pharmacist's record

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水いぼ(伝染性軟属腫)にヨクイニンエキスは有効?(DB-RCT)

水いぼに使用されるヨクイニンエキスですが、その有効性はどの程度のものでしょうか?
ヨクイニンは英語でCoix Seedというそうなのですが、Pubmedではピンとくるものがありませんでした。
かなり古い(昭和62年)のですが日本国内のRCTがありました。

伝染性軟属腫に対する「ヨクイニンエキス散」の臨床効果
皮膚 Vol. 29 (1987) No. 4 P 762-773

イントロダクション:伝染性軟属腫は小児にみられるありふれた疾患で、治療法は古くはピンセットによる摘出。ただし、再発も多く、苦痛を伴う。一方で自然消失することも知られている。ハトムギの種子であるヨクイニンのエキス(好中球の産生する活性酸素を抑制するとされる)を投与し、有効であったという報告がある。

研究デザイン:多施設(29施設)二重盲検ランダム化群間比較試験("薬剤の割り付け"の項目に「無作為化」の記載あり)、ITT解析ではない(脱落・中止例は解析から除かれている)
P:2~15歳
E:ヨクイニンエキス散(小太郎製剤 重量比1/3のヨクイニンエキスを含有) 体重30kg未満;1日6g、体重30kg以上;1日12g 分2または分3
C:プラセボ
O:結節の数/大きさ、副作用、全般的改善度(1~6, 1治癒、6悪化)など多数。(プライマリとしての記載はない。)試験開始前、4週目、8週目、12週目で評価。

試験期間:12週

<患者選定基準>
年齢:2~15歳(服用可能ならば2歳以下もOK)
性別、外来/入院:不問
外科的処置:原則行わない(やむをえない場合、丘疹または結節の一部を処置)
ヨクイニン服用している場合、3ヶ月以上のwash out期間を置く

※担当医が不適当と判断した患児、重症感染症などの合併症を有する患者は除外

<患者背景>
(第4表)
体重20kg未満が約6割、30kg以上は約1割
スイミングスクール約2割
結節の大きさ:米粒より小75%
結節の数:10個以下2割、21個以上4割

3~5歳が約半数を占め、好発年齢がこの年齢層と示唆される。
約70%に合併症あり、その大部分がアトピー性皮膚炎。

<症例構成>
総例数
ヨクイニン:166→有効性検討症例91例(71例、解析から除外)
プラセボ:173→有効性検討症例101例(68例、解析から除外)

治療不遵守(服薬拒否、コンプライアンス不良) 中止(悪化、不変、服用困難など) 脱落(受診せず、転居など)
ヨクイニン 18例 15例 38例
プラセボ 13例 16例 39例

  
<結果>
結節残存率

4週目 8週目 12週目
ヨクイニン 83.5% 71.4% 55.9%
プラセボ 92.1% 71.3% 58.5%

有効性

著効 有効 やや有効 無効 逆効果
ヨクイニン 35.2% 26.4% 20.9% 15.4% 2.2%
プラセボ 28.7% 26.7% 15.8% 26.7% 2.0%


有害事象(計3例のみ)
ヨクイニン:下痢2例
プラセボアトピーの悪化1例


<感想>
まずは製剤について。
現在市販されているヨクイニンエキス散コタロー®も「6g中にヨクイニンの水製乾燥エキス2.0gを含有」ということで成分量は同じと思われますが、小児にも高用量で治療した模様(体重30kg未満;1日6g、体重30kg以上;1日12g)。

http://www.kotaro.co.jp/iryou/seihin/if/if_tp072.pdf
現行の製品のIFでは、Von Harnackの換算を推奨
12歳:成人用量の2/3 [1日2.0~ 4.0g]
7.5歳:成人用量の1/2 [1日1.5~ 3.0g]
3歳:成人用量の1/3 [1日1.0~ 2.0g]
1歳:成人用量の1/4 [1日0.8~ 1.5g]

苦味の強い製剤ではない(メーカーさんに聞きました)とはいえ、量が多いと服用を嫌がるお子様も多くなるでしょう。ドライシロップのように完全に溶けないみたいです(これもメーカーさん情報)
そして、それだけの量を服用しても、プラセボとの差は小さいです。
プラセボ効果というより、やはり主に自然消退にて治癒する皮膚疾患といえるのかもしれません。

治療開始4週目の結節残存率の差より、著者らは、有効性を示すのに4週の投与を要するとの考察。
また、有効性における無効例の差が強調されていますが、そもそもこの試験は、解析から除外された割合が多いですので微妙なところです。

安全性についてはまあ問題なさそうです。ヨクイニン群では下痢が2例(プラセボは無し)ということで、もしかしたら下痢する子もいるかも?といったところでしょうか。
投与するなら、4週目で効果判定をしてみたほうが良さそうですね。


ヨクイニン製剤を使わないとなると、
自然消退を待つか、ピンセットでつまみとるか、などいろいろDrによって意見がわかれているようです。

ピンセットで摘み取る処置を行う際の疼痛緩和として、リドカインテープが用いられることがあるようです。
去年、こんな報告が。
伝染性軟属腫摘除時の疼痛緩和に対する ペンレスⓇテープ18 mg(リドカインテープ剤)の有効性と 安全性に対する検討(小児特定使用成績調査)
日本臨床皮膚科医会雑誌 Vol. 32 (2015) No. 2 p. 202-218
結論だけ抜粋すると、"ぺンレステープ18mg®の「伝染性軟属腫摘除時の疼痛緩和」に関する4歳未満を含めた小児における有効性と安全性が確認された"とのこと。
伝染性軟属腫の摘除の際の疼痛緩和として、正式に適応も通っているようですが乳児は安全性未確立。
安全性が確認されたといってもアナフィラキシーの注意は必要かと思います。

留意すべきは、ぺンレステープ®は院外処方はできないということです。
(マルホさんの"伝染性軟属腫摘除時におけるペンレス®テープ18mgの使用方法および保険請求について"より)
手書き処方でうっかり院外に出さないようご注意頂きたいですね。