pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。

製薬メーカーのパンフレットを新人さんと一緒に読んだ話(話題のゾフルーザ)/ そして発売へ

土曜日なのになんでおれは職場にいるんだろうと物思いに耽っていたら(物思いに耽れるほど暇だった)、応援にきた新人さんが話題の薬「ゾフルーザ®(バロキサビル)」のパンフレットを読んでいました。

というわけで表題のとおり、パンフレットを肴に雑談です
(もはや何をしゃべったのかうろ覚えなので、ところどころ再構築してます)

パンフレット4ページの試験デザインの話になりました。
(パンフレットをお持ちでない方はこれをhttps://www.shionogi.co.jp/med/p_xofluza/clinical_results/design_adult/index.html

そこで私が質問
「ITT解析ってなんだっけ?」

言ったとおり解析だから…
脱落した人も含む。
ぜんぶ含める解析

「じゃあ、ランダム化割付1,436例で、ITTI解析対象集団ってのは1,064例に減ってるけどなんで?」

いきなりそんなこと言われても戸惑いますね。
まあ、パンフレットに書いてあるので、「書いてあるよ」と。

ITTIとはintention-to-treat infected(治験薬を投与され、かつRT-PCRの結果に基づきインフルエンザウイルス感染が確認された被験者からなる集団)と小さく書いてありました。
ほぉ、これはランダム割付してプラセボ、バロキサビル、オセルタミビルの3群に分けたんだけど、PCRでインフルエンザ感染が確認された集団を解析したということなのでしょうか。へぇ~。

『この試験の患者さんの組み入れ基準は何なんでしょう?』と聞かれ、
「ふーむ。あんま詳しく書いてないっぽいね。じゃあプロトコル見てみる?」
と、私。
ネットつながってるPCでこちらを引っ張り出しました。

A Study of S-033188 (Baloxavir Marboxil) Compared With Placebo or Oseltamivir in Otherwise Healthy Patients With Influenza - Full Text View - ClinicalTrials.gov
NCT02954354

Inclusion Criteriaを見てみる

12~64歳の男女。これはパンフレットにも書いてあります。

インフルエンザってどうやって診断し、この試験に組み入れたのかをチェック
”以下のすべてに合致し、インフルエンザ感染と診断された患者”と書いてあって、
1.腋窩で38度以上(解熱薬を飲んだのであれば服用4時間たってから測定)
2.インフルエンザ関連全身症状(頭痛、悪寒、筋肉痛・関節痛、倦怠感)のうち少なくとも1つは中等度以上の重症度
3.インフルエンザ感染呼吸器症状(咳、咽頭痛、鼻づまり)のうち少なくとも1つは中等度以上の重症度

あとは"発症から48時間以内"といった基準が書いてあります

「おや…、簡易検査陽性ってのは基準に入ってないね。症状だけでスクリーニングして試験登録したのかなぁ…。」
たちまち、なんで?と疑問が生じ、新人の前で不安になる私。
さぞかし頼りなかったことでしょう。

「症状だけでスクリーニングして、1400名くらい登録して、PCRで陽性が1000名くらいって凄いね。そんなうまくひっかけられるもんなのかな」
と、私は不思議に思いました。
これ、わかる方いらっしゃいますか?症状だけで組み入れたんですかねぇ。

(ちなみに、ブログ書きながら引っ掛けた別の国内試験の組み入れ基準なんかをみると、症状だけでなく簡易検査やってますね。
https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000034097


なんてことを私がウダウダぼやいていたら、
『ITTI解析集団のベースラインはどうだったんでしょう?』
お、なかなか良い指摘。

「そう、それな。ランダム化で各群の背景はそろっても、PCR陽性のみ抽出したら、ズレそうだよね。まあ、結果にどれだけ影響するかはなんともわからないけど。」

「そもそも、これって、プライマリアウトカムはなんだっけ?プロトコルに、PCR陽性例のみを比較するって書いてあるんだっけ?」
と、私。
ふたたび、Clinical.govへ。

プライマリアウトカムは症状持続期間、としか書いてない。ずらずら書いてあるのは、症状の定義。

このあたりちょっともやもやするけど、プライマリアウトカムの結果をパンフレットにて確認。
(さきほどのメーカーサイトからも確認できます)

プラセボに勝ち、
オセルタミビルとほぼ同等

うわさの、ウイルスの量は?
プラセボだけでなくオセルタミビルよりも減少させているというグラフが。

「ここのn数はITTI解析集団の例数よりもちょっと少ないね。試験デザインのところにちっちゃく書いてあった未完了例が減ってるのかな。治療完了しなかったからウイルス量を測らなかったのかなぁ。だったら"ITT"っていう表記は紛らわしいね」
と、どうでもよさそうなことをぼやく私。

「まあでも、この6ページのグラフ、縦軸の単位がLogなんとかとか書いてあってよくわからないね。7ページのがわかりやすいか。バロキサビルは24時間で、ウイルス排出患者がゼロになる割合が半分ってのはなかなかインパクトあるね」

そして、自分が前から気になっていたこと。
「インフルエンザ発症5日間は休み!とかいうあの決まりが崩れて、もっとはやく社会復帰できます!みたいになったら嫌だね…」
と、働きたくないオーラを新人さんの前で全開にする私。


10ページには平熱に回復するまでの時間が。
これもやはりプラセボには勝ったが、オセルタミビルとはほぼグラフが重なる。

12ページに有害事象
パッと見、少ない印象。
「異常行動はなかったのかなぁ」
とぼやいた私ですが、今になってよく考えたら小児は少なそうだし、報告があがってなくても不思議ではありませんね。

小児もあわせた有害事象のデータは17ページ。
ちなみに、小児の試験は単一アームで、比較対照は設定なし。
「100名程度に投与して、安全性と忍容性を見たってことらしいけど、比較対照がないってどうなんだろうね。がっつり小児適応も通ってるけど…」


つづいて18ページ
薬物動態のグラフ。
空腹時投与のほうが、食後投与よりも、Cmax、AUCともに1.5~2倍くらいの差。
これをみて、びっくりした二人は、添付文書確認するものの、用法は単回投与としか書いていない。食後に投与してはいけないとは書いていない
「診断ついて、薬をもらったときに食事から間もない状態だったとしても、一刻もはやく薬を服用したほうがいいってことかなぁ…。まあタイミング的に、薬局にくるころには胃に食べ物は残ってなさそうだけど。」


そんな感じでザーッとパンフレットを見ていきました。
「まあ、ぶっちゃけ、薬局は楽だよね。吸入指導大変だし、そもそも咳でゴホゴホいってるのに吸入とかつらいよね」
『イナビル®、透明になって、けっこう吸い残しあるのがわかりましたよね。吸入ってけっこう難しいのかも。』
「まあ、自分だったらオセルタミビルでいいかな。あ、そもそも別に抗ウイルス薬いらないかなぁ。微熱程度で辛くなければ…。でも高熱でヒイヒイいってたら、助けてぇって抗ウイルス薬を頼むかもしれない」


「あ、そういや合併症はどうだったんだろう。プロトコルにセカンダリアウトカムが19個もずらりとかいてあるんだけど、インフルエンザ合併症もセカンダリとして記載されてるね。たぶん、差がなかったんだろうね。プラセボとも差がなかったのかもしれない。合併症に差がついたなら、パンフレットに載せているはず。まあ、健康な人たちを対象とした試験なので、絶対リスクが小さいから差はつかないだろうけどね」


そしてちょっと話がそれて、アビガン®(ファビピラビル)の話になりました。
エボラのときに話題になりましたが、あれもたしか抗インフルエンザ薬だったような…。
新人さんによると『アビガンもゾフルーザと同じ作用機序だとメーカーさんから聞きました』と。

「となると、なぜファビピラビルが市場に出てないのか気になるね」と私。
『たしかに、なんで売られていないのか気になりますね』
「ヘンな副作用が出て中止とかだったら、同じ作用機序なのでちょっといやだなぁ」
とても気になる…。

と、そのあたりで、患者さんがぞろぞろと来局
「うわぁ、粉だ!粉まみれだ!うわあーーー」
と、調剤調剤調剤

そして、ひとときのプチ・パンフレット抄読会は中断し、フェイドアウト

その後、また暇になってきて、予定時間に閉局。
めでたく定時あがり!


結局、アビガンは動物実験で催奇形性が確認されてたみたいですね。
こんな通知が平成26年に。
http://www.chemotherapy.or.jp/notice/165.pdf
このあとですかね?エボラでふたたびこの薬が浮上するのは。

さて、こんな感じで、いきなり論文を読もうっていうんじゃなく、パンフレットを読もうってのはいいなぁと思いました。
バロキサビルは論文が出てないので、論文との付け合せはできませんでしたが、パンフレットに書いてあることをPubmedでチェックしていくってのはおもしろいかも。


そういやPMCのほうだと
Cap-dependent Endonuclease Inhibitor S-033188 for the Treatment of Influenza: Results from a Phase 3, Randomized, Double-Blind, Placebo- and Active-Controlled Study in Otherwise Healthy Adolescents and Adults with Seasonal Influenza
こんなのは引っかかります。
パンフレット以上のことは書いてないので、あくまで参考程度に。
でも、これなんでPubmedには載ってないんでしょうね。よくわかりませんが。


最後にゾフルーザについてとりあげたブログをご紹介して終わりにします。

ゾフルーザってすごい薬なんですか?
おなじみ、るるーしゅ先生!

新薬雑感:ゾフルーザ錠 | ぼうそう医薬情報室
雑感とかいうレベルじゃないですね。とてもくわしくまとまっております。
どうやって勉強すればいいかわからないっていう方々は、薬をこんな感じでまとめていけばいいのではないかと思いました。


追記 H30.3.16
あーだこーだ言ってるうちに発売されましたね。
薬価収載が3月14日で、発売はいつになるんだろう…とMRさんもギリギリまではっきりわかってなかったようですが、フタをあけたら14日にもう納品可能となっていたという…。

SNSでもかなり話題になっていて、
一言で言うと、

フルボッコにされてます。

逆にちょっと援護したくなるという、あまのじゃくバイアスが発動しました。

この記事で書いたとおり、別に自分の意見は変わってなくて、「自分が患者だったら積極的に使いたいとは思わない」し、「外来加療の患者さんに積極的にすすめたいとも思わない」です。
でも、薬局内で吸入させる某吸入剤よりは、こっちのほうが薬局は楽だなぁ…薬剤師の感染リスクも減るかもなぁ…

フルボッコにしてる方々と根本的には考え方に違いはないのですが、さすがにボコられすぎでは?という気も…。

批判しまくるのは別にいいんですが、じゃあこれを承認した人たちはどうすればよかったの?
と思うのですが、そこをきちんと意見している人はあまりいないですね。

①承認せずに闇に葬れば良かった。この程度の結果(罹病期間がオセルタミビルと同等で、ウイルス排泄は短縮)で承認するなんて許せん!
②承認を急ぎすぎ。インフルエンザ流行期終了間際に滑り込み承認、ではなく、来シーズンを目処に検討すれば良い。できれば、CAPSTONE 2https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02949011の結果を待ちたい!


ズラーッと並べようかと思いましたが、2択しか思い浮かびませんでした…。

自分は②ですね。

でも、①の人もいらっしゃるんじゃないですか?
たしかに、既存薬と比べて優れているのは、現在開示された情報では、健常人においてオセルタミビルよりウイルス排泄期間を短縮したっていう代用のアウトカムの改善だけです。

そんなの許せん!という気もわからなくはないですが、薬を開発する仕事をしている人たちのことを考えると、医療従事者全員が①みたいな考え方だったら、「もう薬の開発なんてリスク高すぎるからやんねぇよ!」て思ったりして…。開発にはお金かかりますからねぇ…
(注;だからといって承認を甘くしろ、とか、既存薬と似たような新薬をたくさん使って製薬メーカーを儲けさせてあげようってわけではないですよ、念のため。)


今回のポイントは
世界初の新しい作用機序ということ(アビガンは市場に出てないので置いといて)
よって未知の副作用がありえる(←これが懸念事項!)
真のアウトカムは既存薬と同じ(ただし健常人が対象)
ハイリスク患者ではどうか!?ウイルスの増殖をすみやかに抑えることで、ハイリスク患者では真のアウトカムも改善となるかもしれないし、逆に有害事象の増加もありえる。

と思っています。
なのでやっぱり前述のもう1個の試験結果がでるまで待ちたいというのが自分の意見。

NCT02954354の試験結果がまるっきりダメとは思ってないです。

オセルタミビルのコクランレビューがありましたよね?合併症軽減なんてもたらさない!っていう…。でも、あれは健常者ばっかりで、ハイリスク患者においてはやはり投与したほうが合併症リスクを減らすであろうっていうことでほぼコンセンサスが得られていると思います。

ウイルス量という代用のアウトカムの重要性を語るには、私には感染症の知識がなさすぎるので、なんともいえないですが、
真のアウトカム改善→ウェーイ!
代用のアウトカム改善→うるせぇボケッ!
みたいな極端な感じになってないですよね?
代用のアウトカムにもいろいろあります。「あ、そう…。で?」て言いたくなるような代用のアウトカムもありますが、ウイルス量って無視はできないアウトカムだと思うんですけど、どうなんですかね…?
症状や合併症への影響は小さくなったり、あるいはまったく影響ない…というオチもあるかもしれませんが、仮に安全性がまったく同等で、真のアウトカム改善も同程度だったなら(あと薬価もね)、ウイルス量を改善する薬を飲みたいと自分だったら思います(注;感染症素人の意見)。


あと、日本開発の新薬ってことなので使用実績が少ないっていう件ですが、
現時点では報告にあがってる中で、バロキサビル服用人数は700名くらいですかね。

感覚として、たしかに少ないなあって印象はあります。
なにがおこるかわからんなぁというおぼろげな感覚。

具体的には…、
またまたるるーちゅ先生
ph-lelouch.com
これが参考になります。

では、質問
日本初の新規作用機序の薬を承認するにあたり、市場に出す前に、何例の実績が必要だとお考えなのでしょうか?

かつて、日本初の薬もあったと思いますが、市場に出る前に何例に使用されたのでしょう?

もちろん、どんな疾患を対象とする薬かによって、まったく変わってくると思います。まれな疾患だったら、そんな症例数集められないですからね。

症例数が少ないと問題提起している方(私もですが…)は、
インフルエンザという自然軽快が見込まれる予後良好のメジャーな病気(といっても死に至る場合もあるので油断はできん!)に対して使う新薬にしては、今回の承認は実績が少なすぎるのでしょうか?

じゃあ、インフルエンザ治療薬は何例必要って聞かれると、悩んでしまいます。
CAPSTONE 2の登録は2157 participantsとのこと。3群比較なので、700例くらいですかね。
既存のとあわせれば1500例くらい。
これくらい揃えば世に出す上で十分といえるような気もしますが…。うーん、よくわからない。


さーて、これからどうなっていくんでしょうね
とりあえず最初のやつを論文化してほしいですね。
論文化されてないことについて問題視している方も多いですし
ま、自分もそうなんですが、これは、ただ単に、論文を読みたいというイチ医療者の意見です。

PMDAがじっくり吟味しているでしょうから、さほど大きな問題ってわけではないような気もしますが、論文化されてないからありえない、みたいな考えの方もいますかね。査読者によるチェックと、論文を読む医療従事者によるチェックってPMDAよりも凄いのでしょうか…?
もしかしたらPMDAのなかの人、おれたちを舐めんなよって怒ってるかもしれませんね。
まあでもとりあえず読みたいものは読みたいので、はやく論文化してくださいー。
(読む読む詐欺で結局読まないかもしれませんが)


あ、審査報告書も張っておくの忘れた(今回、まとまりがなくてすみません…)
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/GeneralList/6250047F1
http://www.pmda.go.jp/drugs/2018/P20180312001/340018000_23000AMX00434000_A100_1.pdf