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pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。

炭酸リチウムとNSAIDs/RAS阻害薬

中毒・過量投与・有害事象 相互作用 精神神経科

炭酸リチウムの相互作用についてです。

あまり馴染みのない薬(いや、というかほとんど知らない)でして…、筆者より詳しい先生が世の中に溢れかえっていることと思いますが、まあ適当に文献漁ってみましょう。

まずは添付文書を見ると、併用注意はありますが、併用禁忌扱いの薬はないんですね。
ですが、併用注意というのが曲者で、さほど臨床的に問題ないものから、マジで注意しないとダメだよねっていうのもあったりして、添付文書ってなんなの?て感じがしてやまない今日この頃。


"PMDAからの医薬品適正使用のお願い" 平成24年9月(更新版)"炭酸リチウム投与中の血中濃度測定遵守について"で注意喚起されているとおり、適正な血中濃度が保たれない場合、リチウム中毒をきたすおそれがあります。

リスク因子は
・脱水
・食事や水分摂取不良
・相互作用
(腎機能悪化もリスクだと思います)

初期症状は、
・消化器症状(嘔吐、下痢など)
・中枢神経症状(手のふるえ、傾眠、錯乱)
などなど。
リチウムの利尿作用で喉の渇きもみられるようです。


PMDAの通知に、NSAIDs追加後にリチウム濃度が上昇した症例が載っていますね。

40歳代男性。双極性障害。炭酸リチウム600mg/dで維持
歯科よりロキソプロフェン頓服処方。
1日最低3錠、多いとき7錠(←多いッ)
頭痛、ふらつき、呂律緩慢→錐体外路症状かと思いきや、便失禁もみられ、リチウム中毒を疑い測定してみたら2.4mEq/L!
補液治療で改善。

(※添付文書によると、1.5mEq/L超えたら必要に応じて減薬or休薬、2.0mEq/L超えたら減量or休薬)


油断ならないですね、NSAIDs…。
"日本うつ病学会治療ガイドライン 双極性障害2011"によると、
原則、NSAIDsは併用すべきでない(リチウムの腎臓からの排泄が阻害)、とのこと。


古いですが、BMJにもケースレポートが。
Lithium and non-steroidal anti-inflammatory drugs. - PubMed - NCBI
BMJ. 1991 Jun 22;302(6791):1537-8.
60代女性の症例
ibuprofen 400mg four times dailyで、リチウム濃度4.2mmol/L(=mEq/L だと思います)


Ibuprofen can increase serum lithium level in lithium-treated patients. - PubMed - NCBI
J Clin Psychiatry. 1987 Apr;48(4):161-3.
こちらもイブプロフェン
ibuprofen (1800 mg/day) for 6 daysと、こちらも国内より投与量が多いです。
リアランスが低下し、リチウム濃度が上昇したとのこと。


Interaction of indomethacin and ibuprofen with lithium in manic patients under a steady-state lithium level. - PubMed - NCBI
J Clin Psychiatry. 1980 Nov;41(11):397-8.
インドメタシンイブプロフェンについて。
インドメタシンは濃度上昇、イブプロフェンはinconsistent(一貫性がない)とのこと。
イブプロフェンも1例疑わしい例があるみたいなことが書いてあります。
インドメタシンは特に注意といったニュアンスで書かれていますが、イブプロフェンが安全というわけではないでしょう。前述の2報でイブプロフェンも危ういことが確認されています。



Toxic elevation of serum lithium concentration by non-steroidal anti-inflammatory drugs. - PubMed - NCBI
Ulster Med J. 1991 Oct;60(2):240-2.
ケースレポートです。
ピロキシカムイブプロフェンの症例。
どちらも軽度のリチウム濃度の上昇ですが、振戦が発現しています。
全文フリーなのでじっくり読んでみることをおすすめします。



Lithium interaction with the cyclooxygenase 2 inhibitors rofecoxib and celecoxib and other nonsteroidal anti-inflammatory drugs. - PubMed - NCBI
J Clin Psychiatry. 2003 Nov;64(11):1328-34.
では、次。
COX2選択的阻害薬はどうか。
FDAのデータベースより、セレコキシブとrofecoxibを調査したところ、やはりリチウム濃度上昇の報告があった模様。
NSAIDs(COX2選択的阻害薬も含む)の開始or中断時はリチウム濃度をモニターするべき、とのこと。



Effect of over-the-counter dosages of naproxen sodium and acetaminophen on plasma lithium concentrations in normal volunteers. - PubMed - NCBI
J Clin Psychopharmacol. 1998 Jun;18(3):237-40.
健康なボランティアに実験的に投与した研究報告

リチウム1日600mg投与。
そして、アセトアミノフェンとナプロキセンの追加投与(各5日間)で血中濃度の推移をみています。
さほど変動はみられなかったようですね。
12名募集、試験完遂は9名。これだけのデータで安全と言い切れるかはなんとも…。


こちらはリチウムの相互作用についてのレビュー
Clinical relevance of drug interactions with lithium. - PubMed - NCBI
Clin Pharmacokinet. 1995 Sep;29(3):172-91.

サイアザイド:リチウム濃度上昇の可能性(25 to 40% increase)
ループ利尿薬・カリウム保持性利尿薬:多少、影響する。
NSAIDs:リチウム中毒と関連あり
ACEi:リチウム除去を損なうと示唆されているが、さらなる研究が必要


ACEiや利尿薬もリチウムの添付文書に併用注意として載っていますね。

では、その程度は?
Drug-induced lithium toxicity in the elderly: a population-based study. - PubMed - NCBI
J Am Geriatr Soc. 2004 May;52(5):794-8.
研究デザイン:Population-based nested case-control study
対象:66歳以上のリチウム服用患者
アウトカム:リチウム中毒
これが謎の結果となっていて、
ループ利尿薬:RR5.5(95%CI 1.9-16.1)
ACEi:RR=7.6(95%CI 2.6-22.0)
サイアザイドとNSAIDsは有意差なし

ACPジャーナルでも取り上げられており、利尿薬について言及されてますが、難しすぎて理解不能…。
尿細管の電解質の挙動をイジる薬剤はリチウムの再吸収・排泄になんらかの影響を与えるのは間違いないかと思います。
どちらも要注意ってことで。

NSAIDsで著名なリスク上昇がみられなかったのは、リアルワールドでは十分に注意して処方されているからでしょうか。

AAFPではNSAIDs併用が必要とされる場合にはリチウム投与量を50%減量し、注意深くモニターをと推奨されています
Am Fam Physician. 2000 Mar 15;61(6):1745-1754.
併用注意だけど、使う場合にはこうしようねって指標を明示しているのはありがたいですね。素敵です。
AAFPバンザイ!!


相互作用まみれでわけがわからなくなってきたので、最後に薬剤師的にポジティブな内容を。
薬剤師の薬学的介入がリチウム中毒の進行を防いだ症例
ACEiの併用でリチウム中毒をきたした症例です
日本語ですから読みやすいですよ!
日本語バンザイ!!!


結局のところ、NSAIDsはやはり要注意で、ただの軽い風邪で安易に併用するのはどうかと…。
喉が痛い!ていってもロキソプロフェンのRCTの結果、微妙でしたしね(風邪!!! - pharmacist's record
アセトアミノフェンのほうが安全性が高そうですが、決定的なデータは見つけられませんでした。健康なボランティアに実験的投与した文献からすると、短期間の使用ならそこまで強い影響はないかもしれませんが、断言はできません(なにかいい文献があれば教えてください)

リウマチなどNSAIDsの投与が必要な場合には、リチウムを減量するなど、注意深くリチウム濃度をモニターしていく必要がありそうです。

ACEiやARB、ループ利尿薬、サイアザイドなども、高血圧などにより必要とされるのであれば、安定するまでリチウム濃度に要注意ですね。
ACEiによるリチウム中毒は3~5週後に発生しているケースが多いようなので(最後に紹介した日本語の文献より)、併用数日間注意すればいいというわけではないことも留意しましょう。

まあ、こんなふうに文献をこねくりまわすより、実際にリチウムを臨床で扱っている先生方のほうがお詳しいんじゃないでしょうか汗。
なにか良い情報があれば教えてください~。