

フルーツを多く!と指示
フルーツを少なく!と指示

です。
果物に関するアドバイスの内容を変更しただけで他の食事は自由です(注;といっても肥満患者に対しては、両グループともに総カロリーを制限するよう指示されていますが)。
他の食事は変更せずに、プラスで果物を多く摂っていいぜ!という介入ではないのです。

この研究の著者の結論は、「果物制限は血糖値、体重やウエストを改善しないので、果物の有益な効果を考慮して、2型糖尿病患者に果物を制限しないことを推奨する」となっていますが、果物だけに言及して、制限するように指示しても、他の食事で相殺されるので、必ずしも血糖値が改善するとは限らないということだと思いました。果物を制限するかわりに、ショートケーキとか甘いお菓子を食べてたりして…。

「糖尿病なんだけど、果物なら血糖値あがらないみたいなので、食べ放題だぜ、ウェーイ!」
となってしまうとちょっとまずい気がします。
フルーツジュースなどの加工されたものよりは食物繊維などが含まれている果物そのもののほうがいいみたいですが、やはり食べすぎは禁物なんじゃないかなぁ…と。

あとこの研究は3ヶ月ですが、半年、1年…と期限を延ばしたらどうなるんでしょうね。おそらくこの研究参加者は糖尿病と診断されたばかりで、こういった研究参加に同意するくらいですから、食事療法がんばるぞー!って人たちなんじゃないかな。総カロリーの制限をしっかり守ったんじゃないでしょうか。これが長期間になるとどうなっていくのか…、微妙に差がついてきたりして…。

あとはこの論文のFig2ですね。
すでにHbA1cはコントロールできている方が大半。ベースラインで7%を超えているのが各グループで4~5人です。9%越えもいます。高フルーツ群で3名、低フルーツ群で1名。みんな研究終了時にはガクンとさがっていますが、これはさすがに糖尿病薬による効果でしょう。HbA1cの変化を平均値でとると、このような大きな変化をもたらした被験者のデータに引っ張られる気がします。
このようなHbA1cがズバ抜けて高い人は除外したほうがよかったのでは?という気もしますね。薬の服用である程度、維持期に入っている患者さんだけにしたほうが良かったのではないかと。まあ、これは個人の見解ですが。

試験期間中の糖尿病薬の制限はしていないので、各グループの糖尿病薬の増量や追加についての比較も見てみたかったですね。パッと見、載ってないような…(HbA1cの差で調整したのはベースライン時の服薬)

ちなみに、身体活動性は両グループにおいてほとんど群間差はなかったようです。


さて、こんな書き方をすると、「やっぱり果物は食べちゃダメなのか…ううぅ」となってしまうかもしれませんが、この研究から、総カロリーをきちんと制限しておけば、フルーツは無理に制限しなくても良さそうだ。とも言えます。糖尿病治療中の方は主治医の指示に従いながら、極端な食事制限に苦しむことのないよう楽しい食生活を送って欲しいものですね。
そういう観点から、この研究は示唆に富む研究でした。○○はダメ!と制限しても、かわりに別のものを食べちゃいますからね…。

現在、ダイエット中の自分としては、身にしみる思いです(以前このブログで痩せる!と宣言したことがありますが、その後あっさり断念してお腹がヤバいことになりました…)
結局、続けられないならダメだと思って、今回は無理な制限はしてません。焼き鳥は食べますし、焼肉にも行ってます。量は減らしてますけどね。宅飲みやお菓子はほぼ断ち切ったので、それだけでよしとしましょう。全体的に制限はしているので、じわじわとお腹のヤバさが改善してきておりますよ。じわじわと…ですが。


さて、最後にご紹介しておきます。今回、自分が読んだ本はこちらです。

津川先生のこの本、話題になりましたよね(白熱してたのは白米の件ですが…)。SNSでのマーケティングも見事でした。本の感想や疑問点に関するみんなのツイートに、著者の津川先生がじきじきにリプを飛ばすというのも話題性を生むのに効果的だったでしょうね。

この本はエビデンスベースドな食事本(巻末に膨大な引用文献…)なのですが、なんと医学書ではなく一般向けの本となっています。エビデンスの階層(ガイドラインなどでよくお見かけするピラミッドのやつ)なんかも載っており、一般の方にもエビデンスという言葉が身近になっていくのかもしれないと思わせる内容でしたね。
まだ読み終わってないのですが、巻末には正しいネット情報の入手方法なんかも書かれていました。
一般向けの健康本というと、もうめちゃくちゃという印象でしかなかったのですが、このような本が出てくるとどうなるんでしょうね。出版社側も心を入れ替えるんでしょうか?


さて、今回自分はこの膨大な引用文献のなかから、たった一つ読んでみただけですので、私が今回書いたことはちょっと浅いかもしれません(ちょっとどころではない!?)。このRCTについての意見も単なるひとつの解釈に過ぎません。何が正しいとか何が間違っているという話ではありません。論文の解釈は多種多様だったりしますしね。
ただ、本やネット情報を読んでいて「おや?ほんとに?」と思ったら自分で原著論文を読んでみるというのは医療者としては大事だと思っています。そのあたりについては、臨床批評VOL.2 - No.2(※)にミニ丸名義で書かせて頂いておりますのでよろしければぜひ。


臨床批評 - aheadmap ページ!


一般向けに情報を広めていくのは、ほんとに悩ましくて、伝言ゲームのように話が歪曲し、いつのまにか「果物は血糖値に一切影響しない」なんていう誤った極論にすり替わっていく可能性もあるので怖いですよね。都合のいいように情報を受け止めたりする人もいますから。この懸念がとても大きい気がします。

かといって、煮え切らない主張(エビデンスってもやもやしがちですよね)は一般には受け入れられにくい気がするので、ある程度は、ビシバシと明確な言いまわしも求められる気がします。

情報発信って難しいよなぁということを再認識したところで今回は終わりにしたいと思います。
なにはともあれ、一般向けにこのようなエビデンスベースな健康本が出てきたのは喜ばしいことだと思います。
そもそも、本を紹介しといてなんですが、まだ読み終わっていないので読み進めなくては…!自分の食生活はめっちゃ不健康な気がするので、食事に関するエビデンスプリーズ!!(ただし、美味しいものに限る←これ重要)