pharmacist's record

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細菌性副鼻腔炎に高用量のアモキシシリン/クラブラン酸は有効?

鼻の調子が悪くて受診した同僚が副鼻腔炎と診断されました。

そんなわけで、副鼻腔炎ネタを。

細菌性副鼻腔炎とウイルス性上気道炎の見分け方は? - pharmacist's record
だいぶ前に、こんな記事を書いていたようです。

LRではなく感度・特異度のほうに色強調しているあたり昔の自分が書いた記事だという感じですね。
LRのほうが重要な気がする。。。

LRはlikelihood ratioの略で、ざっくり言うと、
・LR+が高ければ診断につかえる(rule in)
・LR-が低ければ疾患の除外につかえる(rule out)

どのくらいの数値なら有用か?
・LR+10以上、LR-0.1以下で有用[1]

ということですが、実際身体所見などの問診で得られるデータではこんな高い/低いのはないんじゃないかって気もします。

LR+2以上、LR-0.5以下程度なら参考にできるって感じでしょうか
上記の値で、その疾患の可能性が15%程度増減するようです[2]

[1]EJIFCC. 2009 Jan 20;19(4):203-11 PMID:27683318
[2]J Gen Intern Med. 2002 Aug; 17(8): 647–650. PMC1495095
(なんとなく引用してみたら、[2]の著者ってもしや…あの身体診察のマクギー先生!?)


さて、このあたりをふまえて、過去記事を見ていただくと、副鼻腔炎っぽい/副鼻腔炎っぽくない臨床像がなんとなく見えるかもしれません。

double sickening(二峰性)かどうかは参考になりそうですね。
一般的な臨床的印象(General clinical impression)が一番数値がよかったりして、おいおいそりゃないぜって感じですが、まあそりゃそうだよな、という気もします。
この症状ひとつで判断できるというよりは、いろんな徴候があわさって、副鼻腔炎っぽいかどうかを判断なさっているんでしょうね。

過去記事によると、2012年の米国のガイドラインでエンピリック治療がAMPC(アモキシシリン)からAMPC/CVA(クラブラン酸)にかわったということなんですが、まったく記憶にないのでいまいちど調べてみると、IDSAのガイドライン[3]のことみたいですね。フルテキスト閲覧可能で、初期治療INITIAL TREATMENTの項目Ⅲ,Ⅳにそれっぽいことが記載されていました。

細菌性かどうかの同定についても記述があります
i. Onset with persistent symptoms or signs compatible with acute rhinosinusitis, lasting for ≥10 days without any evidence of clinical improvement (strong, low-moderate);

ii. Onset with severe symptoms or signs of high fever (≥39°C [102°F]) and purulent nasal discharge or facial pain lasting for at least 3–4 consecutive days at the beginning of illness (strong, low-moderate); or

iii. Onset with worsening symptoms or signs characterized by the new onset of fever, headache, or increase in nasal discharge following a typical viral upper respiratory infection (URI) that lasted 5–6 days and were initially improving (“double-sickening”) (strong, low-moderate).

ⅲがいわゆる「風邪が治ったと思ったら、ぶりかえして、副鼻腔炎になった」というやつですね。


さて、エンピリックな初期治療にクラブラン酸をかぶせたほうがいいんですかねぇ。
ISDAのは2012年と古いので、最新のガイドラインが見たいところ。

ここはひとつ、日本が誇るあの手引き[4]を見てみましょう

急性鼻副鼻腔炎の項目を見てみると、
成人では、
軽症なら抗菌薬は使用しないことを推奨
中等症~重症でアモキシシリン5~7日間内服
となっています。
(小児でも1stラインはアモキシシリン)

手引きの中に、「ACP/CDC の指針では、急性鼻副鼻腔炎に対する抗菌薬の適応は、症状が10日間を超える場合や重症例の場合(39℃以上の発熱がある場合、膿性鼻汁や顔面痛が3 日間以上続く場合)、典型的なウイルス性疾患で症状が5 日間以上続き、一度軽快してから悪化した場合に限定されている」との記述がありますが、この基準がISDAのやつですかね。
指標をはっきりと示してくれていてわかりやすいですね。

手引きを読み進めると、どうやら海外も原則はアモキシシリン単剤っぽいですね。。
やっぱいきなりクラブラン酸をかぶせる必要はないのかなぁ…??
まあ、今回の本題は「クラブラン酸を初期からかませるのかどうか」ではないので、それについては保留としましょう。


[3]Clin Infect Dis. 2012 Apr;54(8):e72-e112.PMID:22438350
[4]抗微生物薬適正使用の手引き 第一版(2017年6月1日)
薬剤耐性(AMR)対策について |厚生労働省



はい、イントロダクションが長くなってしまいました。

今回のテーマはアモキシシリンを大量にぶちこめばめっちゃ効くのかどうか? です。

High-dose versus standard-dose amoxicillin/clavulanate for clinically-diagnosed acute bacterial sinusitis: A randomized clinical trial. - PubMed - NCBI
PLoS One. 2018 May 8;13(5):e0196734. PMID:29738561

今年の5月です。
イムリーですよね。

さっそく一枚にまとめてみます。

f:id:ph_minimal:20180522224021j:plain


では、補足します。

なんか、複雑ですね。
どうやら治験製剤が途中で入手できなくなってしまい、高用量の介入内容がちょっと異なる内容となってしまった模様。2期にわかれていてわかりにくいですね。

ちなみに、この"臨床的に診断された急性細菌性副鼻腔炎"(clinically-diagnosed acute bacterial sinusitis)とはどの基準で診断したのかというのが、前述のISDAガイドライン2012です。
defined by the 2012 IDSA clinical guidelines [2]: 1) persistent symptoms and not improving (lasting for ≥ 10 days); 2) severe symptoms or signs of fever ≥ 102 degrees F and nasal discharge or facial pain (lasting for ≥ 3–4 days); or 3) worsening symptoms or signs characterized by new onset of fever, headache, or increase in nasal discharge following a typical viral URI that lasted 5–6 days and was initially improving (double sickening).
1)典型的な症状が10日以上
2)39℃以上や鼻汁、顔面痛などが3~4日以上持続
3)5~6日続いた風邪が治ったあとに、発熱、頭痛、鼻汁増加(double sickening;二峰性)


評価項目もちょっとわかりにくいでしょうか?
①Improvement was assessed in 2 ways: by a global rating of sinus symptom improvement on a 6-point scale of 1 = a lot worse, 2 = a little worse, 3 = the same, 4 = a little better, 5 = a lot better, and 6 = no symptoms
全体的な改善度を6段階にわけて、1点が最悪、6点が症状無しとし、良い方の5点、6点を示した患者の割合をさしています。
全体的に、4割くらいが治療3日目にして概ね症状が改善していたということです。
2期の高用量が割合が高い結果となっていますが(この点だけを比較すると統計的に有意差あり)、2期では1期よりAMPCの用量が少なく、かつ即放錠だったんですよね。アモキシシリンはPK/PDでいうと、濃度依存ではなく、時間依存。1期の高用量のほうが結果がよくなりそうな気がするのですが、このような結果となっています。

②SNOTの16項目は原著Table1をご覧ください。
16種類の症状を0~3点の4段階で評価し、その総計を16で割った平均値として算出してます。
ややこしいことに、こちらは数値が低いほうが症状がなくなっているということなので、治療3日目で0.8~1点くらいという結果。こちらは常用量のほうがむしろやや数値が低めにも見えます。


あとは、1枚シートにはスペースの都合上載せませんでしたが、有害事象も大事ですよね!
ていうか、こっちのほうが重要かも!?

有意差はついてないようですが、高用量のほうが下痢が多いことがこのTableから一目瞭然だと思います。
PubMed Central, Table 5: PLoS One. 2018; 13(5): e0196734. Published online 2018 May 8. doi: 10.1371/journal.pone.0196734


うーむ。。。
パッと見、アモキシシリンを高用量で使う必要はなさそうな印象ですね。
ただ、日本の常用量は悲しいかなアモキシシリン250mg製剤で、1日3カプセルで750mg/日なので…(クラブラン酸配合錠も1回量250mg)。少ないですよねぇ…。海外の常用量とされる、この試験での標準量1750mg/日の半分以下です。
個人的には国内の常用量が妥当なのかを見極めるため「日本の常用量vs海外の常用量」を検討した結果が見てみたいところですね。750mg/日が少ないのはあきらかなので倫理的にそんな試験はできなかったりするのでしょうか?


さて、わかりやすく一枚にと言いながら、今回いろいろごちゃごちゃ書いてしまいました。
デザインが複雑だったのが良くなかったですね。なんだよ、1期,2期って…。

(あまりきちんと吟味できてない部分もありますので、詳細が知りたい方は原著をご確認ください。)