pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。

SGLT2iの大規模臨床試験 結果を統合したことによりパラドックスは起きるの?

SGLT2iのRCT、EMPA-REGもCANVASも結果を統合していたことをどう考えればいいのか?

自分は難しいことは良くわからないので、「優位性を示せなかった(p値が0.05を超えた)から検出力を上げるために統合した」んだろうな、くらいに考えてしまっていたのですが、シンプソンのパラドックスの可能性を考える必要があるとか…。

たとえば、下記のような2つの試験があったとします

ある新薬を投与することにより、プラセボと比べて死亡リスクが低下するか?

死亡 生存
新薬A10mg 2 100
プラセボ 1 100

新薬A10mgのリスク比は1.98

死亡 生存
新薬A20mg 50 50
プラセボ 500 1000

新薬A20mgのリスク比は1.5
どちらの試験も新薬Aのほうが死亡が増えています。

これを足し合わせると

死亡 生存
新薬A 52 150
プラセボ 501 1100

ああ、数字のセンスがないのはご容赦ください。
わかりにくくなってしまいましたが、
新薬のリスク比は0.82
となりますね

あれ?逆転している…

これがシンプソンのパラドックスです。
(システマティックレビューでは、各研究の症例数のバランスがバラバラなので、そのあたりも調整したメタアナリシスを実施することで、この問題は解消されるんでしょうね…。詳しくは知りませんが)

シンプソンのパラドックスでネット検索すればいろんな例がでてくるので参考にしていただければと思うのですが、このパラドックスがおきるのは、やはり症例数のバランスが悪い場合かなぁという感じがします。
たとえば、EMPA-REGはエンパグリフロジン10mg、25mg、プラセボで1:1:1でランダム化し、10mgと25mgを統合して有意差を持って死亡を低下させたという内容でしたが、1:1:1を2:1に統合して解析してしまった場合、パラドックスは起きるんでしょうか?パラドックスが生じないような気がしてしまうのは私だけ??

うーん。
よくわからない…。

これらのSGLT2iのRCTの結果について、研究デザインも踏まえて、みなさまはどう評価されていらっしゃるのでしょうか?

個人的には心血管イベントの抑制(主に心不全)については血糖降下作用によるものというより利尿作用によるものかなぁという印象…。血圧も下がってますしね。そもそも血糖降下作用の恩恵はほんの数年で得られないのでは?って思います。

心血管イベントの抑制に関してはEMPAもCANVASも似たような結果でしたし(多少、相違点もありますが)、保護的に働くのかな?なんて期待しちゃいますが、けっこう酷評されてますね。第一選択薬に近づいたのでは?という意見に意義あり!…みたいな。

個人的にはイベント抑制効果に対する疑義というよりは、性器感染症をはじめとした有害事象が気になります。CANVASでの下肢切断は悪い意味でインパクトがありました。他の薬剤ではいまのところそのような報告はなさそうですが(Lancet Diabetes Endocrinol. 2017 Jul 18. pii: S2213-8587(17)30257-7. )。
やはり、長期投与における安全性が気になるところですよね。


SGLT2iに限らず血糖降下薬を評価する上で気になる点は、
・糖尿病の合併症(主にMACE)の抑制という観点においてほんの数年のフォローでは微妙な結果だったとしても、じゃあ、10年後、20年後はどうなの?
・心血管死や総死亡に対する予防効果が微妙だったとしても、網膜症や神経障害、腎症はどうなの?微小血管障害の予防も重要では?(Lancet Diabetes Endocrinol. 2017 Jun;5(6):431-437. など) 


メーカーさんが資金提供した新薬のRCTは、当然のことながらきちんと吟味する必要はあると思うのですが、あまりにもバッサリバッサリって感じの意見だらけになると、逆に肯定的な部分を見出そうとしてしまう私…(これをあまのじゃくバイアスと名づけます)

SGLT2iよりもっと実績のある糖尿病治療薬がたくさんあるのに!ていう状況ならわかるんですけど、他も微妙ですからね。むやみに下げすぎなくてもいいだろうとは思いますが、メトホルミン投与してもコントロール不良の場合、次の一手はどうしましょう?食事・運動・メトホルミンで不十分な場合、薬を追加投与しなくて本当に良いのでしょうか?
悩ましいですよね。プラセボとの比較試験がいまいちな薬ばかりだからといって、そのまま追加薬無しだと微小血管障害が患者さんを苦しめることになるかもしれません。

EMPAとCANVASによってSGLT2iがメトホルミンに次ぐ2番手として最適!と結論付けていいとは思えませんが、バッサリ捨てるレベルでもないような…。SGLT2iが適しているのはどのような患者さんかを見極めていくことが今後の課題なのかなぁという印象です。