pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。

ピロリ菌除菌中、アルコールを飲んでもよい?

お盆明けって混みますね。もう完全に打ちひしがれました。
年末の激混み祭と比べれば患者さん少なかったのですが、途中から「帰りたい」以外の感情は消え去りましたね。

心がドス黒く染まってしまったので、純粋に臨床疑問を解決したいと思います。

「ピロリ菌の除菌治療中にお酒を飲んでもいいのか?」

結論から言いますが、この件、完全には答えが出てないので、「じゃあ、読むのや~めたっ」という方はソッとこのページを閉じてください。

患者さんから聞かれたことのある方、いらっしゃいますか?
どう思われます?

胃酸抑制薬としてボノプラザンを使ったレジメンでしたが(最近はこれが主流でしょうか)、まあとりあえず除菌治療薬のなかにアルコールの相互作用がある薬がないかかどうかを確認しますよね。
とくにアルコールとの相互作用は認められていない薬であることは各種メーカーさんに確認がとれましたが、問題なのはそこではありません。

除菌治療そのものにアルコールが影響してしまうのか?という点が気になるところです。

某学会のガイドラインで言及されているらしいのですが、有料のガイドラインですし(興味のある方はご購入いただければと)、その根拠となる引用文献はどうやら国内の文献らしく、質の高いRCTなどを根拠としたものではないっぽいなぁという気がしてしまいまして、結局、ふつうに原著を探しました。

除菌って英語でなんだっけ?というところでつまずいたのですが、eradicationというワードを使いました。
あとは、pylori、alcoholでこの3ワードで検索


Relation between alcohol consumption and the success of Helicobacter pylori eradication therapy using omeprazole, clarithromycin and amoxicillin fo... - PubMed - NCBI
Eur J Gastroenterol Hepatol. 2002 Mar;14(3):291-6.

パッと見、
2アームではなく単一アームの試験っぽいです

参加者は156名のピロリ菌陽性の消化性潰瘍or慢性胃炎

除菌レジメンは、
オメプラゾール20mg、クラリスロマイシンCAM500mg、アモキシシリンAMPC1000mgを1日2回 ×1週間

除菌成功は118名(75.6%成功)

アルコール摂取量との関連を調べると、
除菌失敗はアルコール摂取無しのほうが多いという結果
higher probability of failure non-consumers (29.9%) than in consumers (12.2%)
adjusted OR 3.24 (95% CI, 1.12-9.20; P = 0.03)

さらには用量依存性も
Eradication was dose dependent: 70.1% in abstemious patients (n = 107), rising to 79.3% in users of 4-16 g of pure ethanol a day (n = 29) and to 100% in users of 18-60 g daily (n = 20)

うーむ
ちょっとにわかには信じがたい。アルコール摂取してるほうが除菌成功しやすいとはこれいかに。

もちろんRCTじゃないので、アルコールを摂取する人と、摂取しない人の背景は偏っている可能性があり、これで結論が出るわけではありません。

併用薬は一切なしなので、他の薬剤の関与はありません。
年齢、性別、喫煙、病歴の長さなどは有意な関連はなかった模様。

このconsumptionって日ごろの習慣のことを言ってるんでしょうね。アルコール摂取者は除菌治療中も毎日飲んでいたのかな?というところがちょっと気になるところではあります。


個人的には、ピロリ菌の除菌治療は、PPIやボノプラザンを使って、がっつり胃酸分泌を押さえ込んだ状態で抗菌薬をぶちこむことでしっかりと除菌できるという印象を持っていましたので、胃を刺激して胃酸を促すアルコール摂取者のほうが治療成功率が高いというのは、おいマジか?という感じです。



[The effect of cigarette smoking and alcohol consumption on efficacy of Helicobacter pylori eradication]. - PubMed - NCBI
Pol Arch Med Wewn. 2000 Sep;104(3):569-74.

こちらは喫煙とアルコール摂取のピロリ菌除菌への影響を検討することを目的とした研究

The study was conducted on
142 H. pylori positive peptic ulcer patients treated with either OAT-omeprazole (2 x 20 mg), amoxycillin (2 x 1000 mg), tinidazole (2 x 500 mg) (69 patients) or OAC-omeprazole (2 x 20 mg), amoxycillin (2 x 1000 mg), clarithromycin (2 x 250 mg) (73 patients).

喫煙習慣と飲酒習慣を患者から聞き取り

Patients were defined as smokers if smoked 5 or more cigarettes per day and as drinkers if drank 25 g or more alcohol per week.
1日5本以上を喫煙者と定義、
1週間に25g以上のアルコール摂取を飲酒ありと定義

除菌成功率は、
OAT--69.6%, OAC--78.1%

喫煙習慣と飲酒習慣との関係は、、、
When two groups were analyzed together (OAT + OAC), the lowest efficacy of H. pylori eradication exhibited smokers who do not drink (53.7%) followed by smokers who drink (75.8%), non-smokers who do not drink (83.3%) and non-smokers who drink (92.9%)
詳細は、原著のアブストを見ていただくとして、ざっくり書くと、除菌成功率は、
飲酒あり・非喫煙者>飲酒なし・非喫煙者>飲酒あり・喫煙あり>飲酒なし・喫煙あり

この研究も、RCTとかではなく、①と同じような検討を行っている模様。

①では喫煙についてはとくに除菌に影響していないという結果でしたが、②では喫煙の除菌率低下が示唆



Smoking and drinking habits are important predictors of Helicobacter pylori eradication. - PubMed - NCBI
Adv Med Sci. 2008;53(2):310-5.

こちらは②と同じような研究でしょうか
レジメンも②と同じでOAC,OATの2種ってなってますね。

Drinking was found not to affect the efficacy of H. pylori eradication in any therapeutic group, while smoking decreased it in the OAC group (smokers 69.6%, non-smokers 94.3%, p=0.006).

こちらは飲酒は影響なしで、喫煙が除菌率を減らしていると。

CAMのレジメンのほうをみてみると、
in the OAC treated group, smokers-non-drinkers had lower eradication efficacy than non-smokers-drinkers and non-smokers-non-drinkers (59.1% vs 100% and 91.3%, p=0.01 and p=0.012, respectively).


飲酒の影響を調べようとしたら、喫煙が除菌率を下げそうだなという説が浮上

アルコールを気にしていたこのご質問の患者さんは喫煙習慣あり。
アルコールを気にするより、喫煙を控えたほうが良いのでは?と思えてきました。

ただ、①~③すべてRCTではないです。単一アームで除菌治療を行い、そのなかで比較検討していますから、介入試験とはいえ交絡の影響も考えなくてはならないのでは?という感じ。

日ごろの習慣により比較検討しているので、喫煙習慣で除菌率さがるかもっていうなら、じゃあ除菌治療時だけ禁煙すれば除菌率があがるのか?て言われるとなんともいえないですね。アルコールも然り。


結局もやもやしたままなんですが、

・アルコールの除菌への悪影響はなさそうなので、禁酒しろとまでは言えないですが、ピロリ菌による潰瘍や胃炎など発生しているなら、アルコールそのものが胃粘膜を障害するので注意ってことと、
・喫煙習慣があるなら、喫煙により除菌失敗の可能性が高まることが示唆されてるので、ためしに除菌治療中だけでも控えてみては?っていう感じで流れを作り、そのまま禁煙へと繋げられれば…

といった感じですね。

(★このレビューはあくまで医療従事者向けの考察です。除菌治療を受ける方で、主治医から飲酒喫煙について別途指示がある場合は、そちらに従ってください。また二次除菌などにおいて、メトロニダゾール(フラジール錠®、ボノピオンパック®、ラベファインパック®、ランピオンパック®など)を用いた除菌の場合は注意。メトロニダゾールはアルコールと相互作用があり、血中のアセトアルデヒドが増加し、腹部の疝痛,嘔吐,潮紅があらわれることがあるので,投与期間中は飲酒を避けることとされています。)

もっといろいろ文献がありそうですが、ここで力尽きました。(誤訳・解釈ミスがございましたらご指摘ください)
眠気MAX、やる気MIN…さっそく寝ましょう。おやすみなさい。