pharmacist's record

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モンテルカストで上気道感染症を予防できる? 感染後咳嗽には有効?

ロイコトリエン受容体拮抗薬LTRA(leukotriene receptor antagonist)で上気道感染症を予防できるかどうか検討したRCTがありました。

RCT of montelukast as prophylaxis for upper respiratory tract infections in children. - PubMed - NCBI
Pediatrics. 2012 Feb;129(2):e285-90. PMID:22218843

背景として、
上気道におけるロイコトリエンレベルの上昇が、上気道感染症upper respiratory tract infection (URI) を引き起こすウイルスの感染と関連がある。
ということで、気管支喘息アレルギー性鼻炎に効果があるとされるモンテルカストの予防的投与が有効かどうか検討しています。
(ちなみに国内は、モンテルカストの小児適応は気管支喘息のみ。類薬のプランルカストはアレルギー性鼻炎にも適応あり)

研究デザイン:DB-RCT
施設:3つのイスラエルの小児外来
P:1~5歳の健康な小児(reactive airway disease反応性気道疾患は除外)
E:モンテルカスト4mg
C:プラセボ
O:number of URI episodes
介入期間:12週

患者はURI症状を記録。
治験コーディネーターは週に1回両親に電話連絡。急性呼吸器症状がないか確認。

モンテルカスト153名中131名
プラセボ147名中129名
が試験終了(他は脱落?治療中断なのかLostなのかアブストには記載なし。ITTかどうかも不明)

<結果>
URIが報告数
モンテルカスト治療群:30.4%
プラセボ群:30.7%


というわけで予防効果なし。
これは検出力不足というより、効果がないという印象です。
脱落率に差はなさそうですし、結果がくつがえることもないかなと。

気道過敏のない、至って健康な幼児を対象としているので、そりゃそうだろうなって感じです。


では、風邪ひいて咳がしつこいわ~って場合にモンテルカストは有効か?


Montelukast for postinfectious cough in adults: a double-blind randomised placebo-controlled trial. - PubMed - NCBI
Lancet Respir Med. 2014 Jan;2(1):35-43.PMID:24461900
背景
感染後咳嗽はプライマリケアにおいてはコモンだが、有効な治療法はあきらかではない。
システイニルロイコトリエンCysteinyl leukotrienesは感染後咳嗽や百日咳の病因として関与している。
ということで、モンテルカストの有効性を調べてみたと。
こちらは成人対象

研究デザイン:DB-RCT
実施施設:イギリスの25施設(一般診療)
P:2~8週間続いている感染後咳嗽のある16~49歳の非喫煙者
E:モンテルカスト10mg
C:プラセボ
O:changes in total score between baseline and two follow-up stages (2 weeks and 4 weeks).
治療期間:2週間(さらに2週間続けるかどうか、患者が選択)
資金提供:オックスオード大学
(事前レジストリにはこう書いてありますが、本文には、funded by the National Institute for Health Research (NIHR) School for Primary Care Research (SPCR). と。どっちみち製薬メーカー主体ではなさそうです)

アウトカムのスコアとは?
Effectiveness was assessed with the Leicester Cough Questionnaire to measure changes in cough-specific quality of life

LCQについては本文に説明あり
The range of possible LCQ total scores is from 3 to 21, with a higher score indicating a better cough-specific quality of life
3~21点で高いほうが咳特異的QOLが良好。

プライマリはLCQですが、他の評価項目は、以下のとおり
運動後の咳の増悪をLikert scale(1点:頻度高、7点:無し)で。
Diary Cardには咳の重症度(100mmVAS)、咳の発作回数を記録


ところで、LCQって19項目1~7点満点(http://thorax.bmj.com/content/thoraxjnl/58/4/339/F2.large.jpg?width=800&height=600&carousel=1)じゃないんですかね。なぜ3~21点なんだろう…。3項目だけやったということ?

引用元を見ると、
Development of a symptom specific health status measure for patients with chronic cough: Leicester Cough Questionnaire (LCQ). - PubMed - NCBI
Thorax. 2003 Apr;58(4):339-43.PMID:12668799
physical
psychological
social
という3つのドメインが…。19項目の質問が上記のどれかに該当しており…。
ああ、書いてありました。書いてありました。
お恥ずかしい。
なるほど、19項目ぜんぶ聞いて、それを上記3つのドメインに振り分け、合算して項目数で除して平均をとるということですね。
ええい、ややこしい!

では、ひきつづき論文に戻ります。

サンプルサイズ
臨床的意義のある最低限の差であるLCQ1.3の差を検出するために必要なサンプルサイズは検出力80%、α0.05で216名。25%の脱落を見越して288名必要。

追跡率は
Fig1
Lost to follow-upがモンテルカスト137名中22名、プラセボ139名中21名
試験中断は両群それぞれ4~5名というところ。

ITT解析との記載がありますが、ResultのTableにn数が書いてないので、どこまで解析しているのかわからないです(ベースラインのTablehttp://www.thelancet.com/action/showFullTableImage?tableId=tbl1&pii=S2213260013702455は137名・139名となってますが、Table2には記載なし)。

で、結果のTable2ですが、このスコアは高いほうがいいわけですから、ややプラセボのほうが良いということとなり(もちろん偶然の差でしょうけど)、とても有効性が期待できるとは言えない結果となっています。

2週間の100mmVASでの変化(Fig2)をみていくと、プラセボとほぼ同じ推移ですね。視覚的な評価からも、モンテルカストが効いているとは思えません。

有害事象はとくに目立つものはありませんね。
プラセボより多かったり、少なかったりとさまざまですが、偶然の差ではないかという印象。
有害事象を評価するには十分とはいえないサンプルサイズなのでなんともいえません。

個人的にはモンテルカストは比較的忍容性の高い薬という印象を持っています(現職場では大勢の方に使用していますが、副作用の訴えは記憶にないです)
というか、モンテルカストのコモンな副作用ってなんでしょうね。パッと浮かびますか?
自分はわからないので、Pubると、、
Adverse events are rare after single-dose montelukast exposures in children. - PubMed - NCBI
Clin Toxicol (Phila). 2017 Jun 22:1-5.PMID:28639856
5~17歳(中央値7歳)17,069例のデータより、もっともコモンな有害事象は腹痛とのこと。
といっても頻度は0.23%。618名の超高用量50mg以上の使用では1.46%。用量依存的に上昇するなら、因果関係があるのかも。
それにしても50mgってどういうこと??成人量の5倍??
アブストしか見れませんが、ちょっと多く飲みすぎてもそんなに心配なさそうですね。


で、もとの論文に戻って、「考察」から気になる部分をピックアップ

A quarter of participants had laboratory-confirmed pertussis.
百日咳…。おお、そうでしたか。そりゃそうですよね。長引くからにはなんらかの原因がありますよ。

咳喘息にはモンテルカストが有効とするエビデンスがある
Effectiveness of montelukast in the treatment of cough variant asthma. - PubMed - NCBI
Ann Allergy Asthma Immunol. 2004 Sep;93(3):232-6.PMID:15478381
いや…、といってもこれ8名vs6名のDB-RCT…。

ザフィルルカストはカプサイシンに対する咳の感受性を抑制して咳を改善という報告もある模様

咳喘息に対するモンテルカストの鎮咳効果はロイコトリエン阻害の直接作用というよりもむしろ、好酸球の産生や咳反射の感受性の減少によるものと示唆されている。
咳反射感受性と気道過敏性の増加は、感染後の咳で示されているが、これらの患者は、喘息患者および正常な喀痰好酸球数と比較して、血液および鼻内好酸球数が低い。

百日咳は、肺好酸球数の増加と関連しており、ブラジキニンに対する産生が増加し、咳の刺激に対する応答性が増加


ふーむ。
なんか難しいことがいろいろ書いてありますが、結局、プラセボと同等の結果なので、感染後咳嗽にモンテルカストを投与してもあまり恩恵は得られないということが示唆されました。

今一度ベースラインを見てみると、アトピー素因ありが15%程度。
アトピー素因の有無で効果はどうだったか知りたいところですが、全体のn数少ないですし、細かい解析はできないんですかね。

まあなにはともあれ、風邪でやみくもにモンテルカスト投与っていうのは医療費の無駄かもしれませんね。
そもそも保険適応は気管支喘息アレルギー性鼻炎だけですから…(小児は喘息のみ)。